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告白

放課後、学級委員である私は雑務に追われていた。

私は毎日黒板を綺麗にし、教室を掃除し、ゴミを捨てる。

これだけの事を1人でやるとなるとそこまでの労力は必要ないにしても時間がかかる。

なのでいつも歩美が手伝ってくれるのだ。

私が黒板を綺麗にすれば掃除、ゴミ捨てをやってくれる、私にとっては助かっていた。

助かるなんて綺麗事なのだろう、私の性格上それを表すのであればいい駒ということになる。

今日も黒板を隅から隅まで綺麗にしていた。

しかし、いつもと違うことが起こる。

いつもこのクラスは部活なり寄り道なりでクラスメイトはすぐに教室を去っていく。

高校生になったばかりの女子高生たちは授業なんかで時間を潰している暇などないのであろう。

いつもと違うというのは佐竹さんが残っているという事だ。

佐竹さんは歩美がゴミを捨てに行くのを見ると、読んでいた本を閉じ、私の方にやってきた。


「ねぇ大神さん。今日一緒に帰らない?」


私は少し驚いた。

彼女がわざわざ残っているということは私に用があるのではと感じてはいた。

しかしそれが一緒に帰ろうなんて友達のような事を頼むことなのが私を驚かせたのだ。

彼女は友達などいらないと言っていた、いや、それには語弊があるかもしれない、ただ確かなのは彼女が友達というものにあまり好印象を抱いていなかったことだ。

つまりここで私にこのような声をかけるということは…いや、それはないか。

私はほんの数秒ほど驚いた顔を見せ、返答する。


「いいけど、私門でて西側だから場所が逆かもよ?」


「私も西方面だから大丈夫だよ」


「そっか、なら大丈夫だね、もう少しで終わるから待っててね」


「そう言えば、大神さんて何中だったの?」


「どうして?」


「いや、普通この学校通う人って家が校門出て東側が普通だからさ、学区的にも西側だとここから遠いところの中学だし」


「あぁ、確かに。私は木ノ葉中だよ。佐竹さんなら私がどうしてここきたかわかるんじゃない?」


私はそう彼女に笑いかけた。

私の価値観を知っているのは彼女だけだ。

私と同じ価値観を持っているのであれば、彼女も同じ理由でこの学校を選んだのだろう。

私たちが住む地域であればもっと近くにここと同じくらいの学力の学校がある。

わざわざそこを蹴ってまでここに来るのはそれなりの理由がある。

私の場合はただ単に学友と別れるためだ。


「まぁね、大神さんらしいかも…」


「佐竹さんも同じ感じ?」


「はは、私は佐竹さんとは違うよ。だって私は別れなくちゃいけない友達なんてそもそもいなかったもの」


「あ、なんかごめん」


「どうしてあやまるの?」


確かに言われてみればそうだ。

友達を悲観的に考えている人物に友達のことで気を使う必要なんてそもそもなかった。

だとするならこれは日頃のクセなのだろうか?

私は少し痛いところを突かれたような気がして、あからさまに話を変えた。


「佐竹さんはどこ通ってたの?」


「あぁ、私は…」


佐竹さんが話そうとした時、教室の扉が開いて、歩美が戻ってきた。

それをみた佐竹さんは話すのをやめ、私の背中に隠れた。

人と話しているのを見られたのが恥ずかしいのか、理由はわからないが、とにかく彼女は何か私の背中に隠れて隠したいものがあったのだろう。

それを見た歩美は強面になった。

どうしてそこでそんな怒った表情を見せるのだろう、余計に彼女を怖がらせてしまうだろうに。


「なんでそんな怒ってるの?」


「…怒ってなんかないわよ」


「そう、ならいいんだけど…」


私には分かっていた。

腐れ縁ながらもここまで付き合ってきた仲だ。

彼女のことは他人よりは分かっているつもりだ。

基本的に彼女があんな表情をする事はなかった、友達にはいつも明るく接していた。

そんな彼女が誰かの前であんな表情を見せたことなんてなかった。

しかし今ここには佐竹さんがいるのだ、そこでまた嘘つきなんていって困らせても仕方がないだろう。

後ろの佐竹さんは相変わらず私の制服を掴み、隠れたまま様子を見ている。


「今日佐竹さんも一緒に帰るんだけどいい?」


「…そう、構わないわ」


「りょーかい、ほら、佐竹さんもいつまでも隠れてなくても大丈夫だよ。歩美は悪い子じゃないし」


「それじゃあ…」


そう言うと佐竹さんは少しずつ私から体を離していった。


「よろしく、佐竹さん」


「じゃあ、私少しトイレに行って来るから待ってて」


そう私は席を外した。



大神さんが席を外した後、私たちの前には沈黙が流れていた。

すでに窓が閉められた教室には風の通る音もなく、ただただ無であった。

どうやら彼女は私の事をあまり好いてはいないようだ。

平群へぐりさんはただ私の様子を伺っているようにも見えた。

もしかして私の本性をバレないようにするため、自分と真逆な性格を演じるのがいけなかったのだろうか。


「ねぇ、佐竹さん。あなた昼休み何があったの?」


「え、な、何ですか?」


「そう」


「何って、葛城かずらきさんと喧嘩をしてただけですけど」


「いや、私が聞きたいのはそこじゃないわ。繚子との事よ、どこで何をしていたの」


そんな事を聞いて平群さんになんの得があるのだろうか。

彼女にとってそんなことは全くもって興味関心の対象にはなり得ないはずだ、しかし、そうなるということはそこには何かしらの理由がある。


まさか、平群さんは大神さんの事が好きなのでは?


