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第11話 エミリー入浴タイム

「そろそろ寝るか」


 俺はまたアルトナー家に厄介になっていた。

 昨日と同じ部屋のベッドの上で横になる。今日は冒険者ギルドに行って基本的な事を教わった。そこで身分証明にもなるプレートを得られたのは大きい。それから、ダンジョン入坑許可証というのも発行して貰った。小指くらいの大きさの金属板で、到達した階層が表示される。すれ違う冒険者は皆、首から下げていた。俺もそれに倣ってエミリーにチェーンを付けて貰い、首から下げることにした。


 冒険者ギルドの帰りには商店街でチーズやら肉やら買い込んだエミリーの荷物持ちをした。エミリーは、『重いもの持ってもらちゃってすみません……』としきりに謝っていたが、刀で岩を両断出来るほど筋力ステータスが高い俺には余裕だった。


 それによし。準備は出来た。近いうちにダンジョンに潜ってみよう。そこで何か日本に帰る手がかりを見つけるんだ。


「あー、そうだ。風呂は……朝でいいか」


 豪華な夕食が終わった後、エミリーはすぐ湯船にお湯を張っていたっけな。それから先にお風呂どうぞと言われたが、今日はいいと断った。それを見たミアは、『汚いんだ~』と茶化してきて、『もうミアったらっ』とエミリーは軽く叱っていた。俺はミアの言葉で傷ついたが、あのやりとりが可愛かったのでオーケーだ。


 それで何故風呂を断ったのか。しかも連続で。正直に言おう、俺はこの家の風呂場のことを考えると、どうしてもエミリーが身体を洗っているところを想像してしまい、変に意識してしまうんだ。

 だからマイルームの、機能が充実している最先端のバスルームを使っている。もしあの風呂場を使用してしまったら最後、俺は人でいられなくなってしまう。奇声を上げながら全裸で浴槽を舐め回すバケモノになってしまうだろう。


 そして、意識をしないようにすればするほど、考えてしまう。今……エミリーが入浴しているという事実を。普段は彼女の首から下を見ないようにしているが、彼女の胸は相当大きいと思われる。あの、服を押し上げる禁断の果実は、両手から溢れるくらいの大きで、非常に柔らかく……あれ、そういえば身体はどこから洗うのかな?頭?手?それとも……


「いかんいかん! 馬鹿! アホ! 仮にも世話になっている身でなんてことを考えるんだ俺……」


 理性では制御しきれないイケナイ妄想が次々と溢れてくるのを止めるため、自分の頬を思いっきり引っ叩いて、物理的に脳をクリアにしてから眠りについた。



 

 思うと、この時の俺が一番幸せだったのかもしれない。有る事無い事ふわふわ甘い妄想を脳内で垂れ流していた、この時が。

 エミリーは確かにパーティーを組んではいなかったが、男がいないと誰が言った?


 いつだって絶望は、突然訪れる。

 


***



 エミリー視点



「ふぅ~……」


 湯船に浸かって疲れを癒やす。ここ数日色んなことがあった。


 災厄の魔物討伐のために作戦を練り、名だたる冒険者が様々な準備をしていたが、結局全部無駄になった。結果的には多くの人が助かることになって良かったのだが、どうして災厄の魔物はいなくなってしまったのか冒険者ギルドの人達は疑問に思っている。真実は私とミアだけが知っているが、朔夜さんの為にも公表しない方がいいだろう。数日の付き合いだか、彼はあまり目立つのが好きではないタイプだと思う。


 それと、ミアが一人で災厄の魔物に挑むとは思いもしなかった。

 不安を気付かれない様にしていたつもりだったのに。でも、家族だからしょうがないのかもしれない。私もミアが不安そうな顔をしているとすぐ分かっちゃうから。


「でも一人で行くかなフツー」


 まったくミアは……世話を焼かせるんだ。

 魔法の才能もあって頭も良いあの子は、絶対に魔法学校に行かせてあげないといけない。そして将来は王宮務めだ。ミアはスラム街の片隅で親も知らず、ゴミを漁って生きてきたとシスターは言っていた。そんなあの子は絶対に幸せにしなきゃいけない。

 そのためにも私が頑張らないと。もう頼れる人はいないのだから。


「シスター……いえ、マリィお姉ちゃん……会いたいよ……」


 本人はシスターと呼べと口うるさく言っていたが、私はお姉ちゃんと呼んでいた。その度に色々言われたっけな。


 そんなシスターは、ここ一年何処か遠くに行っていて、家に帰ることがほとんど無かった。何かやらなきゃいけない事があったみたいだけど、何も教えてはくれなかった。私は何も知らないのだ。シスターことを。思い返しても、あの人が過去を語ってくれたことなどほとんど無かった。


 それに何故か、教会とかなり親密だった。シスターという立場以上に中枢に近かったような。予言の巫女とも何か関係があるようだったし。でも直接教会に聞いてもシスターのことははぐらかされる。

 亡くなったと聞いたのも教会伝にだ。教会主導で葬儀を行ってくれたが、準備など手際が良すぎたようにも感じる。

 だめだ、考えてもよく分からない……それに段々と悲壮感が……。


「弱気になっちゃダメっ! 明るく前をみるんだエミリー!」


 パンッっと一回頬を叩く。そうだ。これからどうするかを考えないといけない。当分はミアの学費を稼ぐのに専念するが。その後は……。


「結婚、なんかも……」


 でもまずは相手を探さないといけない。男性はあまり得意じゃないのに。特に冒険者は気性が荒い人が多くて苦手だった。パーティーも、女性だけで組んでいるところにしかヘルプで参加してなかったほどだ。


「朔夜さん、か」


 色々考えてみても、行き着くのは結局この人だ。朔夜さんの事は考えないようにしていたのに。でもあの日、死にかけた時に会ってからずっと考えてしまう。


 もう私は意識してしまっているのだ。特別な異性として。


「ハァ、だってずるいよ……ピンチの時に助けてくれるなんて。もう……昔お姉ちゃんが読み聞かせてくれた、絵本の王子様みたいだよ……」


 黒髪に黒目で、優しい雰囲気と整った顔。身長は私と変らないか少し高いくらいで、細いのに意外と力はある。

 それに災厄の魔物をいとも簡単に倒せる超常的なまでの強さ。一人で軍隊一つ分の力だ。あれは何なのだろう。聞きたいことが沢山あるのに聞けない。私は、彼に嫌われたく無いのだ。だから詮索出来ない。本当はもっと……知りたいのに。


 ぎゅっと自分の身体を抱きしめ、浴槽で体育座りになる。大きな胸は膝に押されて柔らかく形を変える。


「朔夜……さん……」


 でも、駄目なんだ。彼は旅をしている。いつまでも引き止める訳にはいかない。そう分かっていても、離れまいと私はイヤな行動を取ってしまうんだ。

 災厄の魔物が落とした大量の魔石。それらを換金して得たお金。絶対にそのお金には手を付けず、朔也さんへ渡すつもりでいる。でも、それだけ、それだけなのだ。彼と私の確かな繋がりは。


 お金に目がくらみ、魔石を笑顔で受け取った悪い女だと思われていないだろうか。強引にパーティーを組んだのも変だと思われていないだろうか。無理やり家に引き留めた、強引な女だと思われていないだろうか。

 不安は募るばかりだ。でもそれ以上に、彼の傍にいたいという気持ちが溢れ出てしまう。



 叶うなら彼と……。

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