用心棒と弟子候補
なるべく一人目を派手に、むごたらしく痛めつけろ。
一撃じゃなくていい。痛みを想像させろ。そういうやりかたで痛めつけろ。
ナイフで手や太ももを切れ。指先を紙やカッターナイフで切ったことくらいあるだろう。あれの数倍の痛みを目の前で見せつけろ。
銃で足や腹を撃ち抜け。もがき苦しむ様を晒させろ。
集団で襲ってくるような奴らは周りに流されてハイになっている。だから冷や水をぶっかけてやるんだ。ハイな状態から普通の精神状態に引き戻してやれ。
集団ならやらかす連中でも一人だったり、普通のテンションなら恐怖を感じる。普通の人間は他人を傷つけることや殺すことを躊躇するんだ。
たまに一人でも殺すことに抵抗を覚えないやつもいる。イカレたやつか、誰かによほど恨みをもってるか、世間が憎いか、クスリをキメてるか。
そういうやつ。失うモノが無いやつだ。
だが大概は一人では殺せる生き物じゃない。自分より弱いと認識している存在でなけりゃな。
あいつらが子猫だと思ってた相手がライオンだったと知らせてやれ。噛みつく牙があることを示せ。
分かりやすさが重要だ。痛み、苦痛、叫び。なんでもいい。分かりやすけりゃなんでもいいんだ。
目の前に飛び散る血でも、のたうち回る様でも。それが連中の身に起こりうると分からせてやれ。
そうなんでも屋の弟子に語ってみせる。
「そういうものなの?」
「という風に覚えた、って所だ。経験則だな。本当は戦闘のマニュアルなんかもあるんだが、基礎以外は忘れた」
愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶというが、どうやら俺は前者のようだ。
身体が覚えた基本は意識せずに動けるが、それ以外はバイザーに映った指示に従って無意識に動いていただけだ。不測の事態はいつでも起こるし、それに対応する動きはオペレーターによって様々。
そういったカオスが混ざり合って染みついた今の俺がある。
「なんにせよ、基礎は教えてやれるが、本当にやる気か? 技術屋みたいなことをやるほうが良くねえか? 危険は少ないぞ」
「覚えておいて損はない、ってなんでも屋のおっちゃんも言ってたし、死なない範囲で経験しておくのも悪くないんじゃないかなって思うんだ」
AIを専門に弄ってたから余計にそう思うのだろうか。AIと言っても特化型の機械学習ベースなんだろうけれど。詳しいことは分からん。そこらに転がってた雑誌記事の受け売りだ。
「まあ、やってみたいなら教えてやるけどよ。銃の撃ち方や突入のやりかた、防衛戦くらいしか俺は教えてやれねえぞ?」
「銃の撃ち方を知ってるだけでずいぶん違うと思う。ゴミ漁り以外なんにも知らないからね、ボク」
「いいぞ。なんでも屋が帰ってきたら使える弾の数を教えてもらおう。その量で訓練内容を決める」
「やった」
無邪気にはしゃいでいるが、命のやりとりってのを分かっているのか?
ストリートチルドレン出身のガキだ。生きるか死ぬかって状況は経験してるかもしれんが、殺すの殺されるのってのはまずねえだろ。
ARを二丁取り出し、弾を込めてないことを確認する。一丁を弟子の小僧に渡す。
マガジンと弾に手を伸ばそうとした弟子を制止。
「弾アリはまだ早い。銃の構え方、基本のキも教えてねえうちに弾を込めるようなやり方はしない」
「わかった」
「分かりました、だ」
「分かりました」
よし、と頷く。
「まず銃の確認だ。銃が向く方向に人がいないことを確認しろ。なんのためにやるか教えてからやってみせる。お前が銃を持つのはそれからだ。同じようにマネしてみろ」
「はい!!」
返事だけは元気だな。そんな事を思いながら教本を思い出す。俺も最初はワクワクしてたか。してたな。
グリーンの教本もいっぱいあった。銃のメンテナンス、隊列の組み方、ハンドサイン。ナイフの刺し方まであった。ほとんどは実戦形式だったけど。
「じゃ、よく見ておけ」
そう言ってチャンバーが空であることを確認、空のマガジンを挿して空撃ちまで流れを教える。おお、混乱してるな。これを無意識にできるまで繰り返させよう。
当然トリガーを引く瞬間以外は意識せずとも指をかけないように。これをしつこくやっていくうちに、指をトリガーにかけずに一通り動く基礎ができるはずだ。
「今度はゆっくりやってみせる。その後は一段階ずつ真似しながらやってみろ。
間違ってたらその場で指摘してやる」
「はい」
「本当だったらグラウンド五周走ってこいってなるんだがな、まあいいや」
「うひぃ」
「やっちゃいけないことをやったら嫌なことをやらされる、って条件付けの学習だ。時間がねえから怒鳴るだけで済ませてやる」
それから小一時間。ガキは飲み込みが早い。ほとんど指摘なしで一通りやれるようになったようだ。
一晩おいてちゃんとできたら次の段階に進もう。空砲かトレーニング弾があれば実際に撃たせてやれるんだがな。現状なら的撃ちくらいが関の山。とっさの時にちゃんと引金を引ければ合格点だろう。
殺しに折り合いをつけられるか、は自分次第だがな。こればかりは教えられねえ。
俺は、仕事だという言い訳とカウンセラーのケアと薬でどうにかしてもらったが。
すまんな。こればかりはどうしようもないんだ。




