車両ロンダリング業
車の個人所有が違法になって久しい。
犯罪利用される車両、車両税の未納に交通事故時の補償問題に環境問題。いろいろあってエンジン車は公道を走れなくなり、全自動車両に置き換わって。最終的には免許を得た会社のみが所有、管理、リースする形となった。
オートモビリティのECUにはセルラー網につながる部品が入っている。当然GPSも搭載していて現在位置と車両IDを常に発信しつづけている。メーカー配下の管理会社がそれらを監視し、盗難の疑いがあればエンジンを切り、ドアをロックし、現地の警察組織に通報する。
基本的にオートモビリティは会社からのレンタルという形で契約され、個人所有のオートモビリティは存在しない。ということになっている。ニホン自治政府は車両の個人所有を違法化したのだ。これにより盗難車、犯罪に利用される車両は激減することになるはずだった。
残念ながら抜け穴はいつの時代でも存在する。道路上を走行できる車両はきっちり登録された車両だけ、という建前だが、車検制度なるものの残骸がそれを阻む。そして会社間での車両の売買もまだ合法である。
するとどうなるか。とあるメーカーが車検を受ける前の車両をディーラーに配送する。これは公道を走れないのでトラックに積まれての移動。ディーラーには車検場と法的に同等のチェックと手続きが可能な場所がある。ここで車両IDを発行して顧客に数年単位で貸し出すわけだ。
正式IDではなく、企業国家の車検場まで移動するために仮IDを発行してもらうこともできる。中古車両などはこの手続きで会社間の所有権をやりとりする。ニホン自治政府以外の企業国家に出荷された車両は一度前歴を消され、再度ニホン自治政府所属の別国家で売られる。一度他国を経由してしまうと所有権の追跡が困難になり、譲り受けた会社が仮IDの発行申請を行い、車検を通れば新規に登録される。
車両の型式は車検の通過を簡便にし、車体番号や部品番号はロンダリングされて新しい番号が割り振られている。国内外を行き来して分断された長い長い前歴リストを追いかけている時間は企業国家の警察組織にはない。
失効した車両IDを持つ車はあくまで金属廃品。だが海外でレストアされ、新規に登録し直されればまっさらなオートモビリティだ。それに海外にはパーツを集めて新規車両をつくることが合法な国も多く存在する。そこには発信装置の内蔵されていないECUが合法な国々が含まれているのだ。
他国で合法なものは国内でも合法、となるような条約が結ばれている国家間での輸出入はよくあることだ。当然ながら細部の法的な違いから再検査となる場合もあるが、手続きは簡単になる傾向。
一度クリーニングされて過去を消された車両や部品は再度車検登録されることで生まれ変わるというわけだ。
生まれ変わったクルマの行き先はさまざま。犯罪に使われたりすることもあれば、安く高級車を乗り回したいというだけのコガネモチに譲り渡されることもある。個人所有ができなくてもマエを問わないで登録して貸してくれる会社はいくらでもあるのだ。
車種も普通のセダンやワゴンから高級SUVやトラックまで。
いまだにクルマで見栄を張りたいやつもいれば違法なアレコレを運びたいやつまで様々だ。
「注文はトラック、でよかったかな?」
そういって男は正規の書類をデータ転送してくる。手元の端末でそれを受け取り、実車と照らし合わせて確認する。
新品同様、ペンキ塗り立てといった感じのボディにつやつやと輝くゴムタイヤ。そして油圧で持ち上がっているキャビン。その下には馬鹿でかいバッテリーパックとモーターが鎮座している。パワフルなトレーラーヘッドだ。
「妙な所はないようだな」
「信用商売だぜ? 注文されたもんはきっちり仕上げて納車するさ」
「マックス450馬力、一回の充電で480 kmの航続距離、いけるよな?」
「もちろん。モーターもギアボックスもレストア済みだし、バッテリーやタイヤは新品に交換済みさ。中古品でごまかすなんてことはしてねえよ。ちなみに80%充電済みだ。数カ国ならそのまま回れるぜ」
「なら構わん。残金は今振り込む」
通知音が、二人以外誰もいないコンテナエリアに響く。
「OK、確認した。またの商売を楽しみにしてるぜ」
といって中古車屋の男はシンプルな小型のオートモビリティワゴンに乗って去って行く。その加速度は爆発的と言っていい。
ありゃ、大人しい見た目のくせにかなりカスタムしてあるハッチバックだな。中古車販売は趣味のお仕事ってか?
なんにせよ仕事の準備は整った。片手を上げて合図をすると、隠れていた男たちが現れ、手際よくトレーラーをトラックに接続する。
トレーラーの上に載ったコンテナを開き、積み荷を確認する。何度も確認したはずだがいくらやっても安心できない。
手元の端末に表示される数値は93 nGy/h。通常よりは高い数値だ。だが荷物の中身が漏れていれば桁が違う。
ため息をついて、指示を出す。
「これを目的地まで運べ。四時間で到着、制限速度の五%オーバーまで許容する。余裕をみてあるから一時間に一回は休憩できるはずだ」
「了解。ところで……」
「分かってるよ、手付けだ。現地までなにもなく運べたら残りを払う」
そう言ってフィルムシュリンクされた硬貨の束を渡す。
「逃げるなよ? きっちり衛星から見張ってるからな?」
「分かってますよ。やり遂げれば一生分の金が手に入るんですから。荷物がなんなのか詮索もしません」
分かってるならいい。運転手の肩を叩き、出発を促す。
「よーし仕事の時間だ。慎重にな」




