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第10話 パーティー

 商店街から二十分ほど歩いて大通りを抜けた先に冒険者ギルドはあった。ダンジョン入口に比較的近く、行きや帰りに立ち寄りやすい。


 エミリーの後に続いて冒険者ギルドの中に入ると、そこは想像以上に広かった。入口の右手には掲示板、左手には買取所の様なもの、奥に受付カウンターがあり、七人の受付嬢が座っている。

 行き交う冒険者を見てみると意外と女性も多い。それに冒険者たちは四、五人単位で固まっている。


「何人かで集まってるのは?」


 受付嬢を左から順番に見て、見知った顔を探しているエミリーに質問してみる。


「パーティーですね。気の合う人達で組んでるんです」


 そうなのか。じゃあエミリーもどこかのパーティーに所属していて……その前に。


「そういえば今更なんだけど、エミリーさんは冒険者? で生計を立ててるの?」


「私ですか……そうですね。冒険者は時々です。基本は教会のお手伝いでお金を貰っています」


「時々……ね。教会のお手伝いってどんな事をするんだ?」


「基本的には回復魔法で怪我人を癒したりですかね」


 ということはダンジョンにはあまり潜らないのか。意外だ。


「あっ、そういえばあの魔石なんですけど、どうしましょう」


 唐突に思い出したように声をあげるエミリー。


「あの魔石……あー、災厄の魔物のやつか? 俺は別にいらないんだけど。エミリーさんに全部あげるよ」


「えーっ! いらないんですか!? かなりの額になりますよあれっ……えーっ! いいんですか!?」


「うん」


 俺はマイルームさえあれば満足だ。この国のお金を持っていたって使い道が無いからな。ゲーム機買えるわけじゃないし……と、強がってみるが、実際は彼女に懐が広いところをみせたいだけだ。


 ありがとうございますと頭を下げて、笑顔で買取所まで走っていくエミリー。俺は少し遅れて後ろをついて行った。


「ここは商業ギルドがダンジョンで拾った魔石を買い取ってくれるんですよ」


 査定の最中にそう教えてくれたエミリー。

 冒険者ギルド内に出店してるのか。違うギルド同士でも関係は良好みたいだ。


 暫くして査定も終わり、金貨を何十枚も受取るエミリー。商業ギルドのおっちゃんは、『こんな大きい魔石見たことねぇ』と言ってたが、天井を突き破る前、最下層で彷徨っていた俺はそれより大きい魔石をいくつかと、平均といわれるサイズ以上の大きさの魔石を沢山無限収納に仕舞っている。最下層ジャングルフィールドの副産物だ。


「朔夜さん、本当にいらないんですか?」


 困り顔で言うエミリー。負い目を感じてるみたいだ。まぁ、これが普通の反応だよな。


「ほんといいって。じゃあそれで何か美味しい物でも作ってよ」

 

「もう……分かりました。では今日はご馳走ですね」


 でも良いのだろうか。今日もお世話になってしまって。孤児院とはいえ、女性だけで暮らしている家に男が泊まる……いや、駄目だろ普通。

 昨日は特別に恩を受け取った形にして、貸し借無しにしただけだ。


「エミリーさん、昨日は泊めてくれてありがとう。今日はどこか宿でも探すよ」


 少し寂しいが、そう提案する。賑やかで楽しかったが、甘える訳にもいかない。

 でも夕食だけはご馳走になろう。


「ダメです。朔夜さん、ここらへんの事とかまだ何も知らないじゃないですか。そういった常識を身に着けるまでは出て行かせません」


 ぷくっと頬を膨らませるエミリー。やっぱり俺の誤魔化しは全部ばれていたのか。あまりにもこの世界の常識を知らなすぎだもんな。


 それにしても意外だ。こんなに強く出るなんて。そんなの言われたらまた厄介になるしかないじゃないか。


「ありがとう。じゃあ暫くお世話になるよ



「はいっ」


 優しい彼女に、また俺は甘えてしまった。



 

 ギルド入口近くのスペースに、丸いテーブルと椅子が四つのセットが複数ある。そこの一つにエミリーと向かい合って腰掛ける。ここは各パーティーが集まって話し合いをする場のようだ。


「あの、エミリーは……パーティーとか組んでたりするの?」


 俺は意を決して切り出す。男だらけのパーティーの姫ですとか止めてくれよ……。


「私は」


「あら、エミリーさん」


 知らない女性が話し掛けてきた。見たところ受付嬢みたいだが、何の用だろう。


「あ、イザベラさん。受付にいなかったみたいですが」


 エミリーも笑顔で応える。二人の様子を見るに仲が良いみたいだ。俺は空気になろう。


「休憩よ休憩。それにしてもあのエミリーさんがねぇ……ふふっ」


 チラッと横目で俺を見る受付嬢。


「えっ……! そういうのじゃ、な、ないですからっ!」


 顔を赤くするエミリーと、彼女をからかう受付嬢。

 俺は何のことだか分からないが、エミリーに否定されたのがショックだ。それから受付嬢は俺の方を向く。


「こんにちは。受付をしております、イザベラです」


「どうも、一ノ瀬朔夜いちのせ さくやと言います」


 なんだ。ちゃんと挨拶をしてくれる良い人じゃないか。

 見た目は綺麗なアラサー女性という印象だ。もちろん良い意味で。


「それで、エミリーさんとはどういう関係なのかしら」


「いや、俺は……」


「もうっ、止めて下さいイザベラさんっ」

 

