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第4話 焦り

 昼過ぎに冒険者ギルドから出て、夕飯の食材を市場で買ってから帰宅する。

 今日は奮発してお肉を沢山買って来たから、ミアは大喜びするだろう。今から楽しみだ。


「ただいま」


 玄関の鍵を開けて中に入るとミアの靴が無い。図書館にでも出かけたのだろう。


「よし、まずは食材置いて、部屋で着替えてこようかな」


 ダイニングまで移動し、テーブルに食材を置く。するとテーブルの中央に一枚の紙が置かれてあるのを発見したので、手に取って読んでみる。


「なんだろう? ミアからだ」


 紙には、『お姉ちゃん、ダンジョンに行ってきます。災厄の魔物はミアが倒すから心配しないで!』と書かれている。



 えっ?……ミアが災厄の魔物と戦う?



 王国騎士団でも敵わなかった化物と?遭遇したら最後、原型が分からなくなるほどグチャグチャにされて殺されてしまうのではないか。そんなこと、想像しただけで泣きそうになる。いやだいやだいやだ。まだミアは子供なのに。

 魔法の才能があるからと沢山褒めたのがいけなかったのか?災厄の魔物との死闘を想像して私が暗い顔をしてたから?いいや、家では明るく振る舞っていた。分からない。分からないよ。なんであの子は……。


「もうっ! ミアッ!!!」


 私室に行き、急いでダンジョンに潜るための装備に着替える。それからアイテムが入った袋と、身の丈程ある魔法行使用の杖を手に取り玄関まで走った。玄関に着くと戦闘用のブーツを素早く履き、家を飛び出した。


 目指すはダンジョン。その入口は城壁の内側にあり、他国と比べても珍しい作りになっている。

 ギルドの偵察隊の情報では、災厄の魔物は十層から上にいるらしく、いつ地上に出てくるか分からない危険な状況だ。あの年齢では破格な上級魔法を使えるミアの実力は、同年代の魔術師と比べればずば抜けているが、最下層から上ってくる化物に比べたら到底……。


 前にダンジョンに一緒入った時は私達のサポート有りきだが、余裕をもって扉の守護者(ヴェヒター)を倒していた。だからそう簡単にやられたりはしないはず。


 ミアを思う度、悪い想像が頭を過ぎるが、足だけは止めない。私は全速力でダンジョンに向かって走る。息が上がり、心臓が痛む。両足は乳酸が溜まって感覚がしだいに無くなっていく。


「お願い、お願いしますっ! 間に合って」


 私は数十分、全力で王都内を駆け抜け、やっとのことダンジョンの前に着いた。

 ダンジョンの入口は白い石材で作られており、内側は黒く大きい穴が広がっている。入口の後ろ側はというと、土が固められており、盛り上がった丘のようになっている。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


 肩で息をしながらも足を止めない私に、ダンジョン前で警備している王国第三騎士団が声を掛けてくる。


「君! そんなに急いだら危ないじゃないか! ただでさえ今は災厄の魔物が……」


「すみません! これ、許可証です!」


「悪いが今は誰も入れてはならな……おいっ!」


 首に下げたダンジョン入坑許可証を見せ、暗く中が見えない入口に全力で飛び込んだ。


 

 一瞬で視界が森に変わる。ダンジョンの一階層だ。何度も来ているから迷わないである程度下まで行けるが、問題はミアがどこまで下りたのかだ。一~四階層までは魔物も弱い。もし手こずるとしたら扉の守護者(ヴェヒター)が現れる五階層だ。あの子ならそれも一人で簡単に倒せてしまいそうだが。

 そうと決まれば五層まで最短ルートで一直線だ。幸いミアはダンジョンに慣れていないので、すぐ追いつけるかもしれない。

 数回深呼吸をして息を整えてから私は杖を構え、早足で進みだした。




 五階層に続く階段を下り終えて、白い部屋にある扉を開ける。ここまで来る途中、ミアの足跡らしきものを複数発見した。それらを見るに、一人で潜ったことのないミアは、案の定迷ったりしていたようだった。

 このペースだと追いつくのも時間の問題だろう。

 それと五階層からは少しだけ魔物が強くなる。でももっと深い層まで攻略したことがある私には余裕だ。ここも最短ルートで進もう。

 扉から少し進むと、新たにミアの足跡を発見した。魔物と戦ったような跡も残っている。無事に勝って進んだみたいだが……。


「ミア……」


 心配でたまらない。あの子には命がけで戦う冒険者なんて似合わないのだから。

 私は天に祈る。まだ災厄の魔物と遭遇していないことを。


 ミアの足跡が途切れるまで追うと、草陰から魔物が飛び出してきた。

 ブラックラビットだ。威力が高い蹴り攻撃を主体とするモンスターだが、蹴りを繰り出すタイミングで少しジャンプするモーションがあるため、先読みして回避しやすい。ホワイトラビットという色違いの魔物も存在するが、威力があまり高くない頭突き攻撃をしてくるだけなので、ブラックラビットほど脅威ではない。ちょんちょんと攻撃してくるだけなので基本はスルーだ。


 飛び出た勢いのままブラックラビットはこちらに向かって蹴りを放つ。いきなりで驚いたが、それをギリギリで躱し、身の丈ほどの杖を側面から叩きつける。打撃を受けたブラックラビットは吹き飛んで地面に激突すると、そのまま動かなくなった。しばらくすると死体は光になって消える。あっけないかもしれないが、私と比べると低レベルの魔物だから余裕を持って対処出来た。冒険者になりたての頃は、見た目が可愛いウサギだからと心が痛くなったものだが。


「ふう、先を急ごう」



 木々を抜け、数十分ほどで五階層の扉の守護者(ヴェヒター)がいる部屋の扉の近くまで辿り着いた。途中ジャイアントアントやクイックビーなどにも遭遇したが、魔法を行使するまでもなく杖で殴り倒した。


 次の階層に行くためには、この扉の先に居るであろう扉の守護者(ヴェヒター)を倒さなくてはならない。いくら低層とはいえ、相手は強大な魔物だ。気を引き締めなければいけない。


 覚悟を決めて扉の前に立つと、音を立てながら自動で開く。

 目の前には白いドーム型の空間。天井は高くとても広い。


 一部の地面には激しい戦闘の傷と焦げ跡。

 ダンジョンの自己回復機能で一定時間経つと元の綺麗な状態に戻るはずだが、戦闘の痕が現在進行形で増えている。



 その原因は部屋の中央。


 そこにいるのは――。

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