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第2話 最強装備

 一週間が過ぎた。



 リビングのモニターに映る外の様子は特に変わったことは無く、薄暗い洞窟内のままだ。

 俺はこの一週間映画を観たり、オフラインpcゲームをプレイしたりで過ごした。


 毎朝起きる時、ここは現実世界の自分の家で、これまでの出来事は夢だった……と期待していたがそんなことは無かった。


 そんなこんなで分かった事といえば、日常生活を送るのにこの部屋はとても快適ということくらいだ。

 外に出ていないから、ここが何処なのかなど分かるはずもなく、非常にもやもやとしている。


「ここ来てから何もしてないな。感覚的に夢じゃないし、そろそろ家に帰るために行動しないと……。なぜか生身でscoの能力使えるのは謎だけど、これがあればすぐ帰れるだろ」


 出来るだけポジティブな言葉を口に出し、それから無限収納ボックスを呼び出す。


「ボックス」


 そう呟くと、目の前の空間が黒く渦を巻き出す。渦のサイズはちょうど腕が入るくらいだ。

 渦の中に手を入れ、一振りの日本刀を取り出す。


 曰く、悪鬼の首を刎ねたと伝えられ、刀身、切れ味共に一流の名刀と謳われるその刀は――童子切。


 正確に言えば、それを完璧に模した贋作だ。性能は平均的で特出するものがなく、特殊スキルも何も無い。

 俺が童子切を重宝する理由は、頑丈で切れ味が落ちないからだ。

 圧倒的耐久性。ぞんざいに扱っても壊れなく、それでいて軽量のため、汎用性に富んだ刀で俺はとても気に入っている。なにより見た目が格好良い。これを鍛えてくれた刀マニアのフレンドには本当に感謝している。


 童子切を腰に下げてから監視カメラで外を見ると、この一週間観察し続けたのと同様に変化は無い。四方を岩壁に囲まれているから当然といえば当然だが、野生動物すら見かけない。密室空間だから当たり前か。


「よ、よし、外へ出るぞ」


 玄関に移動してからドアの覗き穴を見る。異常が無いのを目視で確認してから、ドアを開けて一歩踏み出した。やはり外は代わり映えしない洞窟の中だ。

 マイルームと呟き、扉を消してから洞窟の中央まで移動しそこで立ち止まると、腰に下げた童子切を抜いて両手で持ち、軽く振るう。


「ゲーム内と変わらず、すげー手に馴染む。これなら……」


 呼吸を一瞬止める。

 それから一気に上段から刀を振り下ろし、斬り上げ、回転斬り、サイドに移動し突きを放つ。

 これを一秒もかからず行う。常人が目で追うのもやっとな速さの動きをしてもまだ余裕がある。ということは、scoでレベルカンストしてるくらいの身体能力に変化しているのだろう俺の身体は。なんかもう色々と凄い。ハリウッド映画の蜘蛛男もこんな気持ちだったのかもしれない。


 童子切を鞘に仕舞い、10m程先へ目線を向ける。そこには身の丈ほどの大岩があり、一部欠けた天井から落下してきた物と推測できた。

 腰を低くし、クラウチングスタートの用に一気に駆ける。


 抜刀。


 一瞬で岩の前へ、流れるように下から切り上げる。見るからに硬い大岩も、まるでバターを切ったかのように半分に割れた。


 自衛出来るか不安だったが、これで解決だ。人間や動物相手なら余程のことが無い限り、技で牽制して逃げられるだろう。


 それからしばらく刀を振るう練習をしてから、ボックスと呟き、童子切を無限収納に仕舞う。


 そしていよいよ、この洞窟から出るためにもアレを試す。

 sco最奥にて見つけた最凶にして最強の兵器。扱う者の手によっては神や悪魔にもなれるそれは――――




 『デウスエクスマキナ』




 瞬間、全身が装甲に包まれる。

 

