キャンプ
今日はこの辺にするか。
日が落ちてくる前に今日の寝床を定める。どうせ明日の昼くらいまではずっと寝ているつもりだからしっかりとしたキャンプにしよう。天気予報じゃここ一週間は晴れたままだ。天幕はいらない。
放置されて荒れた土地。どこの企業国家にも属さない緩衝域。いちおうニホンではあるのだろうが管理はまったくされていない。
こんな土地だから土砂崩れや崩落が怖い。明るいうちから安全な場所を定めよう。
見たところゴミは転がっていない。あっても年季が入ってUVで崩壊しかけたプラくらい。中に人が立ち入った気配はない。まずはここにしよう。
一歩踏み入れる。ほこりがたち、空気が悪くなる。
ちょっとだけ待ってマスクを外す。かび臭くはない。室内だというのに。まあ窓にガラスは一枚も残ってはいないけれど。
元々はオフィスビルかなにかだったのだろう。カーペットだったらしい床は砂埃にまみれ見る影もない。古い事務机と液晶モニター、壊れた端末機材。
このあたりにはゴミあさり連中はいなかったようだ。
屋上まで上り、周りを見渡す。
誰もいないビル群。無人であることが嘘のようだ。
あと数時間で日も落ちる。地上からは見えない位置にソーラーパネルとアンテナを設置する。
スイッチを入れるとアンテナは衛星を探して動き出す。ソーラーパネルは迷いなく太陽に向かう。
バッテリーのステータスが充電を示す。
つい満足そうに頷く。これから数日はここがキャンプだ。
とりあえずの拠点として荷物を机の陰に隠し、セキュリティアラームをセットする。
念のためだ。たぶん盗まれることも襲われることもないだろう。ここに寝床を決めるまで数十分ほど電波を拾ってみたが通信一つも見つけられなかった。数キロ四方は無人なのだろう。
荷物を置いたフロアは放置し、一つ下のフロアから使えそうなものを探していく。
まずは壊れた端末機材。配線を外し、部屋の一カ所にどんどん投げていく。手つかずのオフィスは珍しい。一斉になにかがあって廃棄されたエリアなのだろう。十数台の端末を並べてチェック。どれもボロボロだが中のパーツは金になる。
ガワをバラして拡張基板とメイン基板を取り出す。クーリングファンや金具類はいらない。メモリ基板はひとまとめにしてジップロックに入れる。メイン基板はCPUが分離できるタイプ。どんどん外し、別のジップロックに投げ込む。裸にされたメイン基板は横に置いておく。
筐体とファンとネジ類。これはゴミ。コスパが悪い。離れた所においた袋に投げ込んでいく。
メモリとCPUは金が採れる。端末はキロあたり数十ニューイェンで売買される廃棄機材。場合によっては廃棄料金がかかる。だが、こうやって分類してやればキロで百ニューイェン程度に跳ね上がる。持ち歩ける体積にもなるしな。
スクワッター連中は銅やアルミを集めて金にしているようだが、俺は違う。貴金属専門だ。それも精錬業者に持ち込む本職と違って手軽に集められる金やプラチナ、パラジウムを狙う。
集めたメイン基板の中から金が使われているパーツを剥いでゆく。石を砕くための電動ハンマーでバリバリと表面実装部品を剥がしてしまうのだ。
下に敷いたブルーシートの上に砂粒みたいな部品が集まってゆく。金が集約されたチップも一緒に落ちていく。
チップ類はジップロックに。細かい部品類は数ミリのキャパシタだけ“ふるい”にかけてプラボトルに流し込む。多少は無価値なチップインダクタも混ざってしまうが気にしない。どうせ買い取る精錬業者は一緒に処理しちまうんだ。グラム単価は下がってしまうが手間をかけるほうが損になる。
主なパーツを剥ぎ取った基板はトン袋と呼ばれる袋に詰めていく。まとめて隠しておいて位置データを売る。これでもコネクタに残った金メッキや基板配線の銅が回収できるので業者が買ってくれる。
俺はパーツ類専門。基板は専門外だ。
分けておいた拡張基板は品番を見てそのまま売るか部品にしてしまうか決める。
残念ながら今回は外れだ。演算性能も並みなら金の含有量もたいしたことがない。ヒートシンクを外してメモリチップとキャパシタだけハンマーで剥がす。まとめて袋へ。基板はトン袋に。
数日かけてこのビルをあさり尽くした。収穫はかなりのもの。基板はトン袋にいっぱい。写真と位置データを記録し、見つかりにくい場所に隠す。
CPUとメモリ基板、キャパシタはそのまま荷物に。基板から剥がしたチップ類はステンレス鍋の中で砕いて燃やす。水酸化ナトリウムで余計なものを取り除いたら残ったものを水洗いしてプラボトルに詰める。あとから金や貴金属を取り出すために。そのまま持ち歩くにはかさばりすぎる。
ここでできることは終わった。ビルの表に収穫済みのマークをスプレーして次のビルに向かおう。




