第22話 心配性
朝。マヌエラが運んできた料理を食べてから、少し時間を置いて診療をスタートした。
「では次の人どうぞ」
俺とミアはエミリーの補助だ。といっても特にする事は無く、エミリーの後ろに控えているだけで、たまに歩くのが困難な老人を手伝だったりするくらいだ。
エミリーは回復魔法を使い、次々患者を治療していく。農作だけでなく、狩猟をしている村民もいるようだが、特に大きな怪我をしている人などはいなく順調に進んだ。
午前だけで数十人程の治療をしたエミリー。魔力はまだ余裕があるらしい。俺はその魔力というものの感覚が分からないので、無理はしないようにと口酸っぱく注意をした。
「お昼にしようかね」
マヌエラの一言で診療を中断し、並んでいた村人も一旦帰宅する。
昼食は魚料理だった。なんでも近くに流れる川から獲れた魚らしい。若干の泥臭さがあったが、全て平らげた。とりあえず何でも焼けば食べられるということを学んだ。
「エミリー、本当に疲れてないんだよね?」
「はい。大丈夫です。最上級魔法に比べたら全然です」
そう言うエミリーは疲れている様子もなく、顔色も良い。振る舞いも普段と変わらないので、俺は大丈夫だと判断する。
「サクヤはホント心配性だよねー」
ミアは両腕を頭の後ろで組んで、俺へと視線を寄越す。
彼女達を守らないといけないという使命感が裏目に出て、執拗だったかもしれない。よくよく考えれば、二人共ダンジョン中層まで攻略したことがある実力者なのだ。当然、自己管理はお手の物だろう。
「あはは、ごめんね」
あまりにもしつこかったと自覚し、反省する。
「もうミアったら。私は優しさが伝わってきて嬉しいですけどね」
ミアをじっと睨むエミリー。
やはりエミリーは女神だ。それも慈愛の女神だ。
「いたっ!」
ミアのおでこに軽くデコピンをするエミリーだった。
午後も滞りなく治療が行われた。畑作業中の怪我や、家畜に噛まれたなどの怪我をして診療に訪れる若い男性もいた。相手が男の場合は睨むまではいかないが、エミリーに触れたらぶっ○すくらいの雰囲気を出した俺。
途中それに気付いたエミリーに、『怪我人を威嚇するのはだめですよっ!』と怒られた。可愛く膨らんだほっぺで言われても……と毒気を抜かれた。
夕方になり、いよいよ最後の客だ。その最後の客とは、マヌエラだった。マヌエラは朝から今まで俺達に付き合って、村人が治療される様子を嬉しそうに眺めていた。権限で一番最初に治療することも出来ただろうに、横暴な真似はしなかった。流石は村長というべきだろう。
エミリーはベッドに寝そべるマヌエラの腰に手を当て、治療魔法で癒す。
「ああ、ありがとうね」
マヌエラは苦痛が和らいだようで、最初に会った時のあの鋭い眼光はもう無い。しかもこのまま成仏しそうな雰囲気まで漂わせていて、見ていて心配になるほどだ。
俺は心の中で謝る。ゾンビが蔓延る村だと思ったことを。マヌエラ含め、実際のこの村は善良な人々ばかりだった。
最後の治療も終わり、俺たちは大広間の隣の小部屋に案内される。そこには小さな祭壇と、ゼウス神と思われる像があった。
「この村には教会を建てるほどの金が無くて……こんな小さなものですまないね」
頭を下げるマヌエラ。
「いえ、充分ですよ。ゼウス神も、信仰に大きいも小さいもないと仰っていますし」
笑顔で応えるエミリー。流石は長いこと教会に携わっているだけはある。ナイスな切り返しだ。俺だったら笑って誤魔化すか、肯定するくらいしか出来なかっただろう。もちろん後者は失礼過ぎるからやらないが。
それから胸の前で手を合わせ、膝をついて祭壇に向かってお辞儀をする三人。俺も見様見真似で頭を下げる。
「それでは私達はこれで」
数秒お辞儀をした後、立ち上がったエミリーがマヌエラに向かって言った。
「あら、もう一晩泊まっていけばいいさね。帰る途中で日も落ちちまうさ」
折角の申し出だが、俺達は断ってリネルト村を出発することにした。
最後、少し歩いたところで村を振り返ると、治療を受けた村人がこちらに向かって手を振っているのが見えた。
「ふふ。なんだかこういうのも良いですね」
「そうだな。皆喜んでいたし。エミリー、お疲れ様」
