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第14話 調子が悪い日

「どれがどれだかわかんね」


 足元の草を見て薬草を探す。どれも似たような草ばかりなので見分けがつかないし地味だし辛い。それにしゃがんでいる俺の尻に向けて頭突きをし続ける白いウサギ。可愛い見た目のモンスターは基本放置だ。でも、あまりにしつこく尻ばかり狙って頭突きをするから童子切で叩き切って魔石に変換しようかな。


「ここらへんの草でいいや」


 俺は右側に生えている緑色の草を適当に引っこ抜いて無限収納ボックスに突っ込む。


「よし、これで依頼完了だな」


 白いウサギのモンスターを一撫でしてから立ち上がると、ダンジョンから出ることに決めた。




 朝、教会に向かうエミリーと王立図書館に向かうミアと別れて、一人で冒険者ギルドまでやってきた。そこで初めて『依頼』というものを受けてみた。掲示板に張り出されるそれはランクによって受けられる難易度が決まっている。許可証の数字を弄ったおかげか今の俺のランクはBなので、魔物の討伐も受けられるのだがあえて初心者向けの薬草採取を選んだ。正直楽そうだったからだ。

 だが、薬草が描かれた絵を見てもどれがその薬草なのか俺には判断がつかなかった。現代のリアリティのある絵や、写真などのせいで目が肥えていたためである。

 だからダンジョン内で目に映る草は、全て薬草だと俺の脳は判断した。




 冒険者ギルドの受付に依頼書と持って帰った草の束を提出する。受付嬢は見た目五十歳くらいのおばさんだ。


「あなたねぇ、いくらなんでもこれは酷すぎよ。全部雑草じゃない」


「あ、そうでしたか……」


 どれか一つは薬草だと思ったのだが、まさかゼロとは。俺はダンジョンに散歩しにいっただけじゃないか。


「ぶふふ、あなたは普段雑草を食べて傷を癒やしているのね、ぶふふっ」


 うるせぇババアと本気で言いかけたが、初対面の人には強く出られないコミュ症なので、俺はただ地面を睨むことしか出来なかった。

 結局依頼は失敗した。今日はもうアルトナー家に帰ることにしよう。今は昼を大分過ぎたころなので、ミアも家にいるだろう。


 冒険者ギルドを出たところで、ミアに商店街で何か食べ物でも買って帰ろうと思い浮かぶ。だが、今の俺は一文無しだ。

 丁度いいかもしれない。魔石でも売っ払おう。ダンジョン最下層で乱獲した魔物から拾ったやつがたっぷりある。


 再び冒険者ギルドの中へと入ろうと、身を翻す。その時、腹部に軽い衝撃があった。


「痛いわね! 往来で立ち止まるな!」


 下を見ると、金髪の少女が自らのおでこに手を当てて俺を睨みつけている。どうやら止まった拍子にぶつかったみたいだ。それにしても身長がとても小さい。冒険者のようだが、ちゃんとやっていけてるのだろうか。

 子供だからと高圧的にならず、きちんと謝ることにしよう。


「ごめんなさい」


「まったく、ふんっ! のろまっ! アホづらッ!」


 少女は怒ったまま歩き去っていった。


「そんな言い方しなくても……」


 受付のおばさんに馬鹿にされ、子供に暴言を吐かれる。

 今日はあまり運が良くないようだ。


 それから買取所で魔石を査定して貰った。俺が持っている総数の半分を売りに出した。またもやおっちゃんは『すげぇ大きい魔石がゴロゴロだぜぇ』と息巻いていた。なにやら大規模なオークションにも出品出来るとか。

 計金貨五百枚になった。大金らしく、商業ギルドに行って手続きをしたりで手間と時間を取られた。

 結局全て終わった頃には夕方になっていた。


「ハァ、昼食べてないのに……出店で何か買って帰ろう」


 大通り近くの公園に寄る。アルトナー家から冒険者ギルドまでの途中にあり、前からここには来てみたいと思っていたのだ。公園には家族連れやカップルもいたが、皆帰り支度を始めている。

 中央通路横に並んである出店から、肉の串焼きが売っている店を選んで並ぶ。


「これ、三本下さい」


 俺とアルトナー姉妹の分だ。


「はいよ。銅貨六枚ね」


 金貨で足りるだろうと、一枚差し出す。


「おいおい、釣りがねーよ。せめて銀貨で出しな」


 そういう問題もあるのか。金貨だと価値が高すぎるんだ。だけど今は金貨以外の貨幣は持っていない。


「じゃあ大丈夫です。失礼しました」


 今日は疲れたし、面倒だから帰ろう。エミリーもご飯の準備しているだろうし。

 俺はそそくさと逃げ帰るようにアルトナー家へ向かった。


 


「ただいま……」


「あっ、お帰りサクヤ!」


 エミリーから預かった合鍵を使って玄関に入り、リビングに顔を出す。そうすると笑顔のミアが小走りで俺へと向かってきた。

 

