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5/5

5町に行けば発見がある

漸くメインキャラの一人を出せました…。

 部屋に戻った私はストールを探す。そう言えばこの部屋にはクローゼットやタンスと言った家具が見当たらない。隅の方にある扉が押し入れのような場所になっているのかと思って開けてみると、押し入れと言うには少々違うが、それに類似するウォーキングクローゼットになっていた。


 ストールやその他の衣装がきちっと収められたそこは、クローゼットというより小さめな部屋…むしろ私が日本時代に住んでいた部屋とどっこいどっこいの広さがあるんだが、いったいどういうことなんだ。金持ちめ。


 何枚もあるストールから、レヴィアに似合いそうな色を適当に見つくろい、羽織る。着たきりすずめでおしゃれのおの字も無かったが、今はレヴィアなのだ。ひるんでも居られないし、大概似合うので開き直ってみることにした。ただし美系に限る、の恩恵を感じることになるとは夢にも思ってなかったが。


 玄関を出て、家の前の石畳を踏みしめる。目に入る草木はほんのり紅葉し始めていて、コリーンが言っていた通り、確かに少し肌寒く感じた。

 それにしても、秋なのか。転生前の世界は初夏、世間がゴールデンウィークに突入したあたりだったため、こちらもそうかと思っていたのだが、そういうものでもないらしい。まあ、四季の中では一番秋が好きなので嬉しい気もしなくはないが。


 てくてくと景色を楽しみながら歩き始めて数分。まっすぐ歩いてきたので帰り道に迷うことはないだろうが、もしかしたらまずったかもしれないと私は思った。


 一つの家でも差異があったのだ。町もゲームとは多少違うだろうなと予測はしていた。家が何件か増えていたり、少々配置が異なることもありえるかなと。それでもあくまで誤差の範囲だろうと高をくくっていたのだが、現実はそこまで甘くはなさそうである。


 一本道反れたら迷子になりそうなほど、道も建物も増えていて、町自体が明らかにゲームの何倍も広い。もはやゲーム内の地理の知識など、この町には道具屋が存在するよレベル程度にしか役に立たないかもしれない。


 網のかぶせられたゴミ置き場、吹き木枯れていく路上の落ち葉。小道に落書きされた遊びの名残りに、誰かが家族を叩き起しているような怒鳴り声。それに、踏みしめる石畳はこんなにも硬い。こんな膨大な情報、ゲームでは感じる事は出来なかった。


 ゲームはただ簡略化して描き出した縮小図に過ぎなかったのだろう。主要な建物のほかは張りぼての背景に過ぎなかったのだ。確かに、ゲームグラフィックと変わり映えのない町並みだとしたら、町ではなくて村と呼んでいい規模でしかなかっただろうから。


 だけど、こうしてこの町は広い。人の生活の息遣いを感じて、色も、音も、匂いもしっかりと息づくこの場所は、明らかにリアル。それがとても好ましかった。…例え迷子になりそうだという不安が付き纏ったとしても。


 散歩というよりは散策か。家から町の中心に向けてまっすぐ歩きながら、脳内のマップを更新していく。どの店もまだ開店してはいないが、開店準備の真っ最中といった店もあった。香ばしい香りが漂ってきていたのであれはパン屋だろうな、と口元が緩む。その隣で『CLAUSE』の看板が下がっている店は雑貨を扱っているらしく、窓辺に飾られた小物に目が止まったりもした。


 向こうに見える少し開けたところが、町の中心にある噴水広場だろうか。かなり賑やかなようだが、朝市でも開かれていたりするのだろうか?少し気になる。

 よし、寄ってみよう。少し観光気分になっていた私は、足早に広場へと向かった。



「わあ…っ!」


 広場に足を踏み入れた瞬間、溢れかえる人、人、人。大小様々に彩られる色また色!果物や香辛料、もしくは誰かの体臭か?ざわめく声は互いにぶつかり、最早誰が何を言ってるのかなんて、注意深く意識を向けなければ聞き取れない。広場はそんな、さまざまな情報にあふれていた。