「ありがとうございます。……朔夜さんがいてくれたのも、大きいと思います」
少し照れた顔で言うエミリー。
「いや、俺なんて全然……」
「ミアはー!?」
元気いっぱいに主張するミア。俺はそんなミアの髪を撫でる。
「ミアちゃんも頑張ったね。たくさん歩いた。でもまだ帰りもあるから気を引き締めるんだぞ」
「はい!」
そんな俺とミアとのやり取りを見て微笑むエミリーであった。
村から一時間ほど歩いたところで日が沈む。今日はここらで休むことにしよう。
「今日はここまでだな」
「そうしましょうか」
「ご飯だ!」
街道に人がいないことを確認してから、近くの林まで移動する。
すると、木々の間から何やら近づいてくる音がした。俺は慌てて後ろについてきている彼女たちを手で制す。
「エミリー、ミア、止まって」
彼女たちも状況を察したのか、臨戦態勢で立ち止まる。俺はボックスから童子切を取り出し、居合の構えをとった。
ザザザッという音を立てて林から現れたのは、三つの頭を持つ黒くて大きい犬型モンスター、ケルベロスだ。scoでも中級者向けのモンスターで、この世界の冒険者だと複数人でかからないと厳しいレベルの強敵だ。
「わっ、強そう……」
怯えるミア。
「何だか様子がおかしいですね……」
顔だけだったのが、林の中から全身を現す。
ケルベロスはあきらかに死に体で、足を引きずりながら歩いていた。それに全身傷だらけだ。特に腰のあたりは強酸でもかけられた様に皮膚と筋肉がドロドロに溶けいて、骨まで見えている。
だが弱っていても容赦はしない。俺は一瞬でケルベロスの目の前に移動し、童子切を振るう。その時、抜刀術、切断、斬れ味最大、居合というスキルを発動する。
抜いた刀は目にも留まらぬ速さで駆け抜け、ケルベロスの頭を三つ同時に刎ね飛ばした。
音が消えた世界で、モンスターの死を確信する。
「わっ、サクヤ見えなかった」
「あの魔物を一瞬で……」
俺は刀を軽く振って血を飛ばしてから納刀した。
ゆっくりと倒れるモンスター。本来は数秒したら光を伴って消えるはずなのだが、死体は残ったままだ。
「エミリー、この魔物って……消えないの?」
「はい、ダンジョン以外の魔物は消えませんよ」
魔物は消滅するものだと勘違いをしていた。街道の側にこの大きな死体を放置でもしたら邪魔になるだろうし、凶暴な野生動物や魔物が血の臭いにつられて山から下りてくるかもしれない。面倒だが、ここは俺が片付けるとしよう。
「エミリー、ミア、先に入ってリビングで寛いでくれ」
俺はマイルームにつながるドアを出す。
「でも朔夜さんは……」
「俺は片付けてから中に入るから。それにエミリーとミアが二人でこんなとこにいたら心配で、これを山奥まで運べないんだ」
この街道など、人里近くにはモンスターがあまり出ないと聞いていたがこんな風に襲ってくる危険もある。もし俺がいない時に高レベルのモンスターが二人の前に現れたらと思うと怖いのだ。
「分かった。先にお風呂でも入ってるね! 行こ、お姉ちゃん」
エミリーの背中を強引に押してマイルームに入るミア。エミリーは俺についていくと少しごねていたが、結局ミアに押しきられて中に入っていった。
モンスターの死体から離れた、人の目が届かず街道が見える場所にドアを移動させる。
「よし、埋めるか……」
三つの頭をかき集めてから、人間三人分はある胴体を引きずって奥に見える山を目指す。しばらく進むと木々の間が広いスペースに出たので、そこに埋めることにした。
無限収納ボックスを検索し、穴を掘る道具を取り出そうとしたがそんな物は無かった。
「どうしよ、スコップ無いや……あっ、これでいいか」
ネタ近接武器である、『バールのようなもの』と『ツルハシ』を取り出す。
「バールは思ったより小さいか……ツルハシだな」
『バールのようなもの』は仕舞い、ツルハシを両手で構える。そしてそれを地面に向けて勢いよく振り下ろすと、大きな音を立てて地面が抉れる。それを二、三回繰り返し大穴を作った。ただ、穴というよりクレーターに近い。
そこに魔物の死体を埋め、ツルハシで土をかき集めて足で均 した。
「ふぅ、終わった」
服についた土を軽く払ってから、マイルームへと続くドアを目指して街道付近まで戻ることにした。




