資金集め
資金集め
死人のIDを200人ばかり集めたけどどうすんだ?
コンテナ要塞の一室で、タバコの蒸気にさらされながら調達屋が疑問を口にする。
その顔はモニターの光で青白く照らされている。
「こいつらが生前使っていた、色々なアカウントの電子マネーやらポイントやらをかき集めて使うのさ」
買い取り屋が答える。
「どうせ大した額にはならんだろ?
手間ばかりかかりそうだし」
調達屋がふたたび疑問を口にする。
「少額でもバカにできんぜ。本人も忘れてる口座やポイントの残高だよ。分かって使っているやつよりたまってたりするもんでな。一つのサービスあたり月に1ニューイェン程度でも、数年放置してたら50やそこらは行く。大概の人間は複数のサービスを持ってるからその分が上乗せだ。利息はつかねえがな。
どっかの企業城下町の住人だと、そこのポイントばかりになるから効率がわるい。だからそこらをチョロチョロしてる連中のIDからかっさらう。企業国家の隙間に住む人間はいつどこに追い出されるか分からねえからな。いろいろなアカウントを持ってるもんだ」
「確かに俺もいろんな所のアカウントをもってるけどよ。そんなうまく行くもんかね」
カタカタと機械式キーボードを叩きながら買い取り屋が口を開く。
「こうやって集められるIDの人間ってのは身寄りがねえからな。死んでもそのまま放置されてる。アカウントや口座の凍結申請をする遺族がいないからな。企業口座のポイントなんてのは動かなきゃそのまま企業の資産みたいなもんだ。遺族からなにか言われない限りそのまんまってのがほとんどさ。
だからこうやって……、ほれ金庫が開いたぞ、と」
モニターに表示された文字列の一部が明滅し、結果を示す。
メジャーな企業のアカウントを検索し、辞書型攻撃と総当たり攻撃でパスを割っていくプログラムが自動的に走っていた。裏稼業ならIDとPASSの詰め合わせセットも手に入るから、そこを糸口にメールやメッセージ、保存されているテキストを収集してそれらしい文字列を辞書にする。それが通らなければ総当たり。
これらを自動で行い、特定のアカウントを経由して別の電子マネーに換金するソフトウェアがクラウドサーバで実行されている。実態はどこかの企業が時間貸ししているサーバのプロセスだ。物理的な実態は世界中に拡散されていてどこにあるか使用者さえも分からない。場合によっては個人の端末を間借りしているのかもしれない。
この処理は膨大なトラフィックにまぎれて警察が追うことも難しい。そもそも生きてるか死んでるかも分からない人間の財産を守ろうなんて酔狂な企業警察は存在しない。どっかの詐欺かなにかで訴えられているアカウントが紛れていれば別かもしれないが。
こうしていくうち、数時間で数万ニューイェンの電子マネーが架空口座に集まる。これも実態は分散処理されていて追跡は難しい。個人のメタデータと紐付けされている普通の電子マネーとは違う。割といいかげんな企業通貨ならでは。正規に発行されたものであれば誰が使おうと構わないのだろう。
「OK、数ヶ月は遊んで暮らせるだけのポイントが集まったぞ。手間を考えりゃ十分すぎる利益だな」
「他のやつは同じ事をして稼がないのかね。ID売りなり、おまえさんみたいな買い取り屋なり、IDをまとめて扱う人間もいるだろうに」
「こういうのはマイナーな手口のうちに稼いだもん勝ちでな。このやり方は最初の一回と今回だけしかやってねえ。
かなり前にソフトが得意な技術屋にコードを書かせたのさ。情報屋とつるんでるクチの奴だったがID屋にはコネがなかったから流れることもねえだろってな。案の定、大当たりよ」
「情報屋がいるならそいつを使って売れる先を見つけそうなもんだけど?」
「そいつはまともな技術屋だからな。横流しするようなやつじゃねえんだ、若えし。情報屋経由で知った相手だからな。顔を潰すようなことはしねえさ。
情報屋は昔気質の義理人情を重んじるジジイだ。元々そいつの小僧をやってたらしいから頭が上がらねえんだろ」
「あの情報屋がねえ。あのジジイなら知ってるけどよ。小僧を技術屋にまで育てるなんて相当だぞ?」
「情報整理の小僧をやらせてるときに作業を半自動化するコードを書いて効率を数十倍に上げちまったとかなんとか。無学のガキがそんなことをやるくらいだ。若い衆に取り立てようって気にもなるさ」
「IDなしのストリートチルドレンだろ? どこでそんな技術を身につけたんだか」
「さてねえ。なんにせよ情報屋の右腕に収まってる技術屋だ。ソフトが専門だ、どれそれが専門だ、なんてやってる本職より安くて腕がいい。コード書きがいるならアイツしかいねえ。俺ならそうするね」
「俺にゃ無縁の話だな。調達の仕事にゃコードはいらねえ。地主がいれば仕事はできるさ。お前さんがID買ったのと同じ地主に依頼するとしよう」
そう言って調達屋が新しく買った端末から地主にコール。
さて、こっちの仕事は終わった。あとは調達屋の仕事を見学させてもらうか。




