ミュージシャン
おどろおどろしい出囃子と共に。白衣、白髪の男が無表情のまま舞台に上がる。
同時に観客のボルテージが上がる。歓声とともにライトレベルが上がり、スポットに収束する。
軽金属ボディのギターらしき楽器。かき鳴らすと同時に放電。
観客の嬌声。
微動だにせず真っ白な男は歌い出す。まるで自分は舞台装置の一つだと言わんばかりに。
曲が終わり、次の曲が始まる。同時にどこからか投影されているのか、フレキシモニターなのか。白い男が別の姿に変わる。
姿は少女に、声はそのまま。
とうとうと歌い上げる少女姿の男。
往年のヴァーチャルアイドル、麗・投影。芳賀ゆい、初音ミクも一瞬だけ写ったような。伊達杏子って権切れしてたっけ?
一小節ごとにその姿を変えながら著作権切れしたヴァーチャルアイドルの歴史を辿る。
舞台装置から放射されるグリーンレーザー。
演者の動きとリンクして明滅する。
ある種の神々しささえ感じられる。宗教儀式のようなライブ。
意味のよく分からない歌詞がそれを助長する。
観客が拳を突き上げコールする。
エレクトロポップスを演奏する、若手ミュージシャンへの取材のはずだったが。いったいどこがポップなのか。むしろパップ世代でも知らないようなアーティストのカヴァーだ。リバイバルブームも何度目なんだか。
半世紀以上前の曲だぞ、これ。オーウェルやら計劃やらの古典にかぶれた連中には刺さりそうな歌詞だな。
次のアーティストは、フルフェイスヘルメットの二人組。DJスタイルでプレイするらしい。元ネタの二人は「事故で負傷してロボット化した」という設定だったらしいが、この二人は本当に義体だ。
一人は先天性で義耳化、一人は事故で足と手を義体化したのだったか。
昨今の義体化技術は進み、義眼、義肢などモジュール化され、個人に合わせた調整を行ったらすぐに交換できる。
問題は人間側だ。新しくなった身体のパーツに慣れる必要がある。といっても後天的なものであればたいした苦労はない。生まれてからずっと全盲だったりすると視覚情報をどう処理していいか分からなくてパニックを起こしたりするが。
私も視力が酷く低下したので義眼化したクチだ。といっても角膜移植などではなくカメラを生体電源で動かし、網膜に刺激を与える形でものが見えるようにするタイプの義眼だ。
新しいもの好きだったから紫外線から赤外線域まで見える安いカメラを積んでみた。脳が学習するまでは戸惑ったが一週間ほどで慣れた。色の見え方が変わってしまったのはちょっと大変だが、それ以上に細かい違いが分かるようになったのは利点だ。低光量環境でも視界がくっきり見えるのは便利だ。
元は身体障害者向けの技術だったが、一時期は軍用技術として改良され、さらに民間にフィードバックされた。聴覚も似たようなものがあるらしい。可聴域外も聞こえる製品もあるという。
DJスタイルの一人はその義耳を使っているらしい。観客にもそういった製品の使用者がいるのだろう。時々ノイズのような音が鳴るがそのたびに一部が盛り上がっている。生体耳をもっている人間には分からないパフォーマンスだ。
万人受けする要素も入れつつ、一部の人間にはさらに受ける要素を詰め込んだ音楽。光学的なパフォーマンスも細かい部分で紫外線や赤外線をつかって、そういう人間にも楽しめるようなギミックが仕込まれている。
このパフォーマンスをいろんな意味で100パーセント楽しめるのは完全義体化した人間だけだろう。だが完全義体はまだまだ普及していない。先を見据えたパフォーマーとして評価されるべきだな。
この記事は面白いことになりそうだ。




