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近未来SF短編集 in United Corporation of JAPAN  作者: あのワタナベ
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潜入屋2


 ちょっとだけ緊張して目的のビルに近づく。


 メインゲートの手前に兵士の一団。ラフな恰好に鋭い眼光。腰と手には銃。

 その視線を流してビルを見上げる。


 雨が降る。その(けむ)ったグレイの中に伸びる二等辺三角形。先端は雲と雨に紛れ、探照灯の白いラインと航空障害灯の赤だけが見える。


 裾野は広がり、視界の外。

 ビルの大きさを強調している。


 憂鬱な気分を隠そうともせずにゲートをくぐる。警備員がこちらを監視している。

 手慣れた風を装ってバッグを預ける。かるくスーツを整え、胸元のIDを示すと赤色レーザーがそれを読み取る。


 confirm


 メインゲートの内側で扉が開く。スキャンを抜けたバッグを受け取り、当然といった表情で歩き出す。


 第一関門は通過。


 問題は次だ。ターゲットの部屋は三つのセキュリティで守られている。一つ目はID認証。二つ目は重警戒エリアのゲート。有人によるチェックがある。わざわざ訪問予定があるかを確認することで異常な生体データが発生しないか監視している。いわば嘘発見器。そして最後は掌紋、光彩およびDNAの組み合わせ認証。


 一つ目のID認証はサーバのデータ改竄で有効な認証を取得している。


 二つ目は薬物で心拍数や呼吸数を調整することで誤魔化せる。社員は数週間ごとに薬物チェックがあるから無理だろうけれど、一回限りの潜入ならこういう手段も使える。


 三つ目の掌紋、光彩、DNAの認証。これは義体化した人間だと使えない。そういった場合は公開鍵暗号を認証サーバに置くことで、本人認証を行う。こっちの情報をハックして抜ける。認証サーバはDNA認証サーバと同じ程度の安全さだがハックは不可能じゃない。末端の人間ならセキュリティチェックもぞんざいだし、重要エリアに入れる権限持ちのIDは定期的にチェックされる。

 だが一回限りの認証を通すだけなら発見される前提であれば書き換えは不可能じゃない。防犯カメラや生体情報と合わせて二度と入れなくなるだろうけれど。どうせ顔は変えられる(・・・・・・・・・・)。生体情報も歩き方のモーション認証も一回限りと割り切って使い捨てるなら侵入可能だ。



エレベータで目的の階層に向かう。階を指定する段階でIDを読ませる。ピピッという軽い音と共に認証される。


 ちょっとしたGを感じつつ待つ。


 ポーン。


 第二関門の一つ目を通過。

 エレベータを降り、外耳奥深くに埋め込んだ音声ナビに従って目的の部屋を目指す。

 途中で警備兵が遠慮のない視線を飛ばしてくる。日系のようなので軽く会釈しつつやり過ごす。とその瞬間。


「見ない顔だな」

 普段は研究員ばかりを相手にしているのだろう。自分より上の階級が来るのはめったにないに違いない。それが態度に出ている。


「本社からの監査派遣です。ここは初めてですから」

 そう言って胸元のIDを示す。同時に牽制代わりに。

「そちらもIDの提示を。警備体勢も報告対象ですので」

 端末のカメラを相手のIDに向ける。すると態度を軟化させ。

「これも任務ですので」


 相手の端末には顔写真と上級クリアランスの文字が表示されているはずだ。


「ご協力感謝します」

 警備兵はクリアランスのランクだけを見て萎縮してくれたらしい。

 どこの企業でも、特に兵士は階級に弱い。


 念のために仕込んだトリック。情報屋が一時的に階級を書き換えてくれたのが効いている。ハッキングが露見する可能性を減らすために一時的に書き換えているだけなのだ。10分後には目的の部屋に入るのがせいぜいの研究員ランクに書き戻される。

 架空のIDを取得するのは露見しやすいので実在の研究員IDの写真やプロフィール、生体情報を書き換えているのだ。ブツの回収が終わったら書き戻されて痕跡を消す算段。巡回警備に遭遇したときだけ上級IDに見せかける。このIDだと研究開発部門に入るには書類が必要になってしまう。なので今だけ。

 必要なときに必要なものを。いま侵入している通販会社のキャッチコピーだったっけ。


 ほとんど無人の廊下を歩き、目的の角に到着。第二関門の二つ目、研究室前の警備チェックが待ち構えているはずだ。

 ふたたびゲートをくぐり、バッグをスキャンさせなくてはならない。


 角を曲がる直前に髪をまとめ、色気のないゴム紐で縛り、ARメガネをかける。監査部門のエリートから地味な研究員に変身だ。



「お疲れさまです。今日からこちらに配属された……」


 と言ってバッグを渡し、わざとバッグにIDカードを引っかけて落とす。


 あわてて落ちたカードを拾い、警備員に手渡す。本来なら渡す必要などないのに。ダメ押しに握手をして。


「よろしくお願いします!!」


 憧れの本社勤務に配属されたばかりの不慣れな研究畑、オタクガールを演じる。


 薬は効いているが、あわてた姿を見せたので多少の心拍変動があってもおかしくないはずだ。


「あーはい」


 警備のおじさんは鼻の下を伸ばすこともなく淡々とチェック。端末の写真とIDを見比べつつの生返事。さすがに秘匿研究部門の警備は甘くない。

 しかしこちらも情報戦のプロがバックについている。


「今日から?」


「そうです。何回も転属願いをだして、やっと念願叶いました!! 本社での開発です!!」


 無駄なテンションと元気な笑顔でおじさんに喜びを伝える。


「うん、まあがんばって」


 そして軽くスキップしつつゲートを抜け。


「キミ!!」


 呼び止められる。


「バッグ忘れてるよ」


 やりすぎだっただろうか。

 なんにせよ目的のエリアに入ることができた。


 関門はあと一つ。


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