 生き物の数だって多い。行商人や農家の人などに引かれて来ただろう馬や牛、ヤギや、なんだか良く分からないアルパカのような動物たち。その隣で店を広げ、声を張り上げる人々も、色んな種族が集まっている。


 日本に居そうな人間も、ゲームでしか見ないような配色の人も。コリーンのような犬の獣人も、人顔獣耳の半獣人や、鳥やトカゲや鰓の生えた魚っぽさが滲む人まで居たりする――と、いうことは獣人呼びより亜人呼びの方が正しいのかな?――。ああ、今通り過ぎた髭もじゃでがっちりした背の低めなおじさんはドワーフだろうか。背中に背負った荷物を売りに来たのかもしれない。


 下手をすれば動物園よりも多くの生き物が集い、しかし、動物園とは違い自分の意思で此処にいる。生き生きとした活気に包まれて。


 多種多様な姿の者が、当たり前のように言葉を交わし、普通に受け入れ、取引だってしている。そんな様子を見ていたら、これってなんだかとっても凄いことだな、と本気で感心してしまった。地球なんて、肌の色が違うだけでも受け入れられなかった歴史もあるというのに。


 あの世界の人間はいつも時間に追われていて、いつも疲れた雰囲気を背負い込んでいて。どこか無機質ささえ感じるほどに、他者を顧みる余裕すら無くて。こんな活気と生命力に満ちあふれた雰囲気とはかけ離れていた。

 私がそう思っていただけなのかもしれないが、だからこそ本当に、凄い違いだと感じるのかもしれない。


 そんなことを考えながら、どんな店が出ているのかと順に覗きながら歩いていたが、ふいにちょんちょん、と誰かに肩をつつかれる。

 驚いて振り返った先にいたのは、金糸のように煌めくツンツンとはねた髪に、ほんのりと日焼けをした肌、そして目が覚めるような程澄んだ蒼の瞳を持った少年だった。


「よっ」


 片手を上げて、面白いものでも見つけたように目を細めた彼は、私よりも背が高いので必然的に見上げる形になる。だが、人懐っこそうな雰囲気のためか、不思議と嫌悪感も圧迫感も感じなかった。

 彼の容姿を私は知っている。私が操作してきたあの少年――男主人公――と瓜二つなのだから。そして、今ここに居るということは、


「アシュトン?」


「おう。おはよ、レヴィア。朝市に来るなんて初めてじゃないか?お前、朝弱いし。昔っから寝坊助だからなあ。」


 この軽口を叩いてくる少年は、レヴィアの幼馴染――年齢は一歳半上の十七歳――で許婚である町長の次男坊、アシュトンということで間違いはないらしい。どうやら女主人公ルートのようだ。


 …それにしても、レヴィアは朝に弱いのか。初耳である。そして初めてなのか、朝市。この情報は有効に活用すべきだろう。


「べ、別に寝坊助なんかじゃないわよ!きょ、今日は…たまたま散歩でもしようかなって思って出てきたのっ!」


 レヴィアならどういう風に話すだろうと考えるよりも先に、言葉が勝手に噛みついた。


「へえ~?ほー?そうなのかあ?」


 そんなプイっと顔を背けてしまった私をみて、面白そうにニヤニヤするアシュトン。からかわれているのは分かるのに、不快にならないのはどうしてなのか。だけど素直になれない。そんな風に、演じなくても少しツンとした態度になる。


