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第27話 方針

 突然の報告に騒然とするギルド。


 魔物の動きが止まっただと。

 さっき日が沈んだばかりだ。するとその魔物は昼行性なのか。



「あら、僥倖じゃない。今すぐにでも討伐に向かいたいわ」


 クラリッサは余程腕に自信があるのだろう。薄っすらと笑っている。俺にぶつかった時は怒鳴り散らしていたのに今は冷静な女性を演じているのが少し不気味だ。いや、普段はこういった立ち振舞いで、あの時はたまたま腹を立てる原因があったのではないか。

 考えてもよく分からないな。この人が戦闘をしているところが見られれば何か掴めるかもしれない。戦闘では素の姿が浮き彫りになるからだ。


「まったく……怖気づいた顔をして。なんで貴方みたいなのがエミリーの側にいるのよ」


 何故か睨まれる俺。しかも怖気づいているなんて、そんなことは断じて無い。もしあるとすれば、クラリッサの顔が怖かったせいだ。社会経験がなく、頼りない顔に見られるのはしょうがないと思うが、棘のある言葉の数々にメンタルがすり減っていく。


 フォローしてくれたリーゼには申し訳ないが、クラリッサは性格が悪い人認定することにした。あの居丈高(いたけだか)な態度だ。世が世なら、友達も出来ずに教室の隅に追いやられるぞ。

 いや、それはないか。どう考えても女子生徒を支配するクイーンビーの器だ。孤立するわけが無い。


「いえ、朔夜さんはとても強い……」


 見かねたエミリーが俺のために擁護へ回ってくれる。


「言わなくても分かるわ。エミリーの実力なら冒険者の二、三人程度、守りながらでも余裕ですものね」


 もうクラリッサの中で俺は、エミリーがダンジョンの帰りに気まぐれで拾った捨て犬という構図が出来上がっている。撤回しようと俺が口を挟んでもややこしくなるだけだろう。ここはもう諦める。


 それにもし、神様からアルトナー家にこのまま居座りたいのなら犬になれと言われても、全力で犬になりきるだろう。エミリーに撫でられミアに遊ばれ餌を貰えられる。最高じゃないか。この生活を守る為ならプライドだって捨ててやる覚悟だ。

 俺にはもうアルトナー姉妹さえいてくれればそれで良いかもしれない。クラリッサに同意するのは癪だが、エミリーに守られるという言葉はとても甘美だと思った。


「いやいや、またもやウチのボスがごめんね朔夜クン。エミリーのことすんごい気に入っちゃっててさ」


 耳打ちをしてくるリーゼ。謝罪の言葉を紡いでいるのに、何故かウインクをしてくる。


「いや、実際エミリーは強くて回復魔法も使えて優しいですから、俺のことはなに言われてもしょうがないですよ」


 笑顔を作るが、苦笑いになっていそうだ。若干表情筋が引きつっている感覚がある。


 ここは穏便に済ませることにしよう。だが俺は虎視眈々と逆転の機会を伺っているからなクラリッサ。


「プテロスティリスの皆さん、お時間よろしいですか」


 そこに紙の束を抱えたイザベラが現れた。


「こんばんはイザベラ。ああ、やっと国が動いたようね」


 悟った顔をするクラリッサ。一体どういう事だろう。


「はい。国が冒険者ギルドへ要請を出しました。災厄の魔物の時のような失態は許されませんからね。今回は騎士団と高ランク冒険者パーティー、合同で魔物を討ってもらいます」


「そうね。あの時は私達を先に派遣させていれば、犠牲人を出さずに討伐出来たのに。腰が重いのよホント」


 災厄の魔物に挑んだ第二騎士団が多数の死傷者を出したというあれか。

 この世界の冒険者のレベルをSteel Claw Onlineで換算すると、平均十レベルといったところで、エミリーでも二十レベル前半だ。いくら高ランクパーティーといっても、レベルは良くて二十後半くらいだろう。

