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誰も何も知らない

「私は大神さんのことが好きです…」


「え?」


「うふふ、お返事まってますね」


私は振り返り自分の家へと駆けていく。

振り返る時ちらっと平群さんを見たら彼女はとても驚いたやうな顔をしていた。

それはそうだろう、まさか今日告白するなんて思うわけがない。

相手の不意を突くいい作戦だったと自画自賛する。

私は笑いをこらえていた、もちろん彼女が最後私に見せた顔が快感であったからだ。

あぁ、家に帰ったら1人腹を抱えて笑おう、その後1人虚無感に襲われてもその一瞬が幸せならばよいのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



彼女が去って以降、私たちはその場に立ち尽くしていた。

私の脳裏には彼女の最後の言葉が繰り返されていた。

まさか彼女がその気だったなんて無いだろうと思っていたのだし、それに今日言われるなんて思いもしなかった。

すると歩美が意識を取り戻すように帰ろうと促してきた。

私もそれにのって歩きだした。

私たちの間に会話が途絶えた。

もとからそこまでよく話すというわけではなかったが、彼女との下校時間に気まずくなって話が止まるなんてことは一度もなかったはずだ。

私は初めての感覚に驚きを隠せなかった。

告白自体はなんどかされることはあった。

もちろん相手は全て男子であった。

そのたびにヘイトをため、でもそれを見せないように丁重にお断りした。

しかし今回は違った、相手が女だからだけではない。

私の気にかける人物からだったからだ。

今目の前に私が欲しかったものが手に入りそうであった、でもなんだろうこの虚しさは。

ずっと欲しがっていたはずなのに、心が踊らない。

この虚しさは何なのだろうか、いきなりのことに現実を受け入れられてないからなのだろうか。


「どうするの?」


「どうするって…」


「もちろん付き合う」なんて言えなかった。

彼女に対してだからではない、虚しさが原因であった。


「私は…反対よ」


「どうして?」


「…」


歩美は黙った。

あぁそうか、そういえば彼女は普通の人間だった。

男女間の恋愛を当たり前と思う人間であった。

なら彼女が反対するのも自明なのだろう。

私は先手を打った。


「女の子同士だから?」


「違う!そんなんじゃない…」


彼女の強気な否定に私は驚いた。

彼女が語気を強めるなんて事は滅多にない、ならそれは信用に値するのだろう。


「ならなんで?」


「だって…まだ佐竹さんのことよく知らないじゃない」


彼女の言葉を聞き、私はそれを言わずとも心で否定した。

よく知らないから付き合わないなんてのは理由にはならない。

なぜならそれは意味のない事だから。

よく考えればそうであろう、いくら長い付き合いでも友情なんて一瞬で壊れる。

長く交際しても結婚して別れる事もある。

付き合いだとか知らないなんて理由にはならない、だから付き合ってみて好きと思えればそれでいい。

大事な事はどれだけ相手が好きかだ。

私はそう結論づけると、さっきの虚しさと重なって、さらに虚しく感じられた。

あぁ、わかった。

私は彼女を好いていないのだ、恋愛的な意味で。

それを思うと急に冷めるものがあった。

せっかく目の前に現れた自分の願いなのに、どうしてこんな事でつまずくのだろう。


「歩美ならどうする?」


「驚いた、あなた相当動揺してるみたいね」


「どういうこと?」


「だって、あなた私に頼ってきたことないじゃない。なんでも1人でやろうとして、昔からそう。そんな繚子が今更私ならどうとかいうとは思わなかったわ」


彼女は昔から察しがよかった。

今回だって的確に私という存在の具体をついていた。

それが私が彼女に対して思う良さであり悪いところでもあった。

彼女は優しい、それは決して今後も変わることがないだろう。

しかし、この私にとってその優しさというものは不要なのだ。

もしそれを私が欲したとすればそれはきっと…


「動揺…か。そうかも」


「まぁでもさ、私ならいくらでも相談にのるわよ。今回の件もすぐに答えを出さなくちゃいけないわけじゃないし、もっとよく考えてみてもいいと思うわ」


「うん、そうする。…あ、そういえば」


「ん?」


「今日の昼休み、私の袖掴んでたよね?」


歩美は「あ、」と声を漏らしてばつの悪そうな顔をした。

彼女のあのような態度を私はみたことがなく、仮の友達であったとしても気になっている。

例えるならおばさんに興味は無いけれど、そのおばさんがなぜ歳不相応の服を着ているのか、なんていう興味と同義であろう。


「いやー、忘れて。あれはなんていうか、うん」


