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「他にも容疑はある!」
「教科書と暴言でございましたっけ?」
「そうだ!」
「その教科書はございますか?」
「当然だ!」
ばさりと教科書が投げつけられた。私を狙ったようだが、真横を通り過ぎた。
まだ近くにいたミゲル先生が拾ってくれる。ついでにパラパラとページをめくっていた。
「ははぁ。これですな」
破られたページを開いて、私に見せてくれた。
確かに破れている。破れているが、問題はやぶられていない部分だった。
ひどく幼稚な絵が描かれていた。
これはフランツ様とフルール???ハート模様が飛び散っている。
「きゃー、見ちゃだめ!」
真っ赤になって、教科書を奪い取った。タイミングが悪く、先生との間で、さらに教科書がビリビリと破れる。
なんとも残念な雰囲気が漂った。
授業中に、何を妄想したんだか「きゃー(ハートマーク)!!!」と顔を真っ赤にして奇声を上げて、教科書をビリビリにしたのを、クラスの違うフランツ様は知らなかったようだ。
「教科書の事は、不問にしますか?それともこれ以上……?」
「もちろん不問よ!もう聞かないで!」
フランツの顎がガクンと落ちそうだ。この男、こんな間抜け面だったかしら。
「えーと、それとなんでしたっけ?暴言でございましたね。
いったいどういった言葉なのでございましょうね?フルール」
フルールは「えっと」「その」とかしか言えずにいる。
「フルールは、心が傷つくような言葉をこんな人前で思い出したくないだけだ!」
「フルール、あなたと私は三年間親しい友達でいたはずよ。もしあなたが傷つくような事を言ってしまったのなら、謝るわ。でもこれは女同士の話よね。
だとしたら、二人で話した方がいいのではなくて?」
フルールは、コクコク頷く。
「何を言っている!
心優しいフルールをそなたと二人きりになどさせられるか!」
「まさか、女同士の話に男が顔を突っ込むつもりですか?」
周りの女性達がフランツ様を睨みつけ、男性が首を振る。
フランツ様は、えっえっと周りを見回す。
「さて、問題は片付いたようですが、何の御用でございましたっけ?」
「え???
……………あっ。
マリーベル・ストラウス伯爵令嬢。私はお前との婚約破棄する。
そしてここにいるフルール嬢と婚約する 」
「はい。
婚約破棄、承りました。
そして新たなご婚約おめでとうございます」
「え……」
「今度こそ、何か他にございますか?」
「いや……」
「では、失礼いたします。
フルールは、こちらに来てください。
フランツ様はご苦労様でした」
中庭の出口を指差せばフランツ様は「あれ?あれ?」とつぶやきながら、フラフラと中庭を出ていく。