 意地悪に笑いながら質問するイザベラさんに、エミリーは赤くなって反応する。そういうリアクションが可愛いからいじられるんだエミリー。


「ふふふ。悪かったわエミリーさん。でも、この前も女性だけで構成されたAランクパーティー、プテロスティリスの誘いを断っていたから不思議に思っちゃってね」


 高ランクっぽいパーティーの誘いを断っていたのか。何故彼女は加入しないのかと疑問が頭に浮かぶ。


「邪魔したわね。そろそろ仕事に戻るわ。一ノ瀬さん、エミリーさんをよろしくね」


 そう言い残してイザベラさんは受付へと歩いていった。


「もう、あの人は……」


「あはは、面白い人なんだね」


「ふふ、そうですね。冒険者になりたての頃は優しく教えてくれる良い受付のお姉さんだったのですが、いつからかあんな感じなってしまって。でも、基本は真面目な人ですから」


 そう言ったエミリーは優しい眼差しをして受付の方を見ていた。


「あっ、それで私がパーティーを組んでいるかでしたっけ? 私は、パーティーは組まずにソロで活動していますよ」


「それはまた何故ソロで?」


「私に生きて行く方法や魔法のことを教えてくれたシスターがそうだったんです……」


 やってしまった。亡くなってしまったシスターを思い出させるようなことをしてしまった。だがそれにしても、シスターさんは冒険者としての腕も立つのか。

 儚い表情をするエミリー。そんな彼女を見ると申し訳ない気持ちでいっぱいになる。話題を変えるか、強引に話を進めないと。


「エミリー、付き合って欲しい」


「えっ? あっ……あぅ……」


 違う!端折りすぎた。これじゃあただの告白だ。早く、早くなんとか修正しなければ。エミリーも下を向くんじゃない。ふわっとした明るい茶髪の隙間から見える耳が真っ赤だ。


「あの、違うんだ。一回。一回で良いんだ。やりたぃんだ……」


「えっ?」


 顔を上げ、笑顔のまま怒った表情になるエミリー。ドスの利いた声で俺の言葉は遮られる。

 俺はただやりたいことがあると伝えたいだけなんだ。


「いや、あの、またダンジョンに行きたいんだけど、よく分からないから一回だけ付き合って下さいませんか?」


 ダンジョンから出てきたのにダンジョンのことがよく分からない。何か見落としていたかもしれない日本への手掛かりのため、仕様だけでも知っておいた方が何かといいだろう。


「あー、そ、そういうことですか、コホン。それでしたら受付でプレートを発行してきましょう」


 ようやく意味がわかったのか、納得の表情をするエミリー。余計な詮索をしてこないのは本当に助かる。

 

 

 エミリーの案内で、受付まで移動する。それは人が並んでいるのとは距離を置いた、端の方にあった。

 黒くて高さは一mほどの四角柱。細長く、上の部分は平で若干斜めに傾いている。


「朔夜さん、この上に手を当てて下さい」


 俺は言われた通り手を乗せる。すると柱の中程のフタがスライドして細い切れ込み状の穴が出現し、そこから何かが出てくる。

 それは金属のカードで、大きさは免許証くらいだ。


「これがプレートです。冒険者ではない平民や商人の方でも持っているんですよ。身分証として使えますし、なんと言っても魔法の適性が表示されますから」


 魔法か、俺も使えるのかな。だとしたらやってみたいことは沢山ある。手から炎とか空飛ぶ箒とか。


 期待を込めてプレートを見る。項目は、名前と職業、魔法か。もちろんこの世界の文字で記述してある。名前は一ノ瀬朔夜、職業は空欄か。学生とか書いてあってもいいのに。そして、魔法の欄は……空白だった。


「なぁ、エミリーこの場合って魔法はどうなんだ?」


 彼女にプレートを渡す。


「失礼します。これだと……残念ながら使える魔法はありませんね……」


「ああ、そうか……まぁ分かった」


 俺はscoの装備と、異常に高い身体能力があるから魔法が使えないのもしょうがないのかもしれない。そう自分を納得させる。だけど、魔法使ってみたかったな。


「でも、朔夜さんはすごい力を持っているので大丈夫ですよ!」


 胸の前で拳を握りしめ、励ましてくれるエミリー。そんな彼女の言葉に元気を貰う。少しだが、落ち込んだのが馬鹿らしく思えてきた。


「あはは、ありがとエミリー」


 ついでに彼女の肩を軽く叩く。

 二回ポンポンと叩いた後に肩から下ろそうとした右手は、エミリーの手に掴まれた。彼女の両手の体温を感じる。とても温かい。

 エミリーは俺の右手にプレートを滑り込ませ、空いた手で自分のプレートを取り出すと、俺の手に重ねた。


「これで、パーティー成立です」


 彼女がそう言い、俺も自分のプレートを見るように促される。

 二人のプレートにはパーティーと言う項目が出来ており、メンバーの欄にはお互いの名前が刻み込まれている。


「パーティーを組むには、メンバーが思いを合わせないといけないんです。どちらか一方の思いだけじゃダメで、お互いにこの人と組みたいって思わなければいけないんです。ですから、今は私も朔夜さんも気持ちが通じ合っているということになります。それって何だか素敵なことだと思いませんか? ふふふっ、それと、パーティー名はこれから考えないといけませんねっ」


 そう言って微笑むエミリー。


 落ち込んだ俺を慰める為に、信念を曲げてまでパーティーを組んでくれたのか。それに俺がエミリーとパーティーを組みたいという思いを察してくれたみたいだ。

 エミリーという女性はまったく、超が付くほどお人好しで、素敵な人物なのだ。

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