表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/60

第36話 エミリーとダンジョン攻略

 ダンジョンの入口で警備をしている騎士団員へ、首にかけた入坑許可証を見せてダンジョンへ入る。

 やはり王立図書館の兵士とは違い、やる気がなさそうに感じられた。エミリーやレオから聞いた話では騎士団は第一から第三まであるらしく、第三騎士団はあまり素行が良くない者たちが多いとか。

 逆にエリートのような雰囲気の、図書館の兵士はどこの所属なのだろうか、少しだけ気になった。


 久しぶりのダンジョンは特に変化はなく、森のようなフィールドだ。

 ここに来るのはレオに喧嘩を売られた時以来だ。何故久しぶりに感じるのかは、最近色々な出来事があったからだろう。

 ずっと部屋に引きこもってゲームばかりしていた俺がダンジョンの最下層に転移して、彼女達と出会って、遠くの村まで治療に行って巨大な魔物を倒して。

 本当に濃密な時間だった。


 でも俺は元の世界に帰らないといけない。ちゃんと高校を卒業して大学に行ってそこそこの会社に入る。そんな平凡な人生を送りたいんだ。たとえこの力が無くなったとしても。

 scoなどのゲームはいくらでも買えるようになるだろうし、未練は無い。

 このダンジョン探索で、実家へ帰るための手掛かりを見つけるんだ。


「朔夜さん、とりあえず五層までは最短ルートで進みますね」


 一層に入ってすぐ、俺の前を歩くエミリーはそう言った。


「五層までは扉の守護者(ヴェヒター)がいないんだっけ。それになんだか初心者っぽい冒険者が多いな」


 このダンジョンは一層一層かなり広いが、それでもこのルートでは沢山の冒険者とすれ違う。身なりが良かったり強そうな雰囲気だったりでベテランと初心者の区別は大体ついた。


「はい、いません。それと五層までは魔物も弱いですし、初心者にとってはダンジョンに慣れる意味合いもあるので、一層から四層を探索しているんです」


 俺も初心者だからここらを歩き回った方がいいのかと一瞬考える。


「朔夜さんは旅をしてきて、いろんなダンジョンに入ったのではないですか。それにここ、ヴァルトだってかなり下の層まで降りたみたいですし」


 エミリーは世間話程度の話題を振ってきているようだが、俺にとっては応えづらい質問だ。

 旅なんかしたことはない。精々修学旅行くらいだ。基本ゲーム好きのインドアニートだから外に出るより家でVRモノをプレイした方が楽しかった。いや、ニートではなくサボり魔不登校か。

 それとヴァルト……は、このダンジョンの名前か。久々すぎて忘れていた。下の層ではなく、最下層だ。一番下からやって来たんだ。俺も何故そんなところにいたのか神様に聞きたいくらいだが。


