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第47話 ぷてろすてぃりすと!4

「ゲームはこのカードを使って行うわ。レーネ」


「はい、ボス」


 クラリッサがレーネに向けて手を伸ばすと、レーネは自らの懐から手のひらサイズの四角い箱を取り出し、クラリッサへと手渡した。


 そっと箱を開けるクラリッサ。

 中身はカードの束だ。クラリッサはそれを取り出し、慣れた手付きでシャッフルする。


 あのカードはもしや……。


「クラリッサさん、それ見せて貰ってもいいですか?」


「え? いいけど、普通のカードよ」


 不思議そうな顔でカードを差し出すクラリッサ。俺はそれをゆっくりと受け取り、広げてみた。

 クラブ・ダイヤ・ハート・スペード。一から十三までの数字が描かれ、十一から十三の三枚には絵柄がついている。それにジョーカーが二枚の計五十四枚。

 これは間違いなく俺の世界にもある、トランプそのものだった。


「すいません、ありがとうございました」


 トランプだと分かったので、クラリッサに返す。


「昔からあるカードよ。あれね、朔夜は意外と疑り深いのね」


 ニヤリと笑うクラリッサ。いらぬ勘ぐりをしたつもりは無く、ただトランプかどうかだけ確かめたかったのだ。

 それにしても技術というか、こういう娯楽の類いまで再現している人がいたのか。オセロもそうだったが、ある程度昔から存在するようなのだ。やはりこれは偶然では無い。この世界には俺と同じように、流れ着いた者が確実にいたのだ。元の世界に帰ることが出来たのか、それともこの世界で暮らし続けたのか。その人物の末路はどういうものだったのか、俺はとても気になった。


「今からやるのはインディアンポーカーというゲームよ。朔夜は知ってる?」


 鮮やかな手さばきでシャッフルをし続けるクラリッサが問い掛ける。


「名前だけしか知らないですね。やったこと無いです」


 トランプは大富豪とババ抜き、七並べや神経衰弱をやったことがあるくらいだ。

 プレイしたことは無いが、ポーカーという言葉から、敷居が高く素人には向かないイメージが先行する。世界大会なども開かれているし、カジノでするようなゲームだ。俺はまず、ルールを把握出来るのか不安になる。


「知らないのね。じゃあ今から説明するわ」


 そう言ってクラリッサはトランプの中から絵柄の付いたカード十ニ枚とジョーカーを一枚抜き取る。


「使うのはスート四種類の一から十までで、それにジョーカーを一枚足した計四十一枚よ」


 抜き取ったカードの束はケースに仕舞い、テーブルの隅に寄せる。


「そしてこのカードをシャッフルして、私が山札の上から一人一枚裏返しで配るわ。そのカードを受け取ったら、自身のカードは絶対に見ないで額まで持ってくるの」


 クラリッサは山札の上からカードを一枚引き、自分の額にくっつけた。

 カードの数字はハートの七だ。


「自分のカードの数字は分からないけど、人のカードは見える状態になるわよね。これで数分間話し合い、各々の言動から自分のカードの数を大体でいいから予測するの。そして、自分よりも他人のカードの数が大きいと思ったら、変更させるよう話術で言い負かすって感じよ」


 ポーカーの難しいイメージとは反対に、意外とこのゲームは単純だ。テーブルトークをするだけなのだから。後は状況判断と運が絡んでくる。


「大体分かりました。が、質問が二つあります。変更出来る回数を教えて下さい。それと、数字が大きい方が勝つってことですよね?」


「そうね、そこはまだ言って無かったわ。変えられるのは一人一回だけということで。変更したかったら親役にお願いすること。それにもちろん、カードの数が大きい人が勝利よ」


