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第20話 少女たちは村を目指す

 早朝。

 段々と意識が覚醒していく。何か、寝る前に桃源郷を見たような……。


「あっ! エミリーっ!」


 慌ててベッドから飛び起きると、掛けられていたタオルケットは捲れ上がる。

 そうだ。寝る前にエミリーにマッサージをしてもらったんだ。


「でもあんなに大胆なエミリーは見たこと無い……くそ、夢オチか……」


 だらんとベッドに寝転んで、枕に顔を埋める。風呂場で邪な気持ちを抱いたから、彼女が出てくる夢を見てしまったんだろう。流石は精神年齢中学生男子だ。卒業してから随分経つのに、まるで成長していない。少しでも好意を持ってしまった女子の事は、夢に見て更に好きになってしまうのだ。


「はぁ……モヤモヤする。……朝だし起きるか」


 昨夜のリアルな夢に後ろ髪を引かれ、ぼんやりした頭で部屋を出る。

 洗面所で顔を洗ってからリビングに移動した。俺以外は誰も起床していないようだ。モニターで外の様子を確認すると、既に朝日が昇っている。

 彼女たちが起きる前に朝食の準備をするとしよう。


「カップ焼きそばに入ってたワカメのスープの袋とっておいたのあるから、それ使おう」


 シンクの上のラックに無造作に置かれたスープの袋と、カップを三つ取り出し、ダイニングテーブルに置く。

 それから無限収納ボックスを開いてロールパンが入った紙袋を取り出し、皿にのせていく。冷蔵庫から取り出したバターを四角く切り取り、皿の隅に乗せるのも忘れない。


「後はエミリーとミアが起きてからだな」


 それまでポットのお湯を沸かしながら待つことにした。




 十五分後、リビングのソファに横になる俺。キッチンの掃除などをしたが、まだ誰も起きてこない。


「い、いいよな……お、起こしに行っていいんだよな……」


 女性の寝顔を軽々しく見ていいものか迷う。それもあの美少女たちだ。だがリネルト村へ早めに出発したいとも思う……どうしよう……。



 数分悩んだ末、覚悟を決める。……よし、起こそう。


 姿勢を正し、ソファから立ち上がる。


「おはようございます。朔夜さん」


 リビングに入ってくるエミリー。


 折角覚悟を決め、起こしに行こうとしたのに意味が無くなってしまった。

 正直俺の中では寝顔を見てみたい欲が膨れ上がっているが、もう後の祭りだ。行動を起こすまでに時間を浪費しすぎた。


 頭を切り替え、この邪な欲を噛み殺して冷静に言葉を紡ぐ。


「おはようエミリー。ミアちゃんは?」


「さっき起こしたので、もう少ししたら朝食を食べにくると思います」


 少し眠そうな顔のエミリー。俺は昨夜の夢を思い出し、心臓が高鳴る。


「あの、洗面所をお借りしてもよろしいですか?」


「エミリー、いちいち聞かなくていいから。自分の家だと思って気兼ねなく使ってよ。その方が俺も嬉しいからさ」


 いつもはアルトナー家で好き勝手振る舞わせて貰っているのだ。俺のマイルームくらい自由に使って欲しい。


「ふふ、ありがとうございます。それと……昨日はマッサージの途中でそのまま寝てしまったみたいなので……あの、疲れはとれましたか?」



 ――――なんだと。昨日のあれは本当にあった事なのか。



 脳が事実だと認識した途端、一つ一つの動作や細かな感覚がフラッシュバックしてくる。

 エミリーの体温や、背中に当たるたわわな二つの果実。女性特有の甘い香りが、鮮明に蘇る。


「あっ、あれね、もうすっごい良かった。疲れとか吹っ飛んだしほんと良かった。ありがとうエミリーっ」 


 冷静さを欠き、早口になる。

 夢だと思っていたのが現実で、オーバーフロー状態になってしまう。焦りと緊張でしどろもどろだ。

 客観的に見たら、卒業式の後に校舎裏に呼び出した憧れの女先輩へ告白をする、下級生男子のような赤ら顔になっているだろう。


 とにかくそんな俺の熱い想い(圧倒的感謝)が伝わったのか、ぱあっと笑顔になるエミリー。


「それは良かったです! また機会があったらやりますね」


 そう言ってからリビングを出て洗面所へ向かう彼女。


「はぁ、またあれを体験出来るのか……やったぜ」


