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第17話 ピクニック気分

「おお、見渡す限りの草原だ……」


 王都をぐるりと囲む城壁を抜けて、まず最初に目にした光景は圧巻だった。地平線まで続く街道と、雲ひとつない青い空。右奥には林が見える。俺は都会で生まれ育ったから、こういった景色は新鮮だ。草の匂いと強く吹く風が心地よい。


 西門から出た後、俺たちは真っ直ぐに街道を進む。王都を出る時は厳しい検閲などがあって身ぐるみを剥がされるイメージがあったが、そんな事は無く、軽い持ち物検査と目的を聞かれただけだった。別の貴族が治める領地を通過するわけではないので、こんなものらしい。

 今から向かうリネルト村は若干遠いが、国王直轄の領地内だ。


 数百メートル歩いたところで振り向くと、巨大な王都とそれを囲む外門が見える。西洋ファンタジー溢れる光景にテンションが上がる。


「凄いなぁ……ミアちゃんも見なよ」


「でっかいね! さっき通った城門の下にいる兵士さんも豆粒みたい」


「ふふふ、私もあまり王都から出たことはありませんので、新鮮です」


 一緒に後ろを見るエミリーとミア。これからかなりの距離を歩くが、笑顔での出発となる。良いスタートダッシュを切ったみたいだ。

 前と後ろには俺達と同じように数人で固まって歩く人がちらほら。それぞれ一人ひとりに目指すところがあるのだろう。その内の誰か一人くらいは俺と関わる事があるかもしれない。そう考えると不思議だ。


 今回は依頼だが、いずれは旅をしてみるのもありかもしれない。この世界の事をもっと知りたい。いや、見てみたいのだ。こんな景色を。


「朔夜さん、子供みたいな顔をしていますよ」


 母性を感じさせる微笑みのエミリー。普段より少しだけ砕けている気がする。開放感で気分が高まっているのだろう。


「あはは、とても綺麗だなって思ってさ」


 最初のあんなに狭い洞窟から抜け出して、威厳のある王都を見て、それにこの広大な大地だ。無機質の建物やビルに囲まれて育った身としては、自然を感じられて嬉しい。


「サクヤお花ー」


 道端で花を摘んだのか、俺に差し出すミア。それはピンク色で、小学校の時に花壇に植えてあったペチュニアに似ていた。


「ありがと。はい」


 俺が持っているより、女の子の方が似合うだろう。受け取ったピンクの花を、ミアの左耳上の髪に挿す。



「似合ってるよミアちゃん」


「可愛いねミア」


「えへへ」


 ミアの明るい笑顔にとても合う花だ。思わず俺とエミリーは微笑んだ。




 朝に王都を出発してから数キロ歩いたが、まだ彼女達は元気なようだ。俺はもちろん高ステータスの影響で疲れ知らずだ。


「そろそろお昼ごはんにしましょうか」


 エミリーの一言で昼休憩が決まる。俺たちは街道から少しずれたところにある林まで移動し、木陰に座った。


「ごはん! ごはん!」


 嬉しそうなミア。だが残念なことに、昼ご飯は昨日買ったパンだけだ。温かいスープなどはない。


「はい。ミアのぶん」


 エミリーは片手サイズのパンを三つ、ミアに渡した。


「えっ、これだけ? 他には?」


「あとは干し肉もあるよ」


「えー」


 俺としては充分だが、ミアには足りないらしい。


「ミアちゃん、晩ごはんはいっぱい用意するから、今はこれで我慢しようね」


「サクヤ、それホント?」


「うん」


「やったー!」


「うふふ、私も楽しみです。昨日は朔夜さんが買出しに行ってくれたんですが、何を買ったのか教えてくれませんでしたし」


 そうだ。俺は昨日一人で買出しに行き、食材を買ってきた。この依頼中の晩ごはんは日頃の感謝を込めて俺が二人に作るんだ。

 実家でも親が帰宅するのはいつも夜遅くだったから、少しは料理が出来る。だが、あまり期待させて口に合わなかったりしたら恥ずかしいな。


「普通の料理だよ。過度な期待はしないでねホント」


「うふふ、今から晩ご飯が楽しみです」


「楽しみー! それじゃあいただきます!」




 昼ご飯も食べ終わり、また街道を真っ直ぐ進む。途中の分岐で別れたのか、前や後ろを歩いていた人達の姿はもう見当たらない。

 見かけるのは時折横を通り抜ける馬車くらいだ。


「馬車はどんな人達が乗ってるんだろう……」


「基本は商人の方々ですね。豪華な馬車や、家紋が施されているのは貴族様ですけど」


 俺の独り言に応えてくれるエミリー。現代では長距離移動は基本電車や自動車だったし、リニアモーターカーや電動自転車もあった。乗り物が少し恋しくなったのかもしれない。


「そうか。でも振動で腰が痛くなりそうだな」


「ふふ、いつの時代の話ですか。今は車輪と本体の間に衝撃吸収材が付いているものが一般的ですよ」


 そういえばこの世界の物は、一見見た目通りの性能に思えても、想像以上に機能的というのが多いんだった。これも俺みたいに迷い込んだ人たちのモノ作りへの執念なのか。




 それから少し休憩をして、おやつを食べたあと、日暮れ前まで歩き続けた。


「エミリー、昨日も聞いたが、本当に魔物とかってあんまり出ないのか?」


「はい。人の気配があるところには魔物は近付きませんし、もし出たとしても弱い魔物ばかりですよ。基本に彼等は人目につかない山奥にいます」


 それでもダンジョン以外にも魔物がいるなんて、普通の人なら怖いじゃないか。夜営中に襲われたりなんかしたら、ひとたまりもない。


「ふう……そうか」


「あっ!」


 突然ミアが林の方を向いて声を上げる。


「どうしたミアちゃん!?」


「魔物だ!」


 俺は驚く。さっきのがフラグになってしまったんだ。今の会話で、知らずにそれを立ててしまった。

 俺は林を睨み、魔物を探す。すると何やら木陰に動いているモノを発見した。数百メートル離れたそこにいたのは――――


「ふふ、シカですね」


 ただの野生の鹿だった。


「ミアちゃん、魔物じゃないじゃん……」


「えへへ、違った!」


 まったく……ミアのそういうところも可愛いいから許す。

 俺は軽くミアの脇腹をつっつくだけにした。


「サクヤ! くすぐったいよ! あはは!」


「これは嘘言った罰」


「あはは!」


「エミリー。何だろう、食べたそうな顔してるけど、狩ろうか?」


「いえいえ! そんな顔はしておりません!」


 むきになるエミリー。でも本当にそんな顔をしていたんだ。


「それに私は捌けませんし……ハァ……美味しそう」


 食べたかったんじゃん!とツッコミたかったが、怒らせたくないので止めておく。


「お姉ちゃん、サクヤ、早く! 置いてくよー」


 先を歩くミア。なんて頼もしいんだろう。それから俺とエミリーも特攻隊長ミアの後をついて街道を真っ直ぐ進んだ。

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