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4嘘も方便、真にすれば大丈夫

今回短めです。

 水をごくごくと飲み干せば、物が入って活動を開始した胃袋が空腹を主張する。クウッとまた小さく鳴いたのは、きっと美味しそうな匂いに釣られてしまったせいだ。


「そう言えば、今日の朝食はなんですか?」


 だから、なんとなくメニューを訪ねてしまったのだが、どうしたことだろう。獣人の彼女は何故か困ったように少し頭を垂れ、上目づかい気味になってしまった。ともすれば可愛さも感じる訳だが、何故だ?無難な会話だったと思うのだが。


「あの、申し訳ありませんお嬢さん。お食事はもう少し準備に時間が掛かってしまうかと…」


 うん?何故メニューを聞いて、時間がかかると謝られることになったのだろうか?


 …ああ、そうか。もしかすると、レヴィアは朝起きたらすぐに朝食を食べるのが当たり前なのかもしれない。そうだとすれば、早く目が覚めたから朝食の催促に来たと彼女は思ったのだろう。普段起きる時刻に合わせて作っていたため、もちろん食事が出来上がっているはずもなく。それで、謝ったのだ。準備が出来ていなかったことに癇癪を起される事を危惧したといってもいいと思う。


 確かに空腹ではあるのだが、今すぐ食べなければ嫌だということもない。それに、ゲーム内のレヴィアも、そこまで非常識タイプの横暴なキャラクターでは無かった筈だ。


「ああ、えっと、別に今すぐ食べたいから聞いたのではなくて…。ただ、その…美味しそうな香りだったのでつい、メニューが気になって…。」


 しどろもどろになりながらも、大丈夫であること、怒ってなどいないことを何とか伝えると、彼女はホッとしたような顔をした。


「そうでしたか。本日の御朝食のメニューですが、生地に胡桃を練り込んだパンとサラダ、メインはチーズオムレットを予定しています。スープは以前お嬢さんが御好きだとおっしゃっていた、ジャガイモのポタージュをご用意させていただいております。」


 メニューを告げながら、近くにあった竈に掛けてあった鍋をかき回し、御玉を持ち上げて見せる彼女。尻尾こそ振り回されてはいなかったが、とてもワンコらしくて可愛かった。


「わぁ、うれしい!楽しみにしておきます。それにしても、いつもこんなに朝早くから用意してくれて居るんですね、ありがとうございます。」


 そんな彼女を見ていたら、つい微笑んでそんな事を言ってしまった。


 すると、何か呆気にとられたような、不思議なものでも見たかのような――犬顔の喜怒哀楽なんてまだ見慣れていないけれど多分そうだろうなと思う――表情で、じっと見つめられてしまう。何処となく目が潤んでいるような気がするのだが、また言葉選びを間違えて誤解でも与えてしまったのだろうか。


 だが、彼女は暫くはくはくと口を動かしたあと、嬉しそうに花咲くような笑みを浮かべ、まるで感極まったように頭を下げた。


「これが私の職務ですので。…ですがお嬢さんにそのように言っていただけるなんて。このコリーン、使用人冥利につきます。」


 もしかしなくとも、これはお礼に対する反応だろうか?彼女――コリーンさん(確定)――は普段、仕事に対して感謝を述べられることが少ないのかもしれない。だから、自分の仕事を声に出して認められて嬉しかったのだろう。


 お礼を言うことは、日本人だった頃の名残というか。幼い頃から言い聞かされて育った常識と習慣であり、引き籠る前はコンビニの店員にすら『どうも』とか『ありがとうございます』とお礼を言っていたものである。特段意識せずとも出てきた言葉にこのような反応が返ってくるとは思わなかった。どうにも受け答えというやつは難しくていけない。