 夢じゃ無かったんだ。本当に夢じゃなかったんだ。なんだかやる気が漲ってきたぞ。


「へへへ、今日も一日頑張るぞぉ……」


「サクヤ、朝からニヤニヤしてる……」


 いつの間に起きたのか、目を擦りながら俺を見上げるミアがいた。





 ダイニングテーブルに座るエミリーとミア。

 俺はキッチンに立って朝食最後のメニューへ取り掛かる。


 冷蔵庫から取り出したベーコンを切って、油を引いたフライパンに乗せる。それから玉子を割ってベーコンの上に落とす。さらにその上から細かく切ったチーズをのせ、蓋をして蒸し焼きにする。玉子の黄身まで火が通ったら、チーズ乗せベーコン目玉焼きの完成だ。


 それを彼女たちの皿の上にのせていく。


「わー、いい匂いだぁ」


「美味しそうです」


 ベーコンの焼ける匂いと、濃厚なチーズの香りが食欲をそそる。

 最後に彼女たちの前にあるカップにお湯を注ぐ。インスタントのワカメスープだ。それとロールパンと目玉焼きが今日の朝食だ。


「出来たよ。じゃあ食べるか」


「うん! いただきます!」


「いただきます」



 インスタントを使ったりであまり手間がかからなった朝食も、意外と彼女たちには好評だった。




「ミア、準備は出来たの?」


「うん!」


「俺も準備出来たよ」


 各々、部屋で準備をしてからリビングに集合する。俺は最後にモニターに触れ、電源を落とす。つけっぱなしだと、消費電力分の通貨が自動で引き落とされてしまうからだ。


 三人で玄関まで移動し、ミアがドアを開ける。目の前は昨日と同じ風景で、周りの木々と街道が見える。


「しゅっぱーつ」


 ミアが外に飛び出す。


「もう急がないの、ミア」


 続いて呆れ顔のエミリーがミアの後を追う。俺は最後に外へ出て、マイルームと呟いて扉を消した。





 俺達は街道を真っ直ぐ進んだ。エミリーは時折地図を確認して、通り過ぎる村や集落を見てはリネルト村までの距離を測っていた。



 日が真上に昇り、昼食にする。

 昨日と同じくパンと干し肉だ。ミアは不満を言うかと思っていたが、そんなことはなく、美味しそうに平らげていた。表情から察するに、晩ごはんを楽しみにしているようだった。


 エミリー曰く、とても早いペースで進んでいて、早ければ今日の夜にでもリネルト村に着くらしい。やはり温かい食事と柔らかいベッドのお陰だろうか。野営だと、野生の動物や野党に襲われるかもしれないという緊張で寝付きが悪くなり、疲れが取れないのかもしれない。




 途中休憩をはさみながら、日が沈む前にリネルト村に到着した。


 街道から少し逸れた道にリネルト村はあった。エミリー曰く、人口は百人にも満たない小さな村らしい。

 王都から一本道で来られたのはありがたい。複雑な道だと迷ったりして、こんなに早くは着けなかっただろう。


「着いたー!」


 真っ先に村の入口付近まで走り出すミア。

 知らないところだと何があるか分からないから、俺とエミリーからはあまり離れないで欲しいのだが。


「ミアちゃん、離れないで。ほら」


 遠くに行かないうちにミアの手を握る。

 彼女たちは俺が絶対に守らなきゃいけない。レオとも約束したしな。


「えへへ。心配性だねサクヤ」


 少し頬を赤らめるミア。何故か俺の左手を両手で掴んでニギニギしている。


「どうした?」


 ミアに問いかける。


「ふふっ。なんでもなーい」


 よく分からないが、笑顔だし良しとしよう。

 そんなミアの両手はとても柔らかく、温かかった。




 木材製の小さな門をくぐり、中に入る。村を歩いている人はまばらで、老人ばかりだ。そのうちの一人、杖をついた男性に声を掛けるエミリー。


「すみません。教会の者なんですが、治療の依頼で参りました。それで村長さんのご自宅が知りたいのですが」


「ああ、そうかい。いつもありがとうね。村長はあそこにいるよ」


 並んでいる中で一番大きい、奥にある家を指差す老人。


「ありがとうございます」


 お礼を言ってから、俺達は村長がいるであろう家に向かった。

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