 クラリッサは額のカードを山札に戻し、再度シャッフルをする。


「分かりました。ですが、罰ゲームをするのは勝者以外ですか?」


「ふふ、それだと四人も脱ぐことになるじゃない。逆よ逆。罰ゲームは数が一番小さい人だけよ。つまり、最下位にならなければ良いだけなのよ。簡単でしょう?」


 妖艶に微笑むクラリッサ。

 最初は断ろうと思っていたが、ここまで説明してくれたのだ。男として引き下がる事は出来なくなった。

 それに……一試合で上位四人に入ることが出来る確率は八十パーセント。考えられない程、高確率で負けることは無いのだ。

 目の前には美少女が四人。そんな彼女達の普段は布に隠れて見えないところが露わになる。これは人生最大のチャンスだ。逃すことは絶対に出来ない。だが、あまりがっついてしまっては心象が悪くなる。あくまで、渋々了承したという表情を取り繕うのだ。


「はぁ、分かりました。付き合いますよ……」


 口元を手で覆い、思わず浮かんでくる笑みを必死で隠す。眉間に皺を寄せているので、苦渋の決断だと周りからは見えるだろう。

 賭けというのは、リスクが大きければ大きいほどリターンも大きくなる。普通は、負けることを恐れた戦い方では快勝することは出来ない。でもこのゲームに限ってはそれが一番最適なのだ。平凡な俺だからこそ、最下位にならないための無難な戦いをいざ、しようじゃあないか。


「よし。それじゃあ始め……あ! ジョーカーの説明がまだだったわ。ジョーカーは一番強い最強のカードよ。誰かが持っていたら、変更させるよう説き伏せるべきね。それと、勿論私が親よ。だってこの家の家主、そう、女王ですから」


 ニヤリと意味深な笑みを一瞬見せるクラリッサは、自分が納得するまでシャッフルをした後、時計回りに、レータ、レーネ、リーゼ、俺、最後にクラリッサ自身という順に伏せたカードを一枚ずつ配った。


「四十一枚のカードがあるから、四回やったら山札はリセットよ。覚悟はいい? チップは自分の衣服。負けた人はすぐ脱ぐこと。じゃあ行くわよみんな! セット!」


 皆が一斉に配られたカードを額に掲げる。


 まずは向かいに座っている三人を見る。レータはダイヤの三、レーネはハートの九、リーゼはスペードの七だ。隣のクラリッサはクローバーの六。俺自身の数は分からないが、レータが三と一番低いので、そのままにさせるよう余計な事は喋らずいこう。レーネは勿論、リーゼも七と比較的高いので、変更させたい。


「うひひ、朔夜クンはそのままでいいんじゃないかなぁ」


「そう、かも」


 開始早々に発言するリーゼと、それに同意するレータ。


 二人に言われたことで、反対に変えたほうが良いのではないかと考えてしまう。周りの誰かより数字が低いからの発言と捉えるべきだ。だが、もし本当は高い数字で、俺の変更を望んでいるとしたら……。

 いやいや、これはブラフだ。変えた方が良いに決まっている……気がする。

 ここはあれだ。思考の渦にはまってしまう前に、俺からも攻撃を仕掛けるべきだろう。


「そういうリーゼさんも変えた方がいいんじゃないですか」


「んー、私はこのままでいかな!」


 やたらと強気なリーゼ。俺の話術では変更させるのは難しそうだ。ここでもコミュ障が仇となる。この世界で過ごしてみて少しは改善したかと思ったが、気のせいレベルなのかもしれない。


「レータは変更した方がいいんじゃない? リーゼとレーネはそのままでいいけど。朔夜は……変更をおすすめするわ」


 クラリッサは朗らかな笑みでそう発言した。

 皆のカードを見ると、クラリッサの言ったことは合っている。確かにリーゼとレーネはそのままで問題無いが、レータはダイヤの三と、変えた方が賢明なのだ。


「私は、このままで、いい」


 レータは変更を拒絶した。彼女は自身の勘を信じるようだ。この選択、俺としてはありがたい。これでレータはプテロスティリスの中で一番低い数のままだ。


「じゃあ私はボスを信じてこのままで。ボスも変えなくていいと思うっすよ。朔夜クンもそのままでね。あははっ」


「私も、変え、ない」


「そう、良い判断だわ。じゃあ私も変更無しで。で、朔夜はどうするの?」


 ハートの九と、一番数字が大きいレーネは変更させたかったが、リーゼに断られた手前、コミュ障が発動してしまって声を発することが出来なかった。


 このまま行けば最下位がほぼレータで確定だ。だが、もし俺のカードがダイヤの三以下だったらと思うと……怖い。リーゼはニタニタとした笑みで俺に変更しなくていいと言っている。如何にも信用出来ない雰囲気でだ。

