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第15話 はじめての教会

 教会はダンジョンと反対方向にあった。アルトナー家から王城に向けて歩くこと約十分の、大きい白塗りの建物だ。

 今更だが、エミリーについて行って話を聞くのはハードルが高いかもしれない。立ち入ってはいけない場所もあるだろうし、基本的なマナーすら分からない。それにお偉い聖職者を前にしたら、緊張で固まってしまいそうだ。


 マイナスなことを考えていたらいつの間にか教会の入口まで来ており、心臓の鼓動が早くなる。エミリーの後を追って中に入ると、外とは違う澄んだ空気に驚く。室内はというと、全体的に広く天井が高い。奥には祭壇とステンドグラスがあり、中央通路の左右には長椅子が並べられている。なんだか想像通りのイメージだ。


「朔夜さん、では奥に行きましょうか」


「あの、それなんだけど、やっぱり俺はここで待ってるよ」


「そう……ですか。分かりました。では私だけで行ってきますね」


 少しだけ寂しそうな笑顔を作って、エミリーは奥へと進んで行った。しょうがないんだ。この前まで不登校だった俺がいきなり厳格な聖職者と話せるわけなんてない。出身地すら答えられないんだから。世間話すらどこに地雷が埋まっているか分からない。もし無意識に神を冒涜する発言をしてしまったら、どうなることか。

 ため息をついてから入口近くの長椅子に腰掛け、ステンドグラスを見る。天使や女神、真ん中には筋骨隆々の中年男性が描かれている。


「教会は初めてかい?」


 女性の声が聞こえ、中央通路に視線を向ける。

 そこには老婆が立っており、柔らかな表情でこちらを見ていた。


「あっ、ハイ。そうです」


 白い祭服を着ている老婆。どこからどう見ても教会関係者だ。

 そういった人に会いたくないからここに残ったのに、意味がなくなってしまった。


「ステンドグラスの中央、あれはゼウス様と言ってね、私達が崇める神様さ」


 俺の視線を読み取ってか、解説してくれる老婆。ありがたいことだが、無神論者の俺にはあまり意味のない知識だ。どうしても現代の悪徳宗教が脳裏をかすめてしまう。

 でもエミリーが信仰しているであろう神様だから、そこまで否定的になるのも良くないだろう。アメリカ映画でもよく十字をきって祈るシーンが登場するし、これを機に宗教家になるのも悪くないかもしれない。もちろんエミリー教だ。


「あはは、そうなんですか」


 わざわざ解説してくれているのに申し訳ないが、ボロが露呈する前に早々に切り上げよう。エミリーにも常識がちょっと無いみたいに思われてるし俺。

 実際にその通りだからぐうの音も出ないが。


「あれは今から三千年前にあった神代の戦争を描いているんだよ。強大な力を持った神々の争いだ。それはもう過酷でね、地上は炎に包まれ、海は荒れて、空が落ちてきたのさ。それに巻き込まれ、人々の多くは死に絶えた。そこで立ち上がったのが英雄ゼウスさ。ある神から奪った力で、悪い神々を倒し、平和へと導いた。だがその後、ゼウス様は人ではなくなった。神になったんだ。それから人々への安寧を願い、ゼウス様は天空へと……」