 それは黒く強固で巨大な装甲。

 圧倒的強者の風格。全能感が頭の中を支配する。もう自分に出来ない事など何も無いと本気でそう感じる。


 「物理最強装甲で壊せないものなんて無い」


 そう呟いて、少しヒビ割れたような前方の岩壁まで一瞬で移動し、殴る。

 繰り出される右腕は超音速で、一瞬白い雲を生み出す。

 音速の拳がぶつかった壁は、まるで薄いガラス板を殴ったかのように簡単に砕け散り、大穴が空いた。


 やはりこの装甲は異常だ。強い。強すぎるんだ。


 装甲という装備がゲームで実装されたのはここ最近。夏のイベント終了後の大型アップデートの時だ。

 これまでとは違いすぎる装備に、当然ユーザーから批判が殺到した。今までに製作した鎧は無意味になるのかと。だが運営は何も取り合わずにただ一言、『使用してみて下さい』とだけ声明をだした。

 実際に使ったところ、これまでの生身の制限があった時と違い、新感覚で、遊びの幅が大きく広がった。そのせいか批判はピタリと止んだ。


 俺の場合は、第五部の最終ボスである敵とソロで闘った際、偶然飛んだマップの裏側で見付けたのだ。この特別な装甲を。

 だが、防具と呼ぶには従来の物と違いすぎる見た目や大きさと、異常なまでの強さを持った装甲を人が見たらチートやらなんやと言われるのは分かっていたので、倉庫に眠らせたままだった――――というのは嘘で、過疎クエストなどで使用し、誰にも見られないよう敵を捻りつぶしていたのは内緒だ。


 それからしばらくして装甲が実装され、ようやく人前で使えると思った矢先にこんな事態になってしまった。


 一歩進むだけで、足の下に散らばる岩壁の大きな破片が粉々になる。

 ここから先は未知。何があるのか分からない。俺は気を張り詰めながら重い足取りで壁の向こう側に出る。


 するとそこには白く大きな空間が広がっていた。


「何も……ないし……広すぎ」


 白い石材で出来ているドームは、まるでボス部屋を彷彿とさせる。だが生き物の気配はない。

 そしてよくよく目を凝らすと奥には、黒く大きな扉があった。パリの彫刻家が創った地獄の門に少し似ている。


 警戒しながら扉までゆっくり歩いて行く。

 道中トラップなどは無く、距離はあったが無事たどり着いた。

 開けようと腕を上げたと同時に、音を立ててゆっくりと扉が開く。まるで自動ドアのようだ。


 扉が開ききった先に見える光景は、草木が生い茂る森林だった。


「おいおい、ほんとなんだよここは……」


 天井は高く岩壁で出来ているのに、日の光が差して昼間のように明るい。原理は分からないが、洞窟の外から取り込んだ光をそのまま投影しているような、そんな感じがした。

 それにしてもかなり広い地下空間だ。向こうの壁際まで何km離れているか分からない。でもこのまま出口を探して進むしかない。そう思い、一歩踏み出した瞬間、横から突進してくる生物に気が付いた。


「ガルルルルッッ!」


 シルバーウルフが一体。scoでも存在していたモンスターだ。素早さ、攻撃力共に平均以上の強さを誇る上位種で、噛みつき攻撃が厄介だ。


「早速モンスターの登場か。scoの装備や武器が使える時点でいずれは出てきそうだとは思ってたけどっ」


 こちらは最強の全身装甲だ。

 突進を躱さずに、素早く伸ばした巨大な右手でシルバーウルフを掴む。

 シルバーウルフは、藻掻いて必死に逃れようと抵抗をみせるが、有無を言わさず一瞬で握り潰した。

 黒の金属で覆われた指の隙間から勢い良く血が飛び散り、声も上げられないまま一瞬で絶命する。即死だ。肉塊になったそれは数秒後、光になって消えていった。


「ふぅ……グロいな。でも跡形もなく消えてくれて助かった。大体のレベルはscoで言う三十後半から四十くらいか」


 このくらいのモンスターだったら、レベルカンストしてる俺には余裕だ。装甲無しで、軽い装備と童子切だけでも大丈夫だろう。余裕があったら、後でそういった事も試してみることにする。


 それから数時間、俺はただただ真っ直ぐに進んだ。途中でダイアモンドゴーレムやスケルトンウォーリアーなど、多くのモンスター遭遇した。どれも上位種で、装甲を纏っていない状態だと倒すのに多少苦労するであろうモンスターたちだ。だが、物理最強の巨大装甲の前では薄氷の如く脆かった。


