第26話 女性だけのパーティー
女性の声に振り向くと、見知らぬ冒険者がそこにいた。
線が細く、あまり強そうには見えない少女。年齢は俺やエミリーより少し上くらいだろう。
「エミリーと、妹ちゃん! それに……えっウソ。あのエミリーに彼氏!?」
謎の女性は、目を見開き大声を上げる。
勘違いしてくれる分には嬉しいが、もうエミリーにはレオがいる。俺は彼氏でもなんでもなく、ただの居候だ。
「もう! こんな時に何をふざけてるんですかリーゼさん!」
真っ赤な顔で怒るエミリー。反対に、おもちゃを見つけた犬の様な表情をするリーゼ。
確かに緊急事態に話す事柄ではない。
「こんにちはリーゼさんっ」
ミアは見知った顔らしく、元気に挨拶をする。
「やぁ妹ちゃん。いつ見ても可愛いねぇ」
クラスに一人はいる、誰にでも話しかけるおせっかい系女子って感じがするなこの人。表立っての人気はないが、陰では男子皆が惚れているみたいな。俺はこういった忙しない人は得意じゃない。
などと内心毒づいてみるが、実際優しくされるとコロッといきそうだ。
笑顔でエミリーをからかっていたリーゼはミアの両肩をポンポンと叩いた後、俺へと向き直る。
「で、君は誰なんだい? えっ、私? 私はリーゼロッテ。気軽にリーゼと呼んでくれたまえ」
腰に手を当て、胸を張るリーゼ。ちなみに俺は一言も喋っていない。彼女が勝手に語りだしたのだ。
「始めまして。朔夜です」
相手もファーストネームだけのようだし、俺もそれに倣う。
冒険者はフレンドリーな人が多い。やっぱり戦闘中の意思疎通、コミニュケーションなどが大事になるため、結束を強める目的なのか。それとも敬語や丁寧語は伝達のタイムロスになるからなのか。
「う〜ん、お堅いねぇ。朔夜クン……で、エミリーとはどういう関係なの?」
好奇心いっぱいの顔を近づけてくるリーゼ。ここで一緒の家に住んでいるなんて言ったら、死ぬほどいじられるに決っている。だから俺は笑って誤魔化す。
それにこういう人は感が鋭い。俺について詮索をしなければいいのだが。
「あまりふざけないで下さいリーゼさん!」
いちいち赤い顔になって反応するエミリー。そんなエミリーが面白いのか、ますます笑みを深めるリーゼ。完全に弄ばれている。
「ただ質問しただけじゃーん。エミリーのケチ」
「もう、止めて下さい……」
エミリーは耳を真っ赤にして下を向き、リーゼは楽しそうに目を細める。
「あははっ! やっぱエミリー可愛いなぁ。 そうそう、こっちに来て。ボスもお待ちかねだよっ」
満足したのか、入口近くのスペースに案内するリーゼ。そこには丸いテーブルに座っている三人の女性がいた。内二人はローブを着ていて、顔立ちがそっくりだ。そしてその二人に挟まれるように金髪の少女が優雅に足を組んで座っている。だが、残念なことに足は床にとどいておらず、大変身長が低いことが分かる。
俺は――この金髪少女に見覚えがある。
先日、薬草採取の依頼を失敗して落ち込んでいる時にギルドの入口で俺にぶつかり、暴言を吐いてきた人だ。立ち止まるんじゃねぇぞとか、のろましねとか言われた気がする。
受けた恩は忘れず、受けた恨みは忘れろとよく聞くが、生憎俺はそこまで人間が出来てはいない。やられたことは簡単に忘れはしないのだ。
思い出したらちょっと腹が立ってきた。
「あら、エミリーじゃない。やっとパーティーに加わる気になったようね」
金髪少女は流し目でこちらを見る。
「お久しぶりですクラリッサさん。それにレータさんとレーネさんも」
頭を下げるエミリーに対し、会釈を返すレータとレーネ。クラリッサと呼ばれた高圧金髪ロリはふんぞり返っている。
前にエミリーが言っていたことを思い出す。教会の手伝い以外に冒険者として活動する時は、女性だけのパーティーに一時的に入れて貰っていると。
「中層探索以来だものね。それでやっとパーティーに加わる気に……」
そこにすかさず割り込んでくるリーゼ。
「いや、たまたま近くにいたのを発見して、連れてきたんですよボス」
お待ちかねなどと言っていたから、この暴言金髪ロリが招いたとばかり思っていたが、リーゼの口八丁だったのか。