「そ、そうだな、色んなダンジョンがあったな。まぁ、それはそれとして、そろそろ扉の守護者(ヴェヒター)がいる部屋じゃないか」


「ふふ、なに言ってるんですか朔夜さん、ここは一層の中ほどですよ。まだ先です」


 笑うエミリー。

 俺は誤魔化そうとトンチンカンなことを言ってしまい、顔から火が出そうだった。

 ちょっとでもテンパってしまうと、こう変な事を言ってしまうのは直さないといけないな。


 それからあまり魔物と戦うことはなく、五階層の扉の守護者(ヴェヒター)がいる部屋の前についたのだった。



「エミリー、この先の魔物ってどんな奴だったっけ」


 どんな奴もなにも、俺は見た事すらないが、一度下まで進んだことがある設定だ。あくまで確認するだけみたいな空気を出してエミリーに聞いてみる。


「大きいホワイトラビットですね。頭突きにさえ気をつけていれば簡単です」


 あの魔物か。黒い方は草の陰から猛スピードで飛び出してきて危ないが、白い方だと簡単に倒せそうだ。


「そうだ、あともう一つ。俺達が扉を開けた時に先にいたパーティーが扉の守護者(ヴェヒター)と戦闘中だった場合はどうなるんだ?」


「朔夜さんでも分かりませんか。不思議と他のパーティーとかち合うことは無いんですよねぇ」


 数多のダンジョンを攻略してきたと勘違いしているところ悪いが、これが初めての生身で戦うボス戦だ。そんな俺に部屋の仕組みなど知るわけがない。

 何かと悩む事も多いが、一つだけ良い事がある。エミリーと二人だけの空間なら第三者にこの能力が漏れる心配はないということだ。やっと全力を出せる。


 俺は腰に下げた童子切を確認し、扉の前に立つ。すると扉は自動ドアのようにゆっくりと開いた。


 エミリーと同時に部屋の中に入る。白く広い空間は相も変わらず、彼女たちと初めて会った時のことを思い出させた。


 少し進むと、部屋の中央に白いウサギがじっとこちらを待ち伏せているのが見えた。大きさは中型バイクほどもあり、さっきまでフィールドで相手取った魔物とは違う威圧感のようなものが感じられた。


「朔夜さん、私にまかせて下さい」


 エミリーはそう言うと俺の前に出る。


「大丈夫?」


 一番弱いであろう上層の扉の守護者(ヴェヒター)でも心配だ。いざとなったらすぐ割り込めるように注意をしておこう。


「はい。これくらいは楽勝ですよ」


 エミリーは身の丈ほどある杖を構えて魔物へと全速力で突撃した。

 魔法で遠距離から攻撃をするとばかり思っていたから予想外の行動に驚く。


 エミリーは時計回りでホワイトラビットの頭突きを躱しながら杖でひたすら殴る。『えいっ』、『やあっ』などと可愛い声が聞こえてくるが、一切容赦はしない。全力で杖を打ち付ける。


 撲殺。圧倒的撲殺だった。


 数十分後、額に浮かぶ汗を腕で拭いながらエミリーは俺のところまで戻ってきた。


「倒したことで扉も開きましたし、先に進みましょうか朔夜さん」


「う、うん」


 彼女の表情からは余裕が伺える。

 だがそんな事より俺は、おっきなウサギを容赦なく叩き殺すエミリーの姿が暫く頭から離れなかった。



 時刻は昼頃。俺達は七階層のフィールドを歩いている。天井はどういう原理なのか、青い空を映している。それを見て大体の時間が分かるのだ。もちろん夜になると日が沈み、ダンジョン内も暗くなる仕様だ。


「ここらで休憩しませんか」


「そうするか」


 エミリーの判断に従う。でもこんなフィールド内で安全に休める場所などあるのだろうか。


「ちょうどほら、あそこです。」


 エミリーが指差す方向を見ても木が生い茂っていて何があるのか分からない。

 でもそんな俺とは違い、彼女は一点を目指して進んだ。


「着きました。先客もいないみたいですしお昼にしましょう」


 木々を抜けた先には開けた場所があった。そこには泉が湧き出る小さな池と、切り株が複数あった。

 ゲームのセーブポイントみたいなところだ。


「ここは魔物に急に襲われたりなんかしない、よね?」


「はい。ここは安全地帯と言って魔物は出ませんよ。それに飲み水もありますし、フィールド前の小部屋みたいに寝泊まりも出来ます」


 安全地帯か。ダンジョン攻略には必須のポイントらしい。こういった場所を覚えているだけでも難易度は変わってきそうだ。


 それからエミリーがアイテムポーチから取り出した干し肉とパンを食べた後暫く休憩し、またダンジョン探索を再開した。




 夕方、十階層に到着した俺達。これから日も沈むので、今日はこの扉の守護者(ヴェヒター)を倒して終了にする。


「じゃあ行くぞエミリー」


「はい」


 ここまでエミリーと協力して扉の守護者(ヴェヒター)を葬ってきた。どれもそれほど強いとは感じなかったが、彼女が言うには五の倍数の階層でモンスターが一気に強くなるらしい。それまでは緩やかに強くなるだけだと。

 思い返すとこの十階層のフィールドの魔物も、前の階層と比べて手強くなった気がしないでもない。俺にとっては一発蹴るだけで大抵のモンスターは魔石へと変わるから、比較すること自体難しいが。


 扉の前に立つと自動で開く。数歩進むと中央に陣取る扉の守護者(ヴェヒター)が見えてくる。

 この十階層で待ち受けていたのは、牙を持つ巨大ミミズ、通称デスワームと呼ばれる魔物の肥大化した姿だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