なんでも屋
相変わらずホロ広告のうるさい街だ。
ELネオンやデジタルサイネージならまだしも、ホロ広告が憑いてきやがる。もう靴は買ったんだよ。似たようなのを何足も買う趣味はねえ。
ARグラスをつけてなくてよかったぜ。さらにうるさくなる所だ。学生の頃から足しげく通った街だからARグラスにナビってもらう必要なんかない。
自販機に視線を向ける。コーヒーの新製品を勧めてくるが、今はそんな気分じゃない。隣に立ち止まっている学生がいるが、彼には炭酸飲料の広告でも見えてるんだろう。
無言で自販機に近寄り、安端末でコーラを選ぶ。手首をかざして支払い。ゴトンとコーラのボトルが落ちてくる。次からコーラをやたらと勧めてくるんだろうな。事前に寄った場所や呼吸数、表情から気分なんかも分析できるんだからもっと最適化しろってんだ。どこの広告屋だよ、適当な仕事しやがって。
コーラを飲みながら歩く。昔ながらのソフト屋やハード屋が並ぶ。ゲームセンターもある。紙のポスターが懐かしい。どうせ次の新作が発表されたらセミオートで書き換えられちまう電子ペーパーなんだけどな。
メインストリートからビルを見上げる。老舗の電器屋の看板としょっちゅう入れ替わるテナントの名前。この間来た時は楽器屋じゃなかったか、ここ。
こんな所に広告を出しても意味は無い。何を買うか決めて来る街だからな。わざわざ実店舗で買うなんてのは現物を今すぐ手に入れたいか配送料分だけネットより安く欲しいかのどっちかだ。使いやすさやらインテリアに合うかどうかは発売前にVRで確認できる。
そもそもインテリアなんかも書き換えちまえば好きにできるんだけどな。ホロインテリアを持ってないやつは合うかどうかなんて端っから気にしないだろ。
おっと、もう一つ理由があった。現金で買い物をしたい場合だ。今の俺みたいに。
裏道に入り、ごちゃごちゃした店先を眺めながら歩く。お目当ての店はもう少し先。
イヤフォンのスイッチに触れて通話を開始する。
「俺だ。適当な買い子をよこせ。場所はいつもの所だ」
ビルの隙間でコーラを飲みながら人を待つ。ここはビルのオーナー管轄下で区画の法では裁かれない。防犯カメラもないのでこっそりと人を待つには都合がいい。タバコを吸っても捕まらないしな。
「だんなが地主に頼んだ人?」
声をかけられ、そちらに視線を投げる。
身なりを気にしていないガキ、といった感じの少年が立ってこちらを見ている。一昔前のテックウェアらしきものと安価な量産品の組み合わせでそれなりに見られる格好している子供だ。家と親と学の三つをもたないガキにしちゃマトモな格好。
「このメモに書いてある部品を買ってこい。そこの左の店だ。代金はコレを使え。
パーツとそのメモを持ってきたら金を地主から受け取れ」
ガキの前にコインをちらつかせる。
「分かった。メモは他人に見られないように、だろ?」
「そうだ。次も仕事がやりたかったら持ち逃げなんて考えるんじゃねえぞ?」
「分かってるよ」
「OK。パーツのおつりはくれてやる。でも値引き交渉なんぞするなよ」
「覚えられていいことなんかないからね、じゃ五分後に」
伸ばしたガキの手にコインを落としてやるとガキがさっと走り出す。
きっかり五分。その少年が電子部品が入ったビニール袋をこちらに突き出す。
「おつり、かなり多かったけどよかったの? 桁、間違えてない?」
「気にするな。……おまえ馬鹿正直だな」
「だって40ニューイェンかそこらの買い物に100ニューイェンだよ?」
そのまま部品を渡して帰ればいいのに。次の仕事に呼んでもらえるか、とかパーッと使えばどうなるかとか、そこらへんを考える頭はあるようだ。
「……他の仕事をする気はあるか?」
「やれるなら何だってするよ」
「手先は器用か?」
「パーツをバラして稼ぐ程度は」
「今回は地主からいくらの仕事だって聞いた?」
「10ニューイェン」
「えらくピンハネしてやがるな、あの地主。端末は持ってるな?
アドレスを教えろ。時々呼び出すからすぐに来い。直接仕事をやる」
「他の仕事もあるから、すぐにって訳にはいかないよ」
「辞めろ。飯付き寝床付きで週に50ニューイェン払ってやる」
「なら今からでも構わないよ。荷物とか無いし」
「ならちょっと待っとけ」
イヤフォンのスイッチに触れる。
「俺だ。えらくピンハネしてやがるな、おい。てめえは俺に借金あるのを忘れてんのか?」
「……」
「いますぐ取り立て屋を寄こしてもいいんだぞ? ああ?」
「……!?」
「今日あった事、通話、使いに寄こした買い子、全部忘れろ。それが条件だ」
「……?」
「気にするな。死んだよ。お前も死にたいか?」
「……」
「分かりゃいいんだよ、じゃあな」
通話を切り、少年に顔を向ける。
「話は付いた。今日からお前、俺の舎弟な」
「どんな仕事なの?」
「ハードもソフトもやる。ちょっと危ないなんでも屋だよ」




