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第13話 決闘

 ベッドに仰向けで寝転び、ダンジョン入坑許可証を上に投げてはキャッチを繰り返す。人差し指程の金属板なので、ついつい弄ってしまう。


 冒険者ギルドの帰りにエミリーから教えて貰ったことを思い出す。許可証の中央には自分が下りた一番深い階層が自動で表記され、一般的にはその数字が大きいほど冒険者ランクも高くなる。だが、ランクは表示された階層を元にギルドの審査で決められる。いくら戦闘力が秀でていても、それだけでなく、対人スキルや補助能力、もろもろの総合的な能力で判断されると聞いた。


 許可証に触れ、『変更』と念じる。それだけで中央の階層表記が変わる。

 不思議な事に、俺は表示される数字を自由に変えられることが出来た。一〜五十までだ。今は適当に二十層に設定している。

 エミリーなど普通の冒険者には不可能らしいが……これも異世界に来たことによる何らかの作用なのだろうか。


 結局いまのところは何も分からない。それと、考えないようにしていたがまた不安の波が襲ってくる。

 ギルドやダンジョンはどうでも良いんだ。それより大切な、エミリーの事が……。


「はぁ……男性に慣れてないとか言う女性ほど、イケメンの彼氏がいる法則……知らんけど……」

 

 テキトーな法則を編み出す俺。

 エミリーに恋人がいないと決めつけてたのは俺だ。俺が変に期待したせいで、自分を苦しめている。よく考えてみろよ、あんなに可愛いくて美人でしっかりしていて……そんな彼女を放っておく男なんて、いるわけ無いじゃないか。


「わあ~美男美女のカップルだあ〜」


 あはは。俺は応援することにしよう。二人の仲を裂いて、エミリーを悲しませることだけはしたくないから。

 美人で可愛くて料理も美味しい、家庭的、面倒みが良い、美人、可愛い、美人、可愛い、美人、可愛い……


「ぅううう……エミリー……」


 俺は枕に顔を思いっきり押し付け、誰にも聞こえないように彼女の名を叫んだ。


 その時、窓から『コンッ』と音がした。

 やばい、誰かに聞かれてしまったかも。そう思い、咄嗟に顔を上げる。わざわざ外から部屋の中を伺っている男性。


 窓をノックしていたのは――――冷たい表情をしたレオだった。



 一時間後。


 俺はダンジョンの一層を、レオの後ろに付いて歩いている。



 レオに何やら話があると言われ、窓から抜け出し、王都内を彼の案内の元に進んだ。誰にも聞かれたくない話らしく、賑やかな大通りを抜け、住宅街とその先の林を抜けてダンジョンに入ったのだ。