 倒したモンスターは紫色の石を残し蒸発するように消えていく。石のサイズは様々で、人差し指と親指で丸を作った程度の物から掌サイズのものまであった。

 このドロップするアイテムは、scoでは見た事が無い物だ。一応捨てずにボックスへと収納しておいた。

 それにしてもモンスターが多すぎる。数歩歩くたびに出てくるので、握りつぶしては紫色の石を回収するだけの、もはや作業だった。それと、疑問に思ったことが一つ。出てくるモンスターはゲームと似ているのに、所々見た目や能力に違いがある。ここはscoに似た異世界みたいなものなのだろうか。


 そういったことを考えながら歩いていると、木々の影から向こう側の壁が見えてきたので進む足を早める。距離がかなりあったのと、警戒していたのもあって三時間以上を費やした。


 壁には人が二~三人並んで通れるほどの大きさのドアが付いていた。開けようと手をかけたその時、後ろで動く気配を感じる。慌てて振り返ると、リザードマンが五体、俺に向かって襲い掛かってきた。

 

 「ったく! もう! 面倒くさい」


 目の前で武器を振り下ろそうとしている二体のリザードマンの頭上に右手と左手を高速で下ろし、叩き潰す。巨大なハンマーでトマトを潰すみたいに一瞬で血肉がはじけ飛び、周囲の地面を赤く染めた。先程まで二体がいた場所には軽くクレーターが出来る。

 それから後方にいたリザードマンに一瞬で近づき正面から殴ると、その場に血の霧を生み出し、死体となって木々の奥に音速で弾け飛んでいく。それを見た残り二体のリザードマンは悲鳴のような鳴き声を上げて一目散に逃げていく。

 

 「じゃあね。もう急に襲ってこないでね」


 そう呟いてから扉の方に向き直り、一呼吸おいてから開けて中に入った。


 扉の中はバスケットコートほどの広さの部屋で全体的に白い石材で出来ており、左手には先が見えないほど長い上り階段がある。


 「はぁ、洞窟なのに人の手で作られたような部屋もある。しかもやたらと広い。謎だ」 


 少しだけ部屋の中を観察したが特にめぼしい物もなく、溜息を吐きながら俺は階段を上がっていった。


 長く続いた階段の先にようやく到達すると、そこにはまた豪華に装飾された大きな扉があった。

 扉を開けようと、腕を上げた瞬間に自動で開く。中はボス部屋のような雰囲気のドームで、生き物はいない。最初の部屋と同様真っ白のドームだが、少し狭い。


 俺は部屋に入り、中央付近で立ち止まる。


「最初に壁ぶっ壊したとこと似たとこか……。これって、森の中歩いて階段上ってこんな部屋着いてのループじゃん絶対。いつ地上に出られるか分からん」


 もういっそ天井を突き抜けて進んで行くかと馬鹿な考えが頭を過る。現実的に無理だろうが……。


 いや……待てよ。

 今の俺は最強の装甲を纏っている。軽く殴るだけでscoでいう五十レベル以下のモンスターは瞬殺出来るほどの力だ。

 これを脚部に集中させればどこまで飛べるだろうか。

 

「やってみる価値はあるな。とにかく、早く外へ出ないとここが何処かさえ分からない」


 顔を上げ天井を見る。大型の体育館かそれ以上の高さだ。これなら行けそうな気がする。


 俺は軽く脚を曲げて力を溜めてから、真っ直ぐ打ち上げられる宇宙ロケットのイメージで真上にジャンプする。

 瞬間、踏みしめた地面はひび割れ、音と共に姿が掻き消えた。

 弾丸のような速度で天井まで一気に跳び上がり、ぶつかる寸前でさらに拳を打ち付けて破壊する。すると装甲が通れる以上の穴を開けて天井は砕けちり、巨大な石の破片が物凄い速さで飛び散って、轟音を響かせた。

 だが、勢いはここで止まらない。


「あれっ! 止まらねぇ!!」


 そのまま音速で、上の部屋の天井に頭から突っ込むと、貫通してまた上の部屋へ。そのまま三回天井を突き破った後にようやく止まった。

 そして今は天井に上半身が埋まった状態である。


「ぐぬぬ。天井に埋まるって……。下半身だけぶらぶら露出してるとか、どこのエロバナー広告だよ」


 力を込めたとはいえ想像以上の結果だ。この方法ですぐ地上に出られるだろう。ただ、次からは力をセーブして一階ずつ突き破って上がって行くことに決めた


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