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錆びても動く世界

春の訪れを感じる4月の下旬、私は朝食を机の上に並べ、椅子に座り、テレビをつけた。


ーー続いての話題です。有名歌手のーさんが女優ーさんと不倫していることが今日発売の週刊誌が報じました。調べに対し両者の事務所は…ーー


あぁ、またこれか。

私は朝食のトーストを口に含みながらテレビに映るその醜い物を観ていた。

今日も昨日と同じ晴天であった。

鳥たちが己の声を交しあった。

心地よい春風が窓から吹き込み、私の長髪ゆえに溜まりやすい湿気を吹き飛ばす。

こんなにも美しい世界で人間たちは自らの醜さを露呈させている。

どうして人間は学ばないのだろう。

昔からなにも進歩していない、進化したのは無駄に発達した科学技術だけであり、人間としての内面なんてなにも変わっていない。

私はコーヒーを口に含み、そのにがさにかすかに残る眠気を飛ばした。

人間は異性を性の対象でしかみていない。

いや、中には愛を育んでいる者もいるのだろう。

しかし、不倫だのなんだのは人間が異性を性の対象でしかみていない確固たる根拠となるだろう。

しかし、こんな世界が私は大好きだ。

ほとんどの人が知らない真実の愛を自分だけが持てるという事を私は幸せに思う。

そう、異性を性欲の対象でしか見れないのであれば同性で付き合えばいい。

そこにあるのは風当たりの冷たさだったりするのかもしれない。

でも、それでも止められないというものが恋と呼べるものだ。

ロミオとジュリエットのようなロマンティックなものを求めているわけではない。

ただ本物の恋を手に入れたい、それだけだ。

しかし世界が私の考えに従えば人類に未来はなくなる。

私以外の人間がその醜さを露呈させ、子孫繁栄を続けていけばいい、その中で私は本物を貫くだけだ。

私は男という生き物が嫌いだ、女という生き物も好きではない。

私の脳裏にあの出来事が思い浮かぶ。

思えば私のこの価値観はあの時に生み出されたものなのだろう。

今でもなぜ自分が優等生を演じているのか、と考えてしまう。

考えるたんびに同じ答えがでてくる。

あぁ、だから私は永遠を求めるのだ。

いつもと同じ結論に至った時、その出来事にふけっている自分に気づき、朝からこんな事を考えるのはよくない、と思い、少し残っていた苦目のコーヒーとともに脳内のどこか奥深くへと流し込んだ。

時計を見るとすでに時刻は8時になろうとしていた。

予鈴がなるのが8時40分であり、家から歩いて10分ほどで着くので別に急ぐ理由もなかったのだが、腐れ縁とも呼べる人間のせいで、急がなければいけなかった。

俗にいう待ち合わせだ。

本当に腐れ縁という言葉が適切であろう。

私は交友関係を引きずらない。

卒業など、自分の近辺の環境が変わるたび、古いものは全て捨てた。

理由は察しがよければ想像がつくだろう。

私には一過性たるものに微塵の興味もわかないのだ。

友達などという存在はその場限りでいればいい。

だから小学、中学、そして高校とつきまとってくる彼女もまた状況が変わるたびにまた心の中で関係をリセットする。

やはり腐れ縁だ。

私は少し大きめに残ったトーストをそのまま口に含み、まだ呑み込まないうちに立ち上がり、支度をし始めた。



家を出ると既に彼女はいた。

彼女はいつも私よりも先に待ち合わせ場所にいる、といっても私の自宅の前だが。

彼女の中にどんなポリシーがあるのかは知らないがどうやら彼女は遅刻という概念が嫌いらしい。

私の家は一軒家であった。

小さくはなく、いってしまえば少し大きい。

ここに1人で住んでいる。

彼女は私のあの出来事を引きずっているのでは、と気にかけてくれているのかもしれない、しかし、そんなことはどうでもよかった。

もっとも、彼女が私の求める永遠となりうるのならわたしの彼女に対するものの見方、態度は変わるだろう。

しかし、彼女がわたしの求めるものではないことは仮にも長い付き合いだからこそ知っている。

鍵を閉め終え、彼女のもとに向かうと彼女は不機嫌そうにこちらを見るのだ。

私は即座に彼女の言わんとしてることを察したがあえてその話題には触れなかった。


「おはよう」


「遅いわよ繚子りょうこ、2分遅刻」


「はいはい、ごめんね歩美あゆみ


彼女とのこの会話はもはやルーティンであった。

私は時間にルーズなため、基本的に時間通りにはいかない。

その代わり時間に厳しい彼女は私とは噛み合わず、このようなことが日常茶飯事に起こる。

これを毎朝繰り返し、学校へ向かうのだ。

毎日同じご飯だと飽きてしまうように、毎日同じことの繰り返しは飽きてしまう。

正直彼女とのこのやり取りには飽きた。

いや、もっと私は別のものに飽きていた。

なぜ私はこのような関係を続けているのであろうか。

私の頭の中に答えが浮かぶ。

あぁ、なんて面倒臭いのだろう、人間関係というものは。

普遍は終わらなければ特殊にはなり得ない。

それと同じで、いくら毎日同じことを繰り返しても、そんなものに全く意味はない。

矛盾に思うかもしれない、永遠を求めているのに、普遍を嫌うのはどうなんだと。

実際私もこの矛盾に昔は悩んでいた。

しかしこれはなんの矛盾でもないし、そもそも問題ではなかったのだ。

ここで比較すべきは真実の愛と偽物の愛、普遍と特殊であるのであり、この両者にイコールでつないだ対比は不可能だ。

そもそも愛を普遍や特殊という概念で捉えようとする限り愚かだ。

私は彼女とともに学校へと歩を進めながら、自分の求めるものを自分の心の中で復唱した。

私が求めるもの、それは永遠だ。


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