情報屋
とうとう通販企業のトップが動いたか。
ニホンじゃシェアNo1になって久しいが、そろそろヤバい感じだからな。
企業軍を動かしてなにをするつもりだ? 新製品のデモにしちゃ妙に静かすぎる。
ああ、機密が漏れたのね。なら動くわな。リバースエンジニアリングで自前の商品に使えそうな部分は開発コストを減らせるからなぁ。特許絡みで訴えられるまでのツナギには十分だろ。さて、どこが反応するかな。
うん。上から全部記録してる。アルファチームの動き方が分かるいい資料になるさ。そっちはどうだい?
邪魔ねえ。大変だね、請負仕事も。こっちは自分から完成品を売り込むから仕事の最中に邪魔はめったに入らないよ。うちで働くかい?
わかった。まあそっちの都合もあるだろうよ。無理にとはいわないさ。
ふん。情報ね、技術屋。OK、代わりにどういうつながりがあるか教えてくれ。
なるほど。今回の動きの中心にそいつがいる可能性があるのか。ちょっと待ってろ。
そいつ、今はなんでも屋を名乗ってるらしい。「これこれこういう物が欲しい」って頼むと開発から部品調達までやってくれるんだとさ。妙だな。自分から動くことはまずないって聞いたぞ。
まあ動いているってんならそうなんだろうよ。企業軍を相手にするほどだ。なにか理由があるはず。動きに乗ってもいいし、俺みたいに眺めてるだけでもいい。
どちらにせよ儲け話になるかもな。自分たちの目と鼻の先で派手に喧嘩してるのが誰なのか知りたいってやつは多いだろ。手前に火の粉がかかるかも知れないのに放置ってのはありえねえ。
俺はこないだの火事騒ぎから一連の流れだと思うがね。やらかした地主が持ち込んだ何かがトリガーなんだろうよ。お嬢様の家出騒ぎも関わってるかもな。なんにせよ俺はただの情報屋だ。情報を整理して分別して欲しいやつに売るだけだ。
俺はなにも推理しない。したいやつにさせるさ。バラ売り専門だ。他に欲しい情報はあるか? ないならこれで仕舞いだ。じゃあな。
通話を切り一息つく。ボトルの炭酸水を一口飲み、嘆息。
なんだか派手なことになってるな。企業軍が動き出すとなると一時は避難しておいた方がいいかな。しばらく事務所を経由して情報集めだけに専念するか。
「おーう、今日はもう終わりだ。みんな帰って寝てくれ。一週間ばかり休みにする」
大きな声で事務所の中に怒鳴る。まだ昼間だ。だが早めに解散しておいたほうがいいだろう。
「その間の給料とかはどうなるんですか?」
「俺、もう手持ちがないんですけど!」
「その後はどうするんです? クビ?」
ガヤガヤとスタッフが愚痴る。
「今日までの分は今から色をつけて払ってやるよ。現金でいいよな?」
やったー、だのヒャッホーだのと一気に騒がしくなる。12かそこらのガキばかりだ。遊びたい盛りだろう。
「キリの良いところまでやったら順番に並べ。来週の週明けから再開できるようにちゃんと整理しとけよ」
下働きの小僧たちにまとまった額のニューイェン硬貨を渡していく。
「こんなにいいんですか?」
小僧の一人が呟く。
「それだけの仕事はしただろ。それに来週は大人しくしておいてもらわにゃならん。その金でどっか遊んでこい。来週明けから忙しくなるぞ」
声をかけて、ついでに頭を撫でてやる。安心したのかにっこりと笑って硬貨を懐に入れる小僧。まだまだガキだな。
小僧たちは思い思いに散っていく。それを見送って端末の電源を落としていく。中継端末の設定を変えると。
「さて、来週は何人生きて集まるやら」
考えてもしかたのないことを頭から追い出すとバッグを背負い、事務所に鍵をかけた。