「…でも、まあ…朝市ってこんな感じだったのね。なかなか活気があって面白いかも。…ちょっと人が多すぎるけど。」


 考えていた会話の端々に、気がつけば捻くれた言葉が付け加えられているというのに、アシュトンの態度は変わらない。


「朝市、面白いぜ。掘り出し物もあったりするし、たまには早起きしろよな!あ、人が多すぎて迷うか~?昔祭りではぐれて泣いてたもんな?」


 むしろ自然と憎まれ口を叩いてきて。『私』も自然と軽口で応戦していて。


「いつの話よ!それに、ちゃんと起きられるって言ってるじゃない!」


「ホントか~?」


「本当だってば!」


 なんだか、幼馴染というか兄妹みたいだなと、口元が笑むのが分かった。なんというか、とても居心地がいい。

 そして、居心地の良さと同時に、現時点ではこのくらいの距離感――家族以上恋人未満――がベストなんだろうなと理解した。


 ゲームをプレイしていた時、何故許婚がいるアシュトンが女主人公に惹かれていくのか疑問だったのだけど、こうして当事者になってみれば分かることもある。


 親同士が仲が良いからという理由で許婚という肩書になってはいたが、幼い頃から共に育った二人は兄妹のようなものだった。仲はいいし、親愛の情も強いのだろうが、アシュトンにとってレヴィアは妹のような存在でしかなくて。つまり、恋愛対象にはなり得なかったということだ。


 嫉妬してボス化してしまったレヴィアに関しても、本当は『自分だけのお兄ちゃん』が取られたことに対して嫉妬してしまったというのが答えのような気がする。所謂無自覚のブラコン――血の繋がりはないけど――ということか…。


「ま、もしホントだったとして、また朝市であったら案内してやるよ。今日はこれからバオのおっさんとこに手伝いに行くから無理だけど。」


 レヴィアの嫉妬の方向がブラコン疑惑だという考察に辿り着き少々遠くを見ていたら、アシュトンがそう提案してきた。


「起きれるのは本当だけど、朝食前なんかに散歩しようなんて思えたら、その時はお願いしようかしらね。」


「あ~、そうかよ。」


「ほら、さっさと手伝いでもなんでも行っちゃいなさい。私ももう帰るし。」


「ん、じゃあな。…あ、そうだ。」


 立ち去ろうとしたアシュトンが立ち止り、ある方向を指さしてニカッと笑った。


「腹減ったからって帰りに、ミファーナさんとこのパン、買い食いしたりすんなよな」


「………。しないわよ!そもそもお財布なんて持ってきてないし!」


「お~こわ。」


 逃げろ逃げろと、あっさり人ごみに消えていったアシュトンを見送れば、はあ、と溜め息がこぼれた。


 意図せずに、幼馴染の存在を確認するという目的を達成したわけだが、心の準備もへったくれもなく、また、軽口の応酬にもどっと疲れが押し寄せる。軽口の応酬が出来たのはやはりレヴィアとして、身体が覚えてるとかそういうことなのだろうが、答えられなかったらどうしようかとひやひやした。


 レヴィアの事を、私は設定しか知らない。実際、祭りではぐれて泣いていたなんて知らなかったし、思い出しもしなかった。だから、こうして誰かと関わったら、戸惑ったり噛み合わなかったりすると思っていた。予想外に言いあえたけど。今回は結果として何とかなったが、ボロがいつ出るか分からない。

 だから私は知ることにした。レヴィアの事を、もっと。さしあたっては、朝食が済んだら日記でもないか探してみよう。


 くるりとアシュトンが差した道に足を向けつつ、ふと思う。


「それにしても、なんでわざわざ指さしたんだろう?」


 普通、家から真っ直ぐのところにあるパン屋なんて、名前を言えば分かるはずなのだが。…もしかして、レヴィアって方向音痴だったりするのだろうか?

 なんてことを考えていたら、教会からだろうか?町の外れから鐘の音が響いてきた。綺麗なその音に思わず耳を傾け暫し佇む。が、はたと気がついた。


「鐘が鳴る時間って事は、もう七時!?」


 そう。出かける前に帰宅しておこうと予定していた時刻になっていることに。


「いそがなきゃ!!!」


 あわてて駆け出し家へと急ぐ。そうして帰り着いたときには汗をかいていたため、服の乱れを軽く整えるどころか、総着替えする羽目になったのだった。とほほのほ…。

予定していた文章より、レヴィアとアシュトンが喋ること喋ること…。

方向音痴説なんて無かったはずなのに(笑)パン屋のパの字も入って無かったのに!

この子たち、勝手に動いてしまうので、話の展開が私にも予測できません←おい


こんな作品ですが、これからも読んでいただければ幸いです。

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