 あれ、何だか変な気分だ。仕事で疲れて帰ってきた親父が小さい娘に元気付けられるような、そんな気分だ。ミアが愛おしくてたまらない。


「ミアちゃん!」


 俺はミアの脇の下に手を入れて持ち上げる。


「あははっ! 楽しい!」


 調子に乗ってくるくる回る。ミアも嬉しそうだ。

 これだけで凄い元気が出てきたぞ。

 それから少しだけメリーゴーランドした後に地面に下ろした。もちろん俺はただの軸の役だ。


「えー、もう終わっちゃうの?」


 上目遣いで見上げてくるミア。とても可愛い。甘やかせてやりたくなるが、心を鬼にする。


「あんまりやると具合悪くなっちゃうからね」


「……ケチ」


 拗ねるミアもまた可愛いかった。




 一時間経った頃、エミリーが帰ってきた。


「朔夜さん、依頼はどうでした? 達成出来ましたか」


 商店街で買った食材をダイニングキッチンに置き、リビングに入ってくるエミリー。


「まぁ、ぼちぼちだったよ」


 依頼は失敗したが、はぐらかすしかない。初心者向けの薬草採取すら出来ないなんて、ばれたら恥ずかしいからな。


「それよりエミリーは? 教会で何かあった?」


「私ですか? そうですね、一つだけ。後でご飯終わってから話しますね」


 そう言って晩ごはんを作るためにキッチンへ向かうエミリー。このまま依頼の件は有耶無耶になってくれと願う。


「ミアも手伝う!」


 ミアも元気よく立ち上がり、エミリーの後を追って行った。




 エミリーとお手伝いのミアが作った美味しいご飯を食べ終え、リビングのソファに座る。

 いつもはエミリーの隣に座るミアなのだが、珍しく俺の隣に座っている。


「サクヤ〜、ぽふっ」


 ミアが突然倒れて来て、俺の太腿に頭を乗せる形になる。


「もう、ミアったら。朔夜さんの邪魔になるでしょ」


「別にいいよ。ミアも今日は疲れたんだろう」


 俺は子供に甘えられるのは好きなので全然オーケーだ。

 

 ミアの頭を撫でる。髪はさらさらとふわふわで、猫みたいだ。

 俺の膝の上で気持ち良さそうに目を細めるミア。非常に可愛い。


「朔夜さん……ミアばっかり甘えさせて…ずるいです…」


「ん? 何か言ったエミリー?」


「な、なんでも無いですっ!」


 赤くなるエミリー。はて、何か小声で呟いていたようだが……本当に聞こえなかった。


「そういえば、何か教会であったって言ったけど? エミリー?」


 妄想に浸っているような顔をしてフリーズするエミリー。自身とレオとの膝枕でも考えているのだろうか。


「あっ……。コホン、そうですね。最近、回復魔法の使い手が足りないことは話しましたよね?」


「ああ、普段の仕事に加え、第二騎士団の治療とかで忙しいんだっけ」


「はい。それで、いつもは周辺の村へ定期的に回復魔法使いを派遣していた教会なのですが、どうしても人手が足りないらしくて……。私に行って欲しいと頼まれたんです……」


「そうなんだ。今まで参加したことは?」


「それが無くて……。今回が初めててなんですが、ちゃんとミアがお留守番出来るか心配で……」


 そういうことか。全く、災厄の魔物の影響がこんなところにもあらわれるとは。


「ミアはお姉ちゃんに着いていくよ?」


 ミアは仰向けの身体を傾けて、俺の太腿に乗せた頭をエミリーの方に向ける。


「それがね、歩いて二日かかる距離なんだ。それでもいいの、ミア?」


「いいよ! 野宿になるだろうし、ミアがお姉ちゃんを守らないとっ」


「ミア……」


「それじゃあ、決まりだな。俺も行く。野宿をするための道具とかは俺が持ってるから、そこら辺は安心してくれ」


「朔夜さんまでっ!?」


 驚くエミリー。俺が着いていくのは当たり前だ。危険な野宿なんてさせたくない。

 ただでさえ保護者がいないんだ。俺が守らなくては。


「やったー! じゃあ三人でだね!」


 起き上がって抱きついてくるミア。体温が高いのか、とても温かい。

 俺はミアの背中をポンポンと軽く叩いた後に、頭を撫でる。


「そうだな。楽しみだな、ミア」


「うん!」


「もう、遊びに行くんじゃないんですから」


 くすっと笑うエミリー。それから真剣な表情になり、


「では明日、教会に詳しい話を聞きに行きます。それで……朔夜さんも一緒にどうですか?」


「邪魔じゃなければ」


 王都周辺の村か。この城壁の外に出るのは初めてだ。外はどうなっているのだろう。それにちょっとした旅行のようで楽しみでもある。

 こんなんじゃミアのこと言えないな。

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