「いや、忘れられないでしょ。昔から一度もないじゃない。誰かに助けを乞うなんて」


「昔かぁ…」


「なに?」


彼女は「いいや」と笑ってこっちを見て話した。

いつのまにか私たちにはいつも通りの空気が戻っていた。

そして私の心も少しは落ち着いた。



「繚子、待っててね。私が必ず…」



「ん?なんか言った?」


「いいえ…なにも」


「そっか…」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「あははははは」


私は家に帰るや否やカバンを投げ捨て、リビングに転がり笑っていた。

私だけが知っている本当の私をさらけ出した。

人はこれを見れば一瞬で距離を置くだろう、中学の頃がそうであったように。

でも私にはこれがやめられないのだ。

私は人の絶望を蜜とする悪魔なのだ。

そして一通り笑い終えた私は一人おでこに腕をあて、寝転がっていた。

ここには色々な思い出が詰まっていた。

先のように笑いまくるためのリビング。

べんきょうをするためのリビング。

本を読むためのリビング。

ご飯を食べるためのリビング。

オトコを連れ込んだリビング。

そして、家族が暮らしていたリビング。

今となっては一人暮らしであった。

一人過ごすにはこのリビングは広すぎた。

リビングの広さと私とは反比例であった。

そう、私は一人ここで暮らしているとどうにも暮らしづらさを感じていた。

こうして一人笑っている時にだけそれを考えずにすみ、満たされたような感覚になるのだ。

家族のことは考えずにいた。

考えたら負けそうになるから。

私は家族のことをいなくなってからほとんど考えずにここまできた。

幸い、自分のこの悪魔的性格を知ってからはそれをうまくごまかせているような気がする。

私は決して家族のことは思い出したりなんかしない。

今でもたまに笑い終えるとふと考えそうになってしまう。

どうして家族なんかについて考えてしまうのかと。

自分でもわかっている気がした、簡単な答えな気がした。

だからこそ私は考えない、その答えを出すのが私にとって恐怖となりそうだからだ。

私は強い人間であり、単なる弱者だ。

そういえば彼女に告白したのはいいものの返事のことを考えていなかった。

あぁ、ここで彼女にフラれればきっと平群とかいう女に笑われる、笑われないにしても下位扱いされるであろう。

まぁいいや、そんなの考えなくても、考えるのが億劫だ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「こんな時間に呼び出すってことは…決めたんですよね?」


私は休み時間を利用して彼女を呼び出した。

場所はいつもの屋上である。

幸い、私たちの学校は授業の1コマが長い代わりに休み時間も長く、20分も取られていた。

なので考えた結果を言うだけであれば十分に足りる。


「うん、そうだよ」


彼女は一つ大きな深呼吸をした。

その後に来る結果を待っているのだろう。

私は考えに考えぬいた。

…そして答えは出なかった。

彼女の事が好きかそうじゃないかなんて私にはわからなかった。

ただ一つたしかな事があった。

それは私は彼女に無関心でないということだ。

彼女の存在は昔から私の興味の対象であった。

話すことはなかったにしろ私と同じようなものを感じた。

そして2人なら助け合えるのでは無いかと感じるようになった。

そしてこうも思う。

これはきっと付き合いたいがための理由付けに過ぎないと。

結果出た答えは曖昧でありすぐにも崩れそうな積み木のタワーのようなものだった。

今まで色々な形で考え組み立ててきたのに、結局はグラつく。

そんな私が出した答えなど目に見えている。


「付き合おうか、私たち…」


「…ほんとうに?いいの?」


佐竹さんは驚き半分、嬉しさ半分のような顔をしていた。

その反面私は嬉しさなど微塵も感じてなどいなかった。

あぁ、これは偽物だ。

自分でもわかる、こんなものは私がこの世で嫌う偽物だ。

でも私はこの道を選んだ。

そして私はそれに対して付け加えた。

これはきっと自分を世間一般とは違うと思いたいがための言い訳だった。

偽物は偽物でしかないのに、本物と思うための予行期間だと勝手に自己欺瞞した。


「うん、でもね一つだけ」


「なに?」


「私、まだあなたの事好きかなんてわからない。だからさ付き合ってみてなんとも思わなければ別れようと思う」


「うん、わかった…なら私が好きにさせてあげるから」


「楽しみにしとく」


私はそう笑顔で彼女に答えた。

無論、心からではなかった。

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