 一層を歩いている途中、何人かパーティーとすれ違ったが、皆不思議そうに俺達二人を見ていた。そりゃそうだ。防具や武器も無しでダンジョンを歩いているのだから。

 レオは武器を持たなくても強いようだ。林から飛びかかってきたウサギを素早い蹴りで倒していた。何か武術の心得でもあるのだろう。それと瞬殺されるウサギが可哀想だった。


「ここらでいいだろう」


 森の中の開かれた場所で立ち止まるレオ。それに合わせて俺も足を止める。

 振り向いたレオは真っ直ぐにこちらを睨みつける。ただ話をするという雰囲気じゃなさそうだ。


「ボクは君を認めない。何故エミリー、いや、アルトナー家に近付いた。白状しろ」


 より鋭い目で睨みつけるレオ。俺はその眼力に気圧されそうになる。

 いきなり恋人の前に現れ、しかも同居しているとなれば彼が怒るのも当然だろう。でも俺は、どんなに責められようとも、まだあの家にいたい。

 それに下心で近づいたわけじゃないのは確かだ。……多分。


「いや、たまたまダンジョンで会っ……」


「確かにエミリーはダンジョンで助けられたと言っていたが、彼女の実力はかなりのものだ。そんな彼女を助けられるほど君は強いのか? 残念ながらそうは見えない」


 俺の言葉は遮られた。

 彼はアイテムポーチから訓練用と思われる木でできた剣を取り出し、俺の足元に放り投げる。


「証明してみろ、強いんだろう?」


 そうか。彼は知らないんだ。エミリーが災厄の魔物を討伐するパーティーに加わっていたことを。そりゃあ、ただの魔物に負ける筈はないと思うわけだ。


 俺がゆっくりとした動きで足元の木剣を手に取った瞬間、彼は動き出した。


 想像以上に素早い動きで近付き、上段から木剣を振り下ろす。俺の頭を狙ってだ。

 木剣を両手で持って全力で振り下ろすとは……完全に殺しに来てる。

 その攻撃を、俺は冷静に右手で持った木剣で防ぐ。


「くっ、意外と力はあるみたいだなッ」


 不利な片手で防いだのに、鋼鉄でも殴ったようにびくともしないこの防御力。両手で持った彼の木剣の方が弾かれるとは夢にも思わなかっただろう。

 弾かれた木剣は軌道を素早く修正し、流れるように左、右のなぎ払い、突きへと攻撃が変貌する。


 その攻撃の一つ一つが洗練されており、美しかった。それに力も乗っていて、かなりの実力がある事は感じられた。流石、王城勤めのエリート騎士様だ。


 流れるような攻撃を俺は防ぎ続ける。防ぐだけで精一杯だと思わせておく。


 こちらからは決して打って出ない。何故なら、今の手加減できそうもない俺は、一撃で彼を――――殺してしまうから。



「これでっ! 最後だ!」


 レオは勢い良く踏み込む。木剣は吸い込まれるように俺へと向かう。その切っ先は脇腹を正確に切り裂く軌道だ。たとえ木剣でもただでは済まないだろう。


 俺はようやく少し本気を出す。怪我はしたくないから。

 彼の木剣の切っ先が脇腹に届くというところで、右手の木剣を高速で振るい、彼の木剣に叩き付ける。常人では目で追うことすら出来ない速さで打ち付けたため、彼の木剣は明後日の方向へと、とんでもないスピードで弾け飛んで行った。


 木剣が手から離れた事すら気付かない刹那、俺は彼の下半身に向けて突きを放った。




「あ、れ……」


 彼の握っていた木剣はとうに無く、両手には痺れだけが残っているだろう。そして俺は木剣を持った右手を突き出している。視野で状況を察した彼は、絶望した表情になる。



 視線を下に向けるレオ。



 俺の木剣は彼の下半身を貫いて――――――はいなかった。足元の魔物の頭を正確に貫いていたのだ。


 突きを放つ刹那、レオの足元に毒蛇型のモンスターがいるのを発見したのだ。本来は防ぐだけでやり過ごそうと思っていたのだが、魔物に身体が反応してしまった。彼の足に噛み付く前に処理しておかねばと。


 下を見た彼もようやく気付く。攻撃のための突きではなく、足元のモンスターを倒すための突きだということに。


 数秒後、モンスターは光になって消え、ビー玉程の魔石だけが残った。


「はは、完敗だよ……君は悪態をついたボクまで助けてくれるのか……」


「何か言ったか?」


 レオの声は小さく、よく聴こえなかった。


「いや……ボクの負けだ。君、見た目と違って強いんだね……」


 晴れやかな顔になるレオ。


「でもボクは認めないからね! あくまで君を信じたエミリーを信じるだけだ」


 それから一転して怒った顔になる。これはあれだ、悔しいのだ。第一騎士団のプライドなどが邪魔をしているんだろう。


「あはは、そーですかー」


 騎士団を引き連れての復讐とかがあると怖いから、ここは(へりくだ)っておこう。仮に相手から襲ってきて、正当防衛だとしても、百人単位で殺すとこの国にいられなくなってしまうからな。……もちろん冗談だ。


「敬語禁止っ! ボクだってため口なんだし。それにレオって呼び捨てで良いから、朔夜」


 ちょっとだけ怒った後に、照れた顔でそう言うレオ。

 肌が白いからか、ほっぺたがピンクに染まる。


 あれ、男のくせになんだか可愛いぞコイツ。それに若干の上目遣い。これが美少年の魔力というやつなのか。



 なんだか俺も勘違いをしていたようだ。結構こいつは良いやつなのかもしれない。俺に強くあたるのもエミリーを思っての行動だったのだろうし、好きだって気持ちが凄い伝わってきた。レオなら彼女のことを全力で守る良い夫になるだろう。

 だから……邪魔者の俺は、早く帰還する(すべ)を見つけないとな。


 飛んでいった木剣を一緒に探してから、ダンジョンを出た。それからアルトナー家まで歩き、家の前で解散した。

 俺は、しっかりとした足取りで王城へと帰るレオの背中を見送ったのだった。

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