潜入屋
動かないで。合い言葉は2049。オーケィ?
街灯の下に子供が一人。帽子にジーンズ、Tシャツ。その上に安いナイロンの透明レインコートを羽織っている。手には紙袋。
「あの、50ニューイェンです」
そう言って振り返ろうとする子供。
「だから動くなって言ってんだろ」
後ろから頭を掴まれる。感触はあるが、掴んだ手は見えない。
帽子を取られて前後逆に被せられる。
「あーあー。音声も飛ぶモデルだよな、これ。聞いてるかい、デリ屋さん?」
「なに?」
振り返ろうとするが頭を抑えられていて動けない。
「お前じゃない。飼い主に話をしてるんだ、黙ってな」
しばらくすると着信音。
『お前、誰だ?』
「あんたに話があってね。邪魔されないで連絡を取る方法がこれしかなかったのさ」
『いったい何が目的だ?』
「あんたの雇い主に用があるのさ」
『普通に連絡すればいいだろう』
「どうせログ取ってるんだろ? あんたの雇い主もログが残らない方法で連絡が欲しいはずだよ」
『……要件は?』
「タザワ会」
端末の向こうで息を呑む気配。
「あんた達の上はタザワ会だろ? そこの若頭に用事があるのさ」
『内容によっては伝えても構わんが、そこのガキは関係ないよな?』
「ああ、50ニューイェン払って帰ってもらうよ」
『そっちも入り用だったのか?』
「そうでもない。が、普通に勘定しておかないと面倒なんだろ?」
『……ありがたいね』
見えない手が子供から紙バッグを奪うと、歪んだ空間から手の中にコインを落としてきた。
「帰りな。振り返るんじゃないよ」
そう声がして、帽子が戻される。
「あ、ありがとうございました。またのご利用をお待ちしています」
震える声で決まり文句を口にすると、ただ前を向いて走った。