「あ、あら。そうなの。べ、別にそのくらいは知っていたけど。まぁ、いずれはこのAランクパーティーに入るのだわ。私達はエミリーを必要としているし、エミリーも私達を必要としているもの」
そう言ってニコリと可憐な笑顔でエミリーを見るクラリッサ。身長が低く、体格が小さいせいで、相対的に椅子が大きく見える。それに大きい態度も相まって、まるで女王様みたいだ。
クラリッサは心底エミリーに惚れ込んでいるようだ。これでは常時お待ちかね状態じゃあないか。リーゼの言葉はあながち間違っていなかった。
「ええっと……」
エミリーは困惑している。優しい彼女は、断る言葉にも気を使うのだ。クラリッサは知らないみたいだが、エミリーは俺とパーティーを組んでいる。つまり、俺は暴言金髪ロリに勝っているということになる……多分。
それにしてもAランクパーティーか。チラッと聞いた話だが、このギルドに片手で数えるほどしかいない上位の冒険者達らしい。だとしたら王都を襲ってきている魔物についても何か知っているのではないか。
「それで、そこの人畜無害そうな顔の男は?」
顎で俺を指し、エミリーに問いかけるクラリッサ。
あの時ぶつかったことは全く憶えていないみたいだ。あの日、入口で立ち止まった俺も悪いのだけれど、あんな暴言を吐いたくせに謝罪が無いどころか、石ころ程にも思っていない態度。流石上位パーティーのリーダーは格が違う。
ここは俺も強気で出ていいだろう。どっちが上か分からせてやる。
「あ、どうも、朔夜といいます。冒険者をしておりまして……」
「見れば分かるわ。あら、ミアもいるじゃない久しぶりね」
適当にあしらわれる俺。
コミュ障は初対面の人に強く出られないというのを失念していた。厳密には顔を合わせるのは2回目だが、相手が覚えていないのならしょうが無い。くそ、絶対に何処かで復讐してやる。いつか俺からも、のろまとか言い返すんだ。
「こんにちはクラリッサちゃん! それにレータさんとレーネさんも!」
元気に挨拶をするミア。どうやら全員と顔見知りらしい。初対面なのは俺だけみたいだ。少し心細い。
「私はエミリーより年上だと何回言ったら分かるのかしら……」
呆れ混じりのため息を吐くクラリッサ。だが、天真爛漫のミアには強く出られないようだ。
意外な事にクラリッサはエミリーより年上なのか。身長も相まってパッと見はミアより年下にみえる。良く言ってもミアと同い年くらいだ。
「ごめんね朔夜クン、うちのボスはちょっと人格がアレでさ。でも口調とは裏腹に根は優しくていい人なんだ。誤解しないでね。そうだ! こっちも紹介しないと。この二人はレータとレーネ。双子の姉妹なんだ!」
ボスについて、リーゼは俺に耳打ちをする。それからのローブを着た双子の紹介をしてくれる。
「どうも、朔夜です」
「「よろしく」」
レータとレーネは同時に会釈をする。見事なまでのシンクロだ。格好から察するに魔法使いとみて間違いないだろう。
無表情な彼女たち。あまり積極的な性格ではなさそうだ。ある意味バランスは取れている。
「それで、あなた達も王都に向かってくる魔物を倒そうと考えているのね。そこで魔物についての情報が知りたい……ってところじゃない?」
人を見下すような視線で右の口角を上げるクラリッサ。性格が悪いのか、察しが良いのか。おそらくは両方だ。
「でも残念。私達も何も知らないの。だけど私の傍にいればギルドからの依頼が真っ先に来るはずよ。だってAランクパーティー、プテロスティリスですもの」
ふんぞり返るクラリッサ。この鼻に付く言い方はどうにかならないものか。
だがプテロスティリスというパーティー名は一応覚えておこう。
結局、高ランクパーティーでも魔物の情報は持っていないのか。窓を見ると、日が沈み辺りは薄暗くなっている。このまま暗くなったら戦闘に支障をきたすから早く行動へ移さないといけない。
そんなことを考えていると、入口のドアが勢いよく開いた。
「おい! 魔物の動きが止まったらしいぞ!」
その声はギルドの中に反響した。