 かといって全く話さないわけにもいかないので、こうなったらイベントを壊さない程度に開き直ってしまおう。そうしよう。


「えっと…その、いつも感謝はしてるのよ?ただ言葉にする機会がなかっただけで…。」


 嘘も方便とはよく言うが、別に楽しみにしていないわけでも感謝していないわけでも無い。まだ一度も食べたことがないので、その味が好みなのかもわからないが、こうして、レヴィアが好きといったものを作ってくれようとしているのは好感が持てる。だからこれくらいは言ってもいいだろう。多分。


 いつも感謝しているというくだりは、私になる前のレヴィアが、彼女の作ったポタージュを好きだと言ってしまえるくらいには、彼女の作る料理を美味しいと思っていた筈だという推測も含まれているからだが、あながち間違いではないと思う。


 仮にもし――当たり前すぎてありがたい事だと気付けていなくて――思っていたことがなかったとしても、これから――主人公に倒されるまでの短い時間だろうが――作ってもらう私が感謝していればいいだけの事。


 所謂、嘘から出た真にしてしまえばいいのだ。気にすることでもないだろう。…視線を泳がせてしまってるあたり、我ながら説得力は皆無だけども。


 こちらを見て嬉しそうにしている――あ、尻尾も少し揺れている――彼女の反応を見る限り、悪い事ではないのはわかるのだが。如何せん他者との関わりに自信というのは持ちにくい。本当に、困ったものである。


「と、ところで朝食までどれくらいある?時間があるなら散歩でもしてみようと思うのだけど…」

 なんとなく居たたまれないような落ち着かなさを誤魔化すように、質問を投げかけてみた。


「御散歩ですか?それなら大体四十五分程度のお時間がありますね。」


「四十五分と言うと、大体七時に帰ってくれば大丈夫?」


「ええ。旦那様たちも、七時半にはご朝食の席にお付きになられると思いますし、その頃に帰宅なさるのであれば、簡単に身繕いも整え直せると思いますよ。」


 もし時間があるようなら、少し落ち着くために外を歩いて来よう。その程度に考えていたのだが、成程、言われてみればそれもそうだ。身繕いをし直すことなんて、全く考えても居なかった。普段は――いや、引き籠る前は――着替えの時身繕いをすれば、後は基本的に夜までそのままだったし、最近に至っては、パジャマやスウェットから着替える事さえしていなかったのだから、思い至らなくても当然か。全く自慢にもならないけども。


「そっか。なら七時には戻るように気をつけないと。」


 じゃあ行ってきます。そう言って退室しようとした私だったが、待ってくださいとコリーンに呼び止められた。首をかしげれば、彼女は微笑んで、勝手口の脇に下げてあったストールを指差す。


「お嬢さん、秋口と言っても朝方は冷え込みますので、ご自分のストールを忘れないでくださいね。私も羽織らないと肌寒く感じましたので。」


「…ありがとうコリーン。すっかり頭から抜け落ちてました。では、行ってきます。」


厨房から出て、ひとまずストールを探しに部屋へ戻る。その道すがら、思う事が一つ。


「それにしても、コリーンっていうのかぁ」


 コリーに似た犬獣人で、名前がコリーン…。正直言ってこの世界、ネーミングが安直過ぎやしないだろうか?レヴィアも含めて。いや、呆れてはいない。分かりやすいし、覚えやすくて結構。どうせ、物語のモブなんてそういうものだろう。…設定のあるレヴィアでさえ、由来もあれだし。


 そのうちポチとかタマとかコロとかマメとか、そういう名前の獣人に遭遇しそうだなという予感は、多分スルーしておけばいいのだろう。きっと、この世界的に平凡な名前とかが、そういう名前なのだろうから…。A子とか名無しよりはずっといい。そう思うことにしよう。

なかなか先に進んでくれないので、ゲーム主人公sにあえないですが…多分次回には片方出てくると思われます…。多分。


本日も読んでくださりありがとうございました。

評価、ブックマークが増えてくるのは嬉しいものなんだなぁ、と投稿前に確認して改めて思います。

これからも生温かく見守ってくだされば幸いです。

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