「カサンドラ様! やっと見つけましたっ」


 息を切らしたエミリーが走ってやってくる。


「隣の建物まで探したのに、こちらにいらっしゃったとは」


 用がある人物は、どうやらこの老婆らしい。俺の方が先に会ってスーパーゴッド大戦を聞かされた。

 見た目は優しそうな老人だ。こんなことなら俺もエミリーに着いて行けばよかった。


「おや、エミリー。あの話、頼まれてくれるのかい?」


 エミリーは一瞬俺を見た後に応える。


「はい。お受けしようと思います」


「そうかい。ありがとね。場所は西門の街道を真直ぐ進んだ先にある、リネルト村というところだ。徒歩で大体二日はかかる」


 老婆は笑顔で答える。


「詳しいことは紙に書いて渡すよ。行くのも早ければ早いほうが良いね」


 俺は気になっていたことを、意を決して質問する。


「あの、すいません。教会は馬車などの移動手段は提供して下さらないのですか」


「おや、君はエミリーの……恋人だったのかい? 申し訳ないんだがね、もっと遠い村にまで治療に行く人達が優先でね、使える馬車は現状ないのさ」


 申し訳なさそうな表情をする老婆。


「こ、恋人というわけでは無いのですがっ!」


 赤い顔で反論するエミリー。そうだ。彼女にはレオがいる。俺はただの……なんだろう、同居人……いや、居候だ。


「あははは、エミリー。彼を見る視線が、普通のそれとは違っていたもんでね」


 そう言って笑う老婆。エミリーと付き合いも結構長いのだろう。シスターとやらの関係で小さい頃から礼拝にでも来ていたのかもしれない。


「そうなんですか。馬車は使えないんですね」


「すまないねぇ。災厄の魔物さえ現れなかったらここの人達で足りたんだけどね」


「いえいえ、ただ確認したかっただけですので」


 悲壮な顔をする老婆。老人の悲しむ顔を見るのは心が辛い。本当に責める気は無かった分、申し訳無い。 


「そうかい……じゃあ、詳細が書かれた紙を持ってくるとするかの」


 

 それからエミリーと老婆で打ち合わせが行われ、明後日に出発することが決まった。道具やお金のことなど、俺にはあまり分からない内容が主だった。




「もう昼も大分過ぎちゃったね。ミアちゃんお昼ごはん食べたかな」


 教会からアルトナー家への帰路の途中、隣を歩くエミリーに話し掛ける。


「朝食の余りがまだありますので、大丈夫ですよ」


 それもそうか。毎日ミアのために昼に帰って作るわけにもいかないからな。


「朔夜さん、どこか寄りたいところなどありますか?」


「俺は特に無いかな」


「そうですか。では、このまま家に帰りますね」


 娯楽施設というか、何処か暇を潰せる場所なんかも知りたいとこの時に俺は思った。





「「ただいま」」


 俺とエミリーの声が揃う。何だか夫婦みたいでちょっぴり笑える。


「やあ、お帰り。お邪魔してるよ」


 玄関開けるとレオがいた……。こいつは騎士団が忙しくないのかと本気で疑う。


「おかえり! レオくん来てるよ!」


「ただいまミアちゃん」


 俺はレオを華麗にスルーし、ミアの元まで一直線に駆け寄る。


「朔夜、ボクの事は無視するんだね。怒るよ?」


 俺のチキンハートを射抜くような視線を寄越すレオ。普通に怖い。


「ああ、いたのかレオ。気付かなかったよ。……冗談ですごめんなさい」


 強めの態度で挑もうとしたが、途中で怖気づいてしまい、謝ってしまった。くそ。


「あら、レオくん。ゆっくりしていってね」


 ほっこり笑顔でエミリーはそう言葉を掛けるが、俺としては何とかして追い出したかった。



 

「はい! ミアの勝ち!」


「ミアちゃん、やっぱり強いね。騎士団の団長に向いているんじゃないかな」


 俺とエミリーはリビングで、ミアとレオのオセロを雑談しながら眺めていた。結果だけを見ればミアの勝利だが、レオも負けず劣らず強かった。

 今の対局を見る限り、俺は彼に勝てないだろう。だが、オセロはもうやらないと誓ったから勝負をすることは永遠に無い。もし誘われても絶対に断る。レオだけには負けたくないからな。



「朔夜さん、レオくん、お願いがあるんですが、商店街で晩ごはんの材料を買ってきてくれませんか?」


「俺は大丈夫だけど」


「ボクも良いよ。何を買えばいいのかな?」


 いきなりで驚いたが、エミリーの頼みを断る選択肢など存在しない。ただ、レオと一緒というのは嫌がらせなのだろうか。


「ここに書いてある物をお願いします。お金はこれだけあれば充分ですよね」


 そう言って彼女はアイテムポーチから、メモ用紙と銅貨を三十枚ほど取り出した。


「分かった。これはボクが責任を持って預かるよ」


 レオはそれを受取り、自分のポーチに入れた。自然に振舞っているだけなのに、格好いい雰囲気を醸し出す彼。まるで勲章を授与された騎士のような動作だ。俺も性別が逆だったら今の何気ない動きだけで頭がフットーしちゃっていただろう。


「じゃあ、おつかいに行こうか朔夜」


「ちょ、ちょっと待ってって」


 彼に腕を掴まれて、引きずられるようにリビングを後にする。


「お願いしますね」


「いってらっしゃーい!」


 元気いっぱいのミアと、何故かにっこり笑顔のエミリーに見送られるのであった。

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