そう考えた時、私は笑みがこぼれそうになった。

ここで私が大神さんと付き合ったらどんな顔をするか。

そうか、この女は私に嫉妬しているのだ。


「何って、普通の会話ですけど…」


「本当にそうかしら、ただの会話ならあなたがそこまで彼女に接するとは思えないのだけど」


「ただの会話だけじゃないです。大神さんは私を助けてくれました」


「助ける…ねぇ」


この女は私のなにを探っているのだろうか、イマイチ焦点の合わない質問を繰り返すだけでこの女は全く攻め入ったりして来ない。

慎重な性格なのだろうか、それだけでは片付かない気がした。

この女は本能的に危ない気がした。

それは片務的な恋敵としてではない、人としてだ、能ある鷹は爪を隠すなんて言うがこの女はそれを狙っている。

私の前で公にする事はないだろう、でも私が少しでも隙を作れば叩いてくるのであろう。

それこそがこの女、葛城歩美という1人の女へ私が立てた仮説であった


「まぁいいや。とりあえず繚子には変なことしないでよね」


「変なことってなんですか?普通に付き合っていくのもいけないのですか?」


「あなたは繚子と一緒にいていい人には見えないわ」


「それはどういう意味ですか?自分だけ一緒にいようだなんてそんなのは虫のいい話じゃないですか」


「そういうところよ」


「…」


「あなたはさっき葛城さんたちと喧嘩している時も普通に口答えしていたわよね、でも私と会った時あなたは繚子の後ろに隠れた、まるでかよわいフリでもするかのようにね。あなたは何かを隠してる。それがわからない限りあなたが彼女のそばにいるのを私は許さない」


あぁわかった、これは宣戦布告だ。

前にも同じようなことを言われたような気がする、いや、無かったのかも。

とにかくこの女は私の勘通り、かなり鋭い。

今だって私はこの女に対して口答えする手札がない。

でも、こういう女を負かして、絶望している顔を見るのもまた私にとっての快感だ、やりがいがあるのはいいことじゃないか。

私はクスッと笑みを浮かべ彼女に対してこう返した。


「別に隠し事なんて誰にだってある事ですよね。秘密のない人間なんていない。あなたは自分が一緒にいたいからって都合のいい理由をつけてるだけです。あなたもあるんですよね、秘密が。何かはわかりませんけど。私諦めませんから」


「あなた何か…」


平群さんがまた何か話そうとした時、大神さんが帰ってきた。

聞かれるとまずいのか、平群さんはその言葉を飲み込んだ。

何も知らない大神さんはもちろん私たちが話しているのをみて仲良くなったのかと勘違いした。


「なんだ、もう話すようになったんだ、よかったぁ。じゃあ、帰ろうか」


私は今とても笑いそうであった。

今ここに流れるのは嘘でしかなかったからだ。

彼女と昼話してわかった。

彼女は他人に対して微塵の興味なんて持たない人間だ。

だから先の言葉の「よかった」なんて彼女が本心で使うはずがなかった。

彼女のその言葉はおそらく彼女が演じる「きゃらくたー」という名状しがたいものなのだろう。

私は私で仲がいいフリをして平群さんと作り笑顔のにらめっこを交わした。



「いやぁ、私たち以外でこっちから帰る人がいたとはね…全く気づかなかったな」


「そうね」


平群さんは何にもないかのように満面の笑みを浮かべていた。

おそらくその奥には恋敵としての感情があるのだろう。

なら私だって負けてはいられない、いや、負けるはずがない。

これは確信である。

私はすこし煽りをいれてみた。


「大神さんて頭いいよね」


「そうかな?佐竹さんも私と同じじゃない?」


「いやいや、友達といっしょにいながらも勉強もちゃんとするなんて全然違うよ。私なんて勉強しかすること無いだけだし」


「まぁでも、歩美も同じじゃない?たしか学年3位なんだし」


よし、食いついた。

私は葛城さんも頭がいいことは知っていた。

つまりいまここで起きているのは成績上位者による自己欺瞞に嘯き、詭弁という三拍子であった。

この場に限った話であれば大神さんは無関係であるのかもしれないが…

私は大神さんの言葉に満面の笑みを浮かべて切り返す。


「え、そうだったの?気づかなかったぁ」


私は平群さんの方をちらっと見た。

しかし彼女は平静を保ち、ニコニコとしたままである。

その瞬間私の興は冷めた。

なーんだ、つまんない。

もっと面白い顔を見せてくれたっていいじゃないか、私を楽しませてくれたっていいじゃないか。

これがいじめっ子の感覚か、と自分ですこし罪悪感を感じるだけの骨折り損のくたびれ儲けであった。

私はいつのまにか一緒に帰ることよりも平群さんのポーカーフェイス(?)を崩すことを優先していた。

いや、恐らく教室で出会った時からそうだったのだろう、それが私だ。

とあるわかれ道にさしかかった時、私は会話を止めた。


「じゃあ私こっちだから…」


「そっか…じゃあまた明日ね」


「さようなら、佐竹さん」


彼女は未だ笑顔のままだ。

あぁ、この後の顔を想像すると今から興奮してしまう。

彼女はどんな顔を見せるのだろう。

私はいままで受動的であったその行為を初めて能動した。


「大神さん…」


「ん?」


「私は大神さんのことが好きです…」

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