始末屋3
少女と始末屋の二人が向かい合わせに座っている。
「で、親父さんとお袋さんがオートの事故で死んで、親戚を名乗る奴らがぞろそろ現れた、と」
「はい。それでこのままだとどうなるか分からなくて。怖くなって逃げました。
オートモビリティの事故なんて起きるはずないのに」
「なるほどな」
一通り話を聞いて、少女も落ち着いてきたようだ。来客用に用意した薬入りのジュースもずいぶんと役立ったようだ。
妙なクスリの中毒じゃなくてよかったぜ。変なクスリをキメてたらフラッシュバックやらなんやらを起こしてトラブってただろう。
「親父さんの仕事はなんだっけ?」
「父はミハマの重役です。昇進したばっかりで」
「引っ越した直後の事故だったな」
少し考える。ありそうなのは社内のライバル派閥が仕込んだ事故。ミハマだとヤクザのフロント企業でもあったはずだからそっちの線もありそうだ。
「親父さんは時々会食とか接待とかしてなかったか?」
「帰りが遅いこともよくありました。お仕事だと思ってたので気にしてませんでしたけど」
「その時、酒を呑んで帰ったりしてたか?」
「そういう時もあったかもしれません。しょっちゅうだったのでよく覚えてないです」
ずいぶん素直にしゃべってくれるもんだ。警戒心ってものはないのかね。それともクスリ欲しさに心証を良くしようって算段か。
「お前さんの話を聞こう。クスリはどんなのをどのくらいの頻度でやってたんだ?」
「……タカギさんに渡されたお薬を、一日一回。それまで落ち込んでたのがすごく気が楽になって」
「種類は?」
「分かりません。残りはもう無くて、すごく不安になって。どうしていいか分からなくて。タカギさんともしばらく連絡できなかったし。会いに行っても誰もいないし……」
「クスリを入れてたケースかなにかあるか?」
カバンを漁って、小さなミントケースを取り出す。
「お菓子かなにかみたいにパクパクやってたんじゃないだろうな?」
「そんなことしません!!」
「タカギは二ヶ月分を渡してたって言ってたが」
「最初は二日に一回飲んでて……」
声が小さく、そして消える。
「耐性がついたか」
しかたねえなぁ。どうせ元から親御さんとはまともにコミュニケーションもとれてなかったんだろう。
処方を考える。ただMDMAを与えるだけじゃ今までと変わらない。減薬からやっていくしかねえな。
立ち上がり、隣の部屋の金庫に向かう。
「あの……」
そのまま放置されると思ったのか少女が声を上げる。
「待っとけ。クスリを取ってくる」
安心したのか。椅子に身体を任せるきしみが聞こえる。
「まず、これを飲め」
と言って半錠に割ったMDMAを渡す。
「水で飲めよ?」
無言でうなずく。
勢いよく口に放り込み、ペットボトルの水を流しこむ。
嚥下。
水が口元から細い喉に流れる。
一息ついたのか。
「ふう……」
そんなすぐに効いてくるクスリではない。飲んだ、という行為に安心しているだけだ。
不作法を恥じたのか、頬を染めながらハンカチで口元から喉までを拭いてゆく。
「そのまま動くな」
「えっ、ちょっ……」
有無をいわさず少女のあごを下から掴み、鼻の穴に細い点鼻薬ボトルの先端をさしこむ。
プシュっと軽い音がして。またプシュ。
反対の鼻の穴にも二回。
流動性の高い薬剤を鼻から垂らした状態で怯える少女。
ティッシュを差し出してやる。
「鼻をかむな。拭き取れ。そして鼻をしばらく押さえていろ」
「ふぁい……」
間抜けな声が返ってきた。