 少し疑心暗鬼に陥りそうになるが、皆のカードを見ても、クラリッサは本当の事を言っているように思える。ここはクラリッサを信じて、俺は変更することにしよう。まだ一回目で余裕があるうちに、クラリッサが嘘を言うのかどうか見極めるのだ。


「じゃあ変えます」


「わかったわ。はい、これ」


「えー、つまんないのぉ」


 クラリッサは山札から一枚、カードを伏せて差し出す。

 俺はそれを受け取り、額のカードをゆっくり下ろした。


「あ、これって見ても大丈夫なんですか?」


「ええ、捨てるカードは見てもオーケーよ。変更宣言をした後だもの」


 掲げていたカードを表にしてテーブルに置く。気になるカードの数字は――――クローバーの二。五人の中で一番低い数字だった。

 

「ふう……」


「ふふ、変えて良かったでしょ?」


 天使の微笑みを見せるクラリッサ。

 彼女の言う通りにして正解だった。それと俺の勘は当たっていて、リーゼは嘘を吐いていた。


「ありがとうございます、クラリッサさん」


「ちぇー、なんで朔夜クンは私を信じないのぉー」


 唇を尖らせるリーゼ。口調とは裏腹に口角が上がっていて、本気で怒っているわけでは無いことが分かった。


 変更したにもかかわらず、レータより数字が低い可能性もまだある。だが、確率的に三より大きいカードを引く可能性の方が高い。

 自身に大丈夫だと言い聞かせる。だが、ここで一つ疑問が浮かぶ。


「あれ、そういえば同一の数字で複数人が負けた場合ってどうなるんですか?」


「同数で最下位でも、負けた人が罰ゲームよ。たとえ二人でも三人でも」


 最下位はたった一人だと勘違いしていた。でも今更だ。勝負は降りられない。

 一瞬ピンチかと思ったが、考えてみるとこれは幸運かもしれない。上手く行けば、同時に美少女が服を脱ぐシーンを見ることが出来るのだから。


「コホン……そうですか。分かりました」


「では皆、開示しましょう。カードを表向きでテーブルに置いて」


 各々が、少しだけ緊張した面持ちでカードをテーブルに置く。


 最初と変わらず、レーネはハートの九、リーゼはスペードの七、クラリッサはクローバーの六だ。


 そして俺のカードは――――クローバーの十。一番高い数字だった。


「うぇぇい! リーゼちゃんセーフゥ!」


「やっ、た」


「まぁこんなところね」


「負け、ちゃった」


 最下位はもちろんダイヤの三のレータだ。

 俺はテーブルの下で拳を固く握りしめる。もう頭の中はレータのストリップショー大開演だ。普段は袖の長い服を着ていて、あまり肌を見せない双子。そんな双子の姉が服を脱ぐのだ。脱衣時に発せられる衣擦れ音を想像しただけで、全身の毛穴から謎の液体が吹き出してしまいそうになる。


