合成屋
ああ爆薬ね。
いつも通りに注文を受け、頭の中で材料と必要量を考える。
「すぐに使う?それとも他に流す?」
数日以内、という返事を受けて安い方を提案。それで了解をもらったのでさっそく調達屋に連絡。
「髪の色抜き剤と掃除用のクエン酸を頼むよ。嫁さんの知り合いの分と合わせて大量にな」
次に知り合いの塗装業者に連絡。シンナーの一種をガロン単位で注文。これは瞬間接着剤からシール、マニキュア剥がしなどとして流通している。用途は多いので今回使う以上の量をオーダーする。別に女装したい訳でもない。吸ってトリップする趣味もない。
シンナーの一種を鍋に注ぎ、氷水に浸ける。温度計を挿して15度を越えないように見張りながらクエン酸を溶かす。硫酸のほうが効率はいいが、今のご時世だとなかなか入手しにくい。
そして事前にゆっくり煮詰めて濃くした脱色剤を計算した量だけゆっくり注ぐ。ここを手抜きで一気に混ぜるとできる物質の結晶が変わってしまい、難しくなるし危険だ。
それに大量に作りすぎると摩擦や熱に鋭敏な物質を大量に扱う羽目になる。少量ずつ作って小分けにしておかないと危ない。
伊達に合成屋とは呼ばれていない。安全には細心の注意をはらっている。といってもどっかの研究所や製薬会社に勤めていたとかの経験がある訳でもないんだが。
趣味でいろいろ作ってるうちにそう呼ばれて注文を受けるようになったってだけだ。その注文には風邪薬から覚醒剤を作ったり、貧乏人に頼まれて鎮痛剤をかさ増しする成分を作ったり、っていう法に触れるものが多いだけだ。
他に仕事にしてるやつがいない、少量のアブナイ物質が欲しい、って連中はどこにでもいるが、供給者がいなかったから商売になっている。地元の製薬会社とは商品や客層は被らないし。
全部混ぜたらキラキラした結晶が液体内に現れてくる。あとは冷蔵庫でじっくり寝かせて結晶を成長させてやるだけだ。次のボトルを用意しよう。
倉庫には冷蔵庫と電熱器、電源装置とバケツの電気分解漕。ダクトを引き回した換気扇に作業テーブルと消火器、各種実験機材にグローブにゴーグル。
実にシンプルな化学プラント。原材料の類は別の倉庫だ。薬品の消火方法別に自動消火装置とともにコンテナを分けてある。危険な成果物はまた別のコンテナ。
先に作った物質をボトルから出して点火したり摩擦したり。想定通りの反応。上出来だ。あとは冷蔵中の結晶入りの鍋で一度結晶化させたものを液体だけ分離して精製水で何度か洗い、乾燥させれば出来上がり。輸送時の衝撃が怖いので詰める直前に現場で完全乾燥させる方法にしよう。
もちろんこれだけだと鋭敏すぎる上に威力を出すには量が必要だ。なのでこれを起爆薬としてもっと安価で安全な爆薬をメインにする。
こっちは肥料と燃料で簡単に作れる。大量でも簡単には爆発しない。
いつでもOKだぜ、なんでも屋さんよ。




