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近未来SF短編集 in United Corporation of JAPAN  作者: あのワタナベ
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防犯業

「新しいお客さんだ。お前行ってこい」


 上司にそう言われてホームセキュリティの見積もりにやってきた。

 閑静な住宅街。野放図(スプロール)に成長した都市の中で数少ない中給所得者(コガネモチ)向けの計画された(デザインド)地域(エリア)だ。


 本物の金持ちはこんな都市(マチ)には住まない。金持ち向けの隔離都市国家に逃げちまってる。企業(コープ)に所属しない、逆に企業を持つ側(・・・・・・)の人間は安全で快適な独自国家に自宅を持ち、そこで暮らしながらネット(オンライン)で仕事をするのだ。

 企業国家(コープエンパイア)や企業城下町(シタマチ)に暮らす人間とは別の世界、らしい。


 俺みたいな城下町(シタマチ)出身者は企業に所属して出世するか、系列企業(ケイレツ)上層部(オエライさん)向けの商売で成功するか。金持ちになる(なりあがる)にはそれくらいしか思い浮かばない。

 だからいい暮らしというと高給地域(エリア)に住むとか、高級配送会社(レンタルリース)と契約していいクルマを運転する(つかう)とかそういうの。


 道のりは遠いなあと思いつつ顧客の家を観察する。高級モビリティがまったカーポート。隣りにもう一台、められるスペース。門からここまで10メートルはあるか。そして豪邸。その前には舗装された通路と周りの芝生、それを囲む植え込み。


 絵に描いたような高級住宅だ。こんなところを担当するのか。初めてだな、この規模は。



/



「ではセキュリティ一式を最新型に、ということでよろしいですか」

「はい。家族三人暮らしで越してくる予定で。古いシステムをそのままは怖いと聞きますし」

「そうですね。合い鍵を作られているかもしれないという心配もあります」

「ですよね。なのでお任せしたいと思いまして」


「早急に見積もりを作らせていただきます。そのために室内を拝見できますか。見取り図があれば入らなくても、見積もりまでならやれますけれど」

「引き渡してもらったばかりで片づいてないのが恥ずかしいんですが、どうぞ」



「ここの窓は木が近くて経路になるか?」


 室内を見て思ったことを口に出す。見積もり用のメモ代わりだ。依頼者に許可を得て、測量ドローンも走らせている。これで見取り図より精密な現場の記録が取れる。

 3D化した家の中に防犯カメラやセンサーを配置してシミュレートできるのが便利。設計とテストがほぼ同時にできる。完成版をAIや本職(プロ)襲撃(アタック)してもらうテストも簡単。


 ぶつぶつつぶやきながら室内のあちこちを見ていく。自分が泥棒ならどうやって入るかを考えて、それを妨害する位置に最適なセキュリティ機材を配置するのだ。

 見た目は不審者だがやっているのは脳内でパズルを解いているようなもの。それも予算内でどうやって納めるか、どこまでやるのか、という条件によって変わる最適解をいくつも出して選別する作業。


 ヘルメットの環境ロガーと測量ドローンで屋内の情報収集を済ませた。基本的にはいかに侵入させないか、が重要だ。それが不可能だった場合はパニックルームに逃げ込み、セキュリティが駆けつけるまで隠れることになる。

 さすがに高級住宅、ざっと見ただけでは分からないパニックルームも完備されていた。独立系のセキュリティと電源に非常食類もばっちり。ドローン測量したデータを眺めてもまず分からない狭いスペースだった。


 後は屋外の確認だ。家屋や庭木の配置、室外環境、各部の距離。見るべき所はいくつもある。侵入しやすそうな場所、目立たない場所、隠れられる場所、道路の防犯カメラ位置。それらから侵入経路を考える。


明後日みょうごにちまでにはおおよその見積もりを、それでご説明差し上げますので打ち合わせをしてから細部を詰めていく、という形でよろしいでしょうか」

明後日あさって以降ですね、では……あ、明後日の午後ならあいてますのでそれで」

「ではよろしくお願いします。本日はお時間をいただきありがとうございました」

「いえ、お世話になります」


 さて、今夜は寝られなくなりそうだ。


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