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近未来SF短編集 in United Corporation of JAPAN  作者: あのワタナベ
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タトゥー屋

 タトゥーを彫る。一般的な下町出身者ならそのまま彫る場合が多いが、都市国家の隙間に生きるスクワッターたちは皮膚がひどい状態であることも多い。


 その下地作りとして薬品か外科処置で一皮むいて、皮膚再生薬を吹き付け新品の皮膚を作る。真皮まで刻まれた深い傷は完全には消せないが、吹き出物、細かい怪我の痕などこれで綺麗になる。通常は一週間かかる行程だが、未認可の代謝促進剤と専用の栄養補助食品を組み合わせれば簡単だ。3日もおとなしくしていれば新品同様の卵肌。


 通常はそこに所属組織のIDやロゴをプリントする。埋め込みIDチップが読めなくなったときの保険や組織から逃げるやつの首輪としてのタトゥー。

 場合によっては通電率を変えたインクで電子回路を形成する手段にも使われる。これはよほどのハイエンド身体強化技術とセットで使われるようだが。


 ミドルエンドならフレキシブル回路を皮下埋め込み。フィルム基板を作って皮膚を()いで埋め込み、皮膚を縫い直す。基板は一定間隔で穴があいているから皮膚と真皮の間で固定される。多少つっぱる感じが残るかもしれないがそのうち慣れる。治癒定着してしまえば皮膚の下に透けて見える金属薄膜の幾何学模様が機能を果たす。


 ID埋め込みはこれの極小規模版だ。マイクロチップとマイクロアンテナのコンポーネントをプラフィルムで包んだパッケージ。これをデータリーダーの非接触電力で動かす。実際はタトゥータイプのIDインプラントのほうが安価だ。だが施術するマシーンが高価で貧困層が行くような施術屋(インプランター)には置いてない。多少は金のある一般人が趣味や装飾(ハッタリ)で行う場合が多い。大手の社員章代わりだったり特定組織の所属者(ヤクザやギャング)が見せびらかすように施術したり。


 で、新しく施術するのが今回の客。今まで何のインプラントもなしのまっさらな客だ。


「いまどき珍しいね」


 つい口をついて出る。


「詮索なし、現金払いって聞いてたからここにしたんだけど?」


「ちょっとした世間話さ。気にしないでくれ。注文はタトゥーとID埋め込みだったよな?」 


「持ち込みのメモリどおりにコードタトゥを入れて、その下にインプラントを入れてくれりゃそれでいい。質問は無しだ」


「タトゥはすぐに入れられる。でもインプラントは最低三日はかかる。インプラントが先だよ。念のための確認だ」


「すぐにやってくれるんじゃないのか?」


「インプラントをタトゥの真下に入れるなら傷が治るまで三日かかる。その後にタトゥを入れないと図案が(ゆが)む。すこしズレた位置にインプラントするならすぐに終わるけどさ」


 で、どうすんの?

 視線で聞く。


「分かった。タトゥとインプラントはズレていい。代わりに今すぐやってくれ」


「なら事前に伝えたとおりの手数料(コスト)だ。メモリを出してくれ」


 無言でポケットからメモリカードと電子マネーカードを取り出す客。

 受け取って端末に乗せて読ませる。電子マネーは前払い分。

 モニタには施術する腕のリアルタイム映像。それに重なるように表示されるタトゥの図案。腕の形に添って(ゆが)みが出ている。


「図案がちょっと大きいな。端が歪むがそれでいいのか? それとも補正しておくか?」


「そのままでいい。端末で読み取るわけじゃない」


「オーライ」


 ちょっと痛いけど動かすなよ?

 と断ってベルトで腕を固定する。レーザースキャン。位置を決めてインプラントを埋め込む事前処置の部分麻酔。新品の滅菌パック入りメスを取り出し皮膚を引っ張る。


「ここにインプラントが入る」


 説明とともに腕にインプラントの位置を示すレッドレーザー。


「タトゥはこのあたり。OK?」


OK(ケー)。さっさとやってくれ」


 ため息一つ。よほど急ぎのようだ。


 施術部位を除菌シートで拭いて。すっと皮膚の上をメスが滑る。赤い玉がいくつか浮かび上がり、表面張力の限界とともに崩壊する。それをガーゼで拭き取り、オート鉗子かんしが皮膚を引っ張り上げる。皮膚と真皮のあいだにヘラを滑り込ませ、ミチミチと音をたててあいた隙間にインプラントを差し込む。

 皮膚を戻して。あとはステープラでパチンパチンととめていく。血を拭いて。皮膚に走るラインにそってテープを貼って。インプラントのほうはこれで終わり。

 後はタトゥだ。位置決めしたところで実行ボタンに触れる。レーザーが真皮に届く威力で焼いていく。終わったらインクシートを傷痕に貼って定着待ち。

「3時間たつまでは触れるなよ? その後はゆっくり剥がしてこれを塗っておけば12時間で定着する。インプラントのほうはこっちのスプレー。冷蔵庫で保管してくれ。一日おきに吹き付ければ三日で治る。縫った針は皮膚に吸収されるから」


 そういって軟膏(なんこう)とスプレーを渡す。


 客はそれを受け取るとだまって端末を差し出す。


 読み取って支払いも終わり、電子マネーカードを返す。とくにトラブルもない。10分かそこらの仕事だ。機械さえあればだれでもできる。だが。本物と寸分違わぬ完成度を求めるならオレみたいなプロにたのみな。こっちは10年以上これ専門でやってんだ。素人が入れたインプラントなんざすぐにバレるぞ。うちのインプラントなら入管だってフリーパスだ。


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