6話格の違い
「何とかなった…怪我は大丈夫?」
「大丈夫です。名前をいい忘れてましたね。私はエルといいます」
「とりあえずオークは倒したし、近くにはモンスターも見えないから今のうちに一回帰った方がいいと思う」
「それが帰り道が分からなくて...」
「それなら一緒に帰ろうか。俺も一回帰ろうと思ってたし」
「お願いします...」
手を貸しながら、歩いてきた道を戻っていく。入口付近はゴブリンが多いため、周りに警戒しながら歩いていく
「そういえば、さっき言っていた魔力転換ってエルの固有スキルなの?」
「はい。自分の中の魔力を変える固有スキルです」
「魔力を変えられるって...どの属性の魔法でも撃てるってこと?」
「そういうことになりますね」
固有スキルがない自分からしたら、あるだけでも羨ましいのに、魔力を自由に変えられるスキルだなんて…
いつか自分にも発現する時が来るのだろうか
「ここってゴブリンの生息地でしたよね?」
「うん。ここらへんは結構ゴブリンがいるよ」
「なのにさっきから全然姿が見えないのですが...」
「それもそうだね...倒された形跡も無いし」
周りをいくら見渡しても、ゴブリンの姿は一匹も見えなかった。だが、この森にゴブリンの天敵となる敵がいるはずがない
気になって考えていると、エルが震えながら森の奥を指さした
「なにかいるの?」
指さした方向に視線を向けると、そこにはオークのボス。オーガの姿が見えた
ミツキから近くに生息地があると聞いてはいたが、かなり遠くの洞窟から出てくることは無いと聞いていた
「何でこんなところに?生息地はもっと奥のはず」
「そのはずなんだけど...」
オーガは森を進みながら、ゴブリンたちを食べていた。だから死体がなく、ゴブリンたちの姿だけが消えていたのか
「今すぐここから離れましょう。この近くに生息しているとなれば、二つ名持ちのオークでしょう」
「二つ名?」
「特殊能力を持っているモンスターのことです」
特殊能力がどんなものかは分からないが、今の自分には絶対に勝つことは出来ない
このまま街に向かいつつ、逃げるしか無いだろう
「ウゴァァ!」
オーガの叫び声によって木々は揺れ、止まっていた鳥たちは一斉に飛び立った。その声の大きさに耳を塞ぎ、思わず小さな声を上げてしまう
その声に気づいたのか、オーガはこちらを向きながら鼻息を荒げていた
「やるしか無いか…エルは魔法を、俺がさっきみたいに注意を引きつけるから」
「分かりました!」
「疾風怒濤!」
ダガーを握りしめ、オーガとの距離を詰めていく。止めるために、オーガが拳を前に突き出すが、それを避けて足に攻撃する
しかしオークとは違い、多くの剛毛に覆われた体にダガーは効かず、ダガーの刃が欠けてしまった
「魔力転換・雷、雷の精霊ヴォルトよ!雷神の雷をここに!その雷、剣となりて我の前に敵はひれ伏さん。その雷我の一部となりて、力を振るわんとするもの、その力を今ここに!ライトニングソード!」
エルの魔法がオーガに直撃する。剛毛が雷属性の魔法によって焼け、一部だけ皮膚が見えていた
しかしダメージは微々たるもので、ふらつかせる程度のダメージだった
「ウガァァ!」
オーガは怒り狂いながら、こちらに向かってくる
圧倒的実力差を見せつけられ、恐怖で足がすくんでしまう。頑張って逃げようとするが、どうやっても足は動かず、腹部にオークの攻撃をくらい、後ろの木に体が打ち付けられる
殴られた痛み、それによって吐き気を催す。視界がだんだんと暗くなっていく中で、必死に声を絞り出す
「早く…逃げろ!」
エルは戸惑いながらも、街に向かって走り出した。助けさえ呼べれば…エルは助けられるはず
呼吸の動作が辛い…これが死ぬってことなのか…記憶がなくて、自分が誰かもわからないけど….誰かの役にはたてたかな?
だんだんと暗くなって言った視界は完全に閉ざされ、呼吸が止まり、死を迎えた




