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「盛り上がっているところを申し訳ありません。

 婚約破棄、承りました。問題ありません」


 ピンと背筋を伸ばし、構わずに言いたい事を続ける。


「しかし、私がいじめを行ったという件については、そのままにしておくわけにはまいりません」


 ギョッとしたようにフルールが体をこわばらせました。

 フランツも、いつも影の薄い私が、反論したことに驚いたようでした。

 フランツ様からの婚約破棄だけならともかく、平民をいじめていたなどという噂がたてば、明らかな汚点となります。

 婚約破棄も織り込み済みで、爵位だけは高い貧乏貴族な私は、卒業後に、外交官として採用になっております。ですので、むしろ婚約破棄していただかないと困ります。

 平民差別主義だなんてレッテルを貼られては、外交官としては二流扱いされてしまします。断固としてその汚名、着るわけにはいけません。



「いじめとは、一体何どういったことなのでございましょうか?

 とんと覚えがございませんが」


「貴様が、身分をかさに着て、平民でしかないフルールに暴言を吐き、教科書等を破り捨て、あまつさえ命を狙おうと階段から突き落としたのではないか!」


「それは……重大な告発ですわね。

 突き落としたというのは、いつのことですの?」


「この前の卒業試験の前日だ」


「それを見ていた証人や証拠はあるのですか?」


「誰もいないと確信してから、貴様はやったのだろう。もしくは、金や身分で黙らせたか。

 しかし、そんな事は問題ではない、フルールが貴様を見たと言っているのだ」


 身分はともかく、お金はうちにありませんが。フランツ様は知らないことですので、仕方ありません。

 卒業試験関連というと、あれの事だろう。

 フランツ様と会話を続けながら、目的の人物をこの中庭で探す。

 いた!


「そちらが証人がいなくても、こちらには証言して下さる方をお呼びします。

 ミゲル先生。こちらへ来ていただけますか」


 中庭に居合わせた教師のミゲル先生だ。頭髪の薄くなった背の小さな男性が、さらに体を縮こませて現れた。

 先生、こんな修羅場に呼んでしまって申し訳ありません。


「ありがとうございます。ミゲル先生。

 これから、いくつか質問します。答えられる事で構いませんので、正直にお答え下さいますか?」


 ミゲル先生は、戸惑ったようにカクカクと小刻みに頷いた。

 フランツ様は、何がなんだか分からないようだった。


「先生の科目を教えていただけますか?」

「地理学です」

「先日の卒業試験では、地理学は必修でしたね」

「もちろんです」

「その試験のとき、先生は何をなさっておりましたか?」

「試験教室の見張りをしていました」


 そう。試験は大講堂で、一斉に行われる。科目の先生が立ち会い、カンニングなどが行われないように見張りをしている。


「フルールは、地理学は追試ですか?」

「はい。地理学だけでなく……」


 フランツ様が、苛立った様子で割り込んできた。


「そんな事はどうでも良いのではないか?問題は、貴様がフルールを階段から突き落として、怪我を負ったフルールが試験を全力で挑めなかったということであろう!」


 先生は、フランツ様の話を聞くと、眉をひそめた。

 周りからは、忍び笑いが広がった。

 フランツ様は、えっとキョロキョロと周りを見回している。


「その時のフルールの様子を覚えていらっしゃいますか?

 フルールが怪我のせいで試験に全力で当たれなかったとフランツ様はおっしゃられていますが……?」


 先生がした話は、フルールが確かに腕に包帯を巻いており、試験用紙に書き込み辛そうにしていたというものだった。

 フランツ様は、「辛かったな」とフルールの肩を抱いた。それがいっそう周囲の笑いを誘った。

 フランツ様は訳が分からず、フルールはみるみる顔が青褪めていった。


「怪我のせいかどうかは、私には分かりかねます。

 しかし、怪我などで試験を受けられない時は医師の診断書があれば特別措置を行っておりますが……」

「フルールは診断書がなかったと言うわけですね」

「その通りです」

「フルール、あなた、何故医師の診断を受けなかったの?」

「そ、それは……。

 それは、そんなに大した怪我じゃなかったからよ。お医者様の手を煩わせるようなものじゃなかったからだわ!」

「でも、試験では記入が辛い位の痛みだったのでしょう?」

「それは……」

「それとも、何か別の理由で、記入しづらかったのかしら?」

「!!!」


 フルールは、息を詰まらせた。

 私は知っていた。フルールは試験で不正をしたのが発覚していた。包帯にカンニングペーパーを隠していた。

 先生方はその場では告発せず、試験後すぐに全教科追試となる。ほとんどが身分のある生徒なための措置だ。

 私はミゲル先生を呼んだが、近くにいる先生だったら、誰でも同じ話を引き出す事ができるはずだ。


 先生方が、どう配慮しようとも、噂になる。知らないのは、耳汚しな噂を持ち込まれないフランツ様位だった。

 それが中庭の皆が、嘲笑った訳だった。


「フ、フランツ!

 マリーベルじゃないわ。私、自分のミスで階段から落ちたの」

「何を言ってる、フルール?

 君がマリーベルが突き落としたといったんじゃ?」

「私、見間違いだったかも。近くにマリーベルがいただけ……、いえマリーベルに似た人がいただけよ。気が動転していたの 」


 どうっても私が悪役になる気が無いと悟ったフルールは、急いで方向転換をしたようだった。


「フランツ様。私が突き落としたという証言はフルールからだけでしたわね。証言も証拠も何もない状態で告発されるおつもりですか?」


 ぐぬぬと、音が聞こえそうな様子で、フランツは歯をむく。




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