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第33話 ミア奮闘記

 午後、アルトナー家を出発した俺とミアは、王城がある方角へと歩いている。

 王立図書館は冒険者ギルドやダンジョンとは正反対にあるのだ。ミアは慣れた足取りで図書館までの道を進んで行く。俺は普段とは違う王都の風景を見回しながら歩いていた。


 先を歩くミアは一度振り返ると、ムスッとした顔でまた俺を見る。


「サクヤ、キョロキョロしすぎ! もう、こっち!」


 ほっぺを膨らませたミアが後ろを歩いている俺のところへ戻ってくる。

 景観を眺めながら歩いていたため、ミアについて行くスピードが遅くなってしまったから少し怒っているのだろう。


「ごめん、ここらは来たことがなかったからさ」


「しょうがないなぁ。はい! これでいいでしょ」


 そう言って俺の手を取るミア。

 まるで子供が迷子にならないように手を繋ぐ母みたいだった。もちろん、俺が子供だ。


 それからミアの小さい手に握られ、図書館まで歩いたのだった。




 「ここが王立図書館かあ……それにしてもお城近いな」


 王立図書館は想像以上に大きかった。目測だが、俺が通っていた学校くらいの大きさはあるだろう。それと王城を囲う外壁がすぐ側にある。距離は二百メートルも離れてない。

 その王城というのもかなりでかい。図書館とは比べものにならない広さと高さだ。王城の下は外壁に囲まれていて見えないが、城門では兵士が警備にあたっている。


「図書館はこっち! はやく行こ!」


 王城を見上げる俺は、ミアに手を引かれて図書館へと歩みを進めた。


 図書館の入口には衛兵が二人立っている。それも男女だ。この国は女性でも軍に入ることができることを知り驚いた。周りに軍人はレオしかいないが、あいつは男だったからそういうものだと思っていたのだ。

 それからダンジョン前の兵士と比べると、こちらの方が質が高そうに感じた。身なりもだが、背筋が伸びていて真面目そうな雰囲気なのだ。

 

「こんにちは! 二人お願いします!」


 ミアは元気に女性の衛兵へ声をかける。

 俺はそんなミアの後ろで待っている。もちろん手を繋いだ状態で。


「こんにちは。入館料は持ってる?」


「はい!」


「ふふ、じゃあ持ち物検査するね」


 男性と女性の衛兵は優しそうな人だった。

 女性の衛兵はミアを、俺は男の衛兵に全身をくまなくチェックされる。ポッケに硬貨しかいれておらず、すぐに検査は終了した。

 ミアは全身をチェックされた後に鞄の中身も検めさせられていた。

 図書館は基本的に武器などの持ち込みは禁止だそうだ。


「二人通ってよし。では受付で支払いを」


 男性の衛兵は俺に向かってそう言った。

 完全に俺を保護者だと誤解している顔だ。ミアは別に大人ぶっている訳ではなく、本当に俺を引っ張って連れて来てくれたんだ。それゆえ、ミアこそが俺の保護者と言っても過言では無い。


 受付に向かう俺達を衛兵二人は微笑ましく見守っていた。


 中に入るとそこは風除室で、受付のための窓口が一つと、奥に扉がある。


「こんにちは。二人ですね。銀貨一枚になります」


 受付は柔和な顔の女性だ。

 それにしても銀貨一枚か。アルトナー家の一週間分の食糧費に相当する。

 図書館とはかなり金の掛かる施設のようだ。

 

「はい。今出します」


 ミアは鞄を漁り、財布を探している。

 もちろん二人分払うつもりのようだ。そんなのは俺のプライドが許さないが。

 俺はポッケから銀貨一枚を取り出し、受付の女性へ渡す。


「ありがとうございます。時間は夕刻までです。ではごゆっくり」


 今度は俺がミアの手を引いて先導する。

 風除室の扉を開けると、そこは広いロビーだった。奥に階段や扉が複数あり、中央には沢山の椅子が並べてあった。その中央は休憩スペースのようで、身なりの良い人が何人もそこに座っている。