 それで六十レベル相当の災厄の魔物に勝つというのは少し無理があるのではないだろうか。


「それはねそれはね! サクヤがバッと……」


「あははは……何でも無いです。続けて下さい」


 素早い動きでミアの口を塞ぐエミリー。

 危なかった。俺が倒したのがバレるところだった。

 でもミアは俺を思ってのことだったのだろう。何を言われても反論せず、ヘラヘラとしていたからミアも我慢できなくなった……みたいな。

 自分の不甲斐なさと、ミアの優しさに泣けてくる。


「はぁ。まぁ、勝手に消えてしまった魔物は置いておいて、今は目の前のことに集中しましょう」


 そう言って襟を正すイザベラ。

 先日ギルドで耳にした噂話によると、王国は災厄の魔物の行方の調査を未だ続行しているようだ。だが手がかり一つ無いらしい。それもそうだ。この世にはもういないのだから。


「イザベラ。それで、作戦開始はいつなの?」


「明け方を予定していますが、いつ動き出すかも分からないので今晩中は見張りと準備をと」


「そう。それで巨大なことと硬い甲殻以外に何かわかったの?」


 クラリッサの表情は真剣そのもので、高ランクパーティーを背負ってきた貫禄を感じさせる。


「そうですね。見た目は、六本足の虫のようだと聞きました。それに強烈な酸を吐く攻撃をしてくるそうです。盾を貫通する威力らしく、全力で回避するか、上級以上の魔法をぶつけて逸らすしか方法が無い、と」


 よりにもよって虫に似た魔物か……近づきたくないな。


「ありがとイザベラ。まぁ、私達のやることはいつもと変わらないわね。プテロスティリスは要請を受けるわ。皆、それでいいわね」


 クラリッサはプテロスティリスのメンバーを見渡す。レータにレーネ、それにリーゼも闘志のこもった目でうなずいた。やる気満々のようだ。

 それからイザベラが持っていた依頼書に勢いよくサインをし、手渡した。


「プテロスティリスの皆さん、お引き受け下さってありがとうございます。それでは次のパーティーの交渉があるので私はこれで」


 頭を下げてからイザベラは去っていった。


「エミリー、貴方は避難していなさい。ミアとそこにいる犬を連れてね。ではみんな、行くわよ」


 そう言い放って席を立つクラリッサ。

 その時、彼女の細い腰に視線が吸い寄せられた。刃物が二本、左右にぶら下がっている。


 クラリッサのシルエットは、まるでscoの双剣使いのようだった。


 それと疑問なのだが、犬とは誰のことだろう。俺の背後に動物の霊でも見えたのだろうか。


「じゃね! エミリー、妹ちゃん、朔夜クン! でっかい魔物、いっちょ倒してくるね」


「「失礼、します」」


 『これから遊びに行ってきます』みたいな軽いノリのリーゼは、元気に手を振る。レータとレーネは機械のように揃って立ち上がり、一礼する。


 そう言い残し、プテロスティリスのメンバー達は冒険者ギルドから出ていった。


「なんだか凄い疲れたんだけどエミリー……」


「あははは……初めてだとそうなりますよねぇ。でも皆さん優しいんですよ」


 エミリーは苦笑いで応える。


 本当に優しいのか疑問だ。特にボスとか呼ばれている人は、口を開くたびに毒が飛んできた。一見西洋の球体関節人形のような可憐さをしているが、実際は身長が低い金髪のポイズンロリモンスターだ。可愛さも賢さも愛嬌も全て備えたミアとはまるで反対だな。


「日が昇るまで魔物は動かなそうだし、俺達は一旦家に戻らないか」


 この時、魔物についての対処を心の中で決めた。それと色々と疲れたので、無性に家に帰りたい。


「そうしましょうか……」


 エミリーにも疲れが見えた気がした。




 俺達はギルドを出る。

 それから薄暗い街灯の下、アルトナー家へと歩き出した。

 途中、避難する人々の喧騒なども無く、とても静かだった。

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