警備員2
「推定交戦域、突入900秒前!! 投入開始!!」
背もたれに預けた背筋に熱いものを感じる。
ドクン。
心拍数がはね上がる。
ドクン、ドクン。
視界が広くなり、同時に世界が明るくなる。
ドクン、ドクン。
サングラスをつける。
ブザーが遠くで鳴っている。次の瞬間、ライトが消え、赤い非常灯に切り替わる。
呼吸が荒い。脈が速い。こめかみから側頭部にかけて、わずかな痛み。
「クソ!! 景気づけに肉なんか喰うんじゃなかった!!」
誰かの怒声が響く。あいつも食ったか。
「どうせ、合成だろうが!!」
誰かが軽口を怒鳴り返す。
その声が自分の口からのものであることに後から気づく。
「だから、勤務前は動物性タンパク質は避けろってマニュアルにも書いてあるだろ!!」
口をつく悪態。
「給料じゃ合成モノしか食えねえ仕事のマニュアルだけどな!!」
同僚が嗤う。
動悸が激しい。喉が渇く。ああ、まともな物を食いてえ。
「これが終わったらボーナスと休暇が出るだろ!! 本物を食いに行こうぜ!!」
「おお、そう言って何回散財してるんだ!?」
おかげで金が貯まりやしない。
「交戦予定域、突入300秒前!!
軽口叩いてないで準備しとけ!!」
「おうおう、いつものことじゃないすか」
だれかが引っかき回す。
ゲラゲラと笑いながらも皆が膝の上でライフルの動作を確認している。ほとんど無意識の所作。慣れたものだ。
「いつも通りバカどもに鉛玉のプレゼントを届けてやるお仕事の始まりだ」
「簡単なお仕事です。給料もお安くなっております」
CMの節回しで誰かが後を継ぐ。
「「即日お届け、配送無料!!」」
皆の声が重なる。いつもの軽口、いつものルーティーン。
「交戦予定域、突入60秒前!!」
チームリーダーの声と共にドアが開く。ロックが外れ、安全バーが上がる。
全員が立ち上がり、一歩前へ。座席から腰に伸びるケーブルが俺たちの安全を担保してくれる。
ドアから身を乗り出して落ちそうになっても引き戻してくれるし、撃たれて応急処置が必要になっても、それを検知して車両の装甲内に引き戻してくれる。必要なバトルドラッグもケーブルから供給されるし、バイタルもモニタしてくれている。
どうやら人間は消耗品ではなくメンテナンスが必要な備品扱いしてくれるらしい。これで愛社精神を促進しているつもりだろうか。
ありがとうよ、我が社様!!