 ロビーの中心に向けて歩こうとすると、ミアが話しかけてきた。


「お金、いいの?」


「あたり前だろ。ただ、こんなに高いと思わなかった。ミアが普段家で勉強してるのも色々と理由があったんだな」


 銀貨一枚も取られるなど、庶民には贅沢過ぎて気軽に来られるものじゃない。

 俺はこういう時じゃないと金を使わないから、いや、普段使い道がないから、今ミアの力になれるのだと思うと大変嬉しい。

 ダンジョン最下層で魔物からドロップした魔石を拾っておいて良かった。


「ありがとサクヤ! お姉ちゃんは、お金の事は心配しないでいつでも図書館に行っていいって言ってるんだけど、ミアは週一回にしてるんだ!」 


 エミリーはそんなことを言っていたのか。良い姉というか母というか。とにかく愛情が感じられた。

 ミアもミアで、家庭に配慮して出費を抑えているようだ。

 なんとも健気で泣けて来る。


「ミア! 俺と毎日図書館に行くか!」


「サクヤありがと! でもミアは今のままで充分だよ!」


 ひまわりのような笑顔を咲かせるミア。 

 それは、俺の全財産差し出しても惜しくはない程尊いものだった。




 ロビーにはいくつもの扉がある。どの扉も図書室に繋がっているが、書物の種類別に分けられているとのことだ。

 俺はミアの案内で真ん中の扉に入った。


「でっか……」


 思わず口から漏れてしまった。先ほどのロビーもかなり広いと思ったが、ここはそれ以上に広かった。天井は高く壁際には階段があり、五階以上の高さがある。そしてずらりと並べられた本棚の数。一体何千、何万冊の本が置いてあるのか想像もつかない。


 扉から少し進むと、長机と椅子のセットが百以上あった。そこでは様々な人々が本を読んだり、紙に書き写している光景があり、席は三分の一ほどが埋まっている。皆、上流階級の様な雰囲気を醸し出しており、自分の場違い感に踵を返しそうになった。

 そんな俺のことはお構いなしにミアは突き進む。


「こっち!」


 ミアは無数の本棚がある左へと進み、更にその奥へと歩く。目的の本が見つかったのかそこで何冊か手に取る。

 俺は無言でそれらの本をミアから取り上げた。


「えっ? サクヤ?」


「俺が持つから何冊でも選んでいいよ」


 ミアが図書館でどんなことをしているのか知りたかったのもあるが、一番は彼女の役に立つことなんだ。


「ありがと! あ、それとね、あそこの黄色い本棚から先は行っちゃ駄目だよ。あの黄色は警告で、その少し先は鎖で入れないようになってるんだって」


 あれか……禁書というやつか。魔力が込められた本で、悪魔をも召喚できるみたいなやつ。それから超常的な能力が込められた本で、異世界人しか解読できず、チートを手にすることができるみたいな。

 そしてそれを何の因果かたまたま偶然意図しないかたちで読んでしまい……。


「サクヤ?」


 妄想に浸りすぎていたようで、心配そうな顔のミアが俺を見上げている。


「ああ、何でもない。分かったよ。黄色の本棚より先は行っちゃ駄目なんだろ」


「分かったならよし!」



 ミアはまた本を探して歩き出す。右に進んだり引き返したりしていて、俺は現在地が分からなくなる。まるで本棚で作られた迷路のようだった。


 十分後、ミアは十冊の本を選んで、それを俺が空いている机まで運んだ。


 俺とミアは並んで座る。特にやることも無いので、ミアの観察をすることにした。

 鞄から紙とペンを取り出すミア。本を書き写すようだ。


「本は借りること……出来ないか」


「当たり前じゃんサクヤ。ここ出る時も、入る時と同じ検査されるからね」


 出る時もまた男にまさぐられるのか。全身をくまなく隅々まで……嫌だな。アイテムポーチの類も持ち込み禁止のようだったし、徹底しているのか。

 流石に俺だけの能力、無限収納ボックスを使って本を持ち帰ることは可能だと思うが、違反行為はやらないと決めている。


 それから数十分、隣に座るミアを観察していた。彼女はそんな俺に目もくれず、懸命に本を書き写していた。ここでは写本だけに専念し、家に帰ってから勉強に励むようだ。

 ミアは試験とやらのために頑張って勉強している。小中学生時代の俺とは比較にならないほどだ。友達と遊んだりゲームしたりテレビを見たりなど、ミアと比べること自体おこがましい。


 ページを捲る音と、ペンが走る音だけが聞こえる空間で、自分自身の在り方を見つめ直す。


 ――――俺は一体何をしているんだ。あの薄暗い洞窟や、ダンジョンで上を目指していた時はあんなに元の世界に帰りたいと願っていたじゃないか。


 もっともっと、帰るための努力をしないと。


 俺は一生懸命頑張るミアを見ながら、そう決意したのだ。

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