「レータ。脱ぎなさい」



 クラリッサは笑顔でレータに言う。


「分かった、ボス」


 もしスカートから脱いだらどうしようと、変態的な期待を込めた視線でレータを見てしまう。そんなことはありえないだろうが、思考の暴走が止まらないのだ。


 レータはおもむろに下を向き、椅子から数センチ腰を浮かせた姿勢になる。テーブルの下で見えないが、どうせ膝まである靴下を脱いでいるというオチだろう。きっとそうだ。


 そして、彼女は脱いだモノを皆に見えるように掲げる。


 期待しすぎても、裏切られた時のショックがでかくなる――――え? 俺は白く輝く神の布に、考えるのを止めた石像のような表情になる。


 レータが右手に持って掲げているそれは、どこからどう見ても女性用下着だった。


「はい」


 堂々と右手にショーツを持つレータに、俺は神様の存在を確信した。気づかぬ内に徳を積み重ねてここまで生きてきたのだ俺は。


「あら、潔いわねレータ。朔夜、フォークを落としたフリをしたら殺すわよ」


「そそそ、そんなことしゃぁせんよ、へへ」


 思わず、悪代官に媚びを売る越後屋のようになってしまう。本当にクラリッサが言ったことを実行する勇気は無い。脱ぎたてのソレを見ることが出来ただけで充分なのだ。



 ――――この時だろう。自分でも気づかない内に深層心理で勝利の味に酔いしれ、つけ上がってしまう要因になったのは。



「じゃあ二戦目も行くわよ」


 鼻の下を伸ばしながらもレータを見ないよう我慢する朔夜を、クラリッサは内心でほくそ笑むのだった。




 十分後、二戦目の敗者が決まる。


「あちゃー、朔夜とボスが言ったことを信じて変えなきゃ良かったかな」


「ふふ、私はそのままって言ったのに、リーゼはすぐ裏を読みたがるんだから」


 二回戦目で負けたのはリーゼだった。

 俺はというと一位で上がり、大勝利を収めたのだ。

 しかも最強の手、ジョーカーを引くという大幸運だ。必死に変えさせようとするレータとレーネとリーゼに違和感を覚え、変更しなかった結果掴んだ勝利だ。


「やった」


「勝った」


 レータとレーネは片手でハイタッチをしている。


「分かってるわね、リーゼ」


「はーいボスぅ」


 リーゼは普段から明るい雰囲気で、人前で脱ぐのも抵抗が無さそうなイメージがある。

 だが、そんな彼女も女の子だ。レータのようにショーツから脱ぐという暴挙はしないはずだろう。


 最初にインパクトがあり過ぎた分、ここでしわ寄せが来るに決まっている。どうせ靴下を脱いで仕舞いだ。

 俺はまた興味が無さそうな表情を取り繕いながら、薄目でリーゼの動向を追う。


 この世界は中世と近代のヨーロッパや俺がいた世界の文化が混ざり、独自の文化として発展している。

 リーゼが今着ている服にも勿論その影響が伺える。中世の城のようなこの屋敷内にもマッチしている、現代チックなセーター姿なのだ。そんなオシャレなセーターの裾に手をかけるリーゼ。


「よいしょっと!」


 彼女はなんと、そのセーターを豪快に脱ぎ捨てた。


「あっ、ぱれ」


「リーゼ、大きい」


「うんうん。いいわよリーゼ」


 セーターの下には、黒いキャミソールを着ていた。そしてそのキャミソールの胸元は大きく開いており、大きくやわらかそうな乳房と、薄っすらと汗が浮かぶ谷間が見えた。


「えへへ、ちょっと恥ずかしいですな」


 男勝りで明るいイメージのリーゼが一転し、大人な感じの、いや、妖艶な夜の雰囲気を醸し出す。そんなギャップも良いのだが、問題は大きい胸だ。照れた表情と、アルコールで赤みがかった頬。それに恥ずかしいのか腕を組む仕草のせいで、より強調されるのだ。大きな乳房が。


「どう? 朔夜。何か言うこと無いの?」


 クラリッサは笑顔で意地の悪い質問をぶつけてくる。


「そ、そりゃ、さいこ……いやいや、あの、大人っぽくて、キレーすね、ハイ」


 チラリとリーゼを見ると、彼女もこちらを見る。自然と目が合うが、それは一秒にも満たない間だった。より頬を赤らめた彼女の方が目線を横へとずらしたのだ。


「あんまり見ないでくれると助かるかなー……なんて。えへへ」


 照れた表情に上目遣いという普段のリーゼらしからぬ仕草に、可愛い以外の語彙が消失する。


「あっ……ご、ごめんなさい、リーゼさん」


「ふふ、じゃあ次の勝負を始めましょうか」


 そう言って山札の上から一枚ずつ配るクラリッサ。


 こうして夜は更けていくのであった。

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