142話努力は届かずかけ離れた現実
「相変わらず、容赦ないっすねクラミスさんは...」
「手加減してもらえると思わないことです。さて、そろそろ私も攻撃し始めましょうか」
クラミスさんの「攻撃する」という言葉が聞こえた瞬間、体には一気に圧がかかる。スキルなどの効果ではなく、クラミスさんの体から発せられる純粋な殺意。その殺意に耐えながらも、腰のダガーを抜く。クラミスさんの、動き一つ一つに警戒しながらダガーを中段に持ってきて刃の先端を相手に向ける構えを取る
「見ないうちに、良い構えになりましたね...ですが、まだですね。我クラミス=マリロウス、此処に真名解放を命じる。レリックインセーティング!」
クラミスさんの圧が一層強くなったのに耐えながら、構えを崩さないように足に力を込める。一度だけだが、クラミスさんの真名開放は見たことがある。戦っている姿は、もはや芸術の域だった。敵の攻撃をすべて避け、的確に相手の死角から攻撃を相手に撃ち込む。そんな姿は、僕の憧れであり目指す姿でもあった。その、憧れの相手と戦う...そんな夢に見た戦いは、始まってみるとそんな簡単なものではなく、今すぐに逃げ出したい衝動に駆られてしまう。しかし、逃げ出してしまったら魔獣にすらこの刃は届かなくなってしまう...そんなのは絶対に嫌だ...だからこそ、憧れの相手を今ここで倒さなければいけない
「物質変化・近、ブリーディングビギン!」
「円舞曲・第一楽章!」
クラミスさんの動きは目で追える。しかし自分よりも圧倒的に早く、何より技自体に美しさがある。しかし、レミレスさんの技は幾度となく見てきて研究を繰り返してきた。この技も何度も見てきた...まだ足りない何かは努力で補うしかない。十字形に飛んでくる斬撃を、ジャンプでかわしてギリギリまで発動させるのを遅らせていたスキルを発動させる。ダガーを前に突き出し、自信の体を高速回転させる。剣先が描く回転する斬撃を、クラミスさんに飛ばす。元になったのは、クラミスさんのブリーディングビギンだった。斬撃を飛ばす事をイメージするのが一番難しく、それだけで二ヶ月を費やした。そこからは威力の向上に時間を費やし、回転によって威力を上げることに行き着いた
「物質変化・長細剣!」
クラミスさんは、レイピアと化した片手剣で自分に飛んでくる斬撃をスキルを使わずに一回だけ突いた。飛んでいった斬撃は、パリーンという音とともに空中で消え去った。この程度のことはまだ予想の範囲だった...しかし想像と現実は大きくかけ離れていて、スキルが破られた時の無力感は辛いものではあるが、これくらいでくよくよしてはいられない
「努力は認めますが...威力が足りませんね」
「厳しいっすね...ですが、まだ僕の実力を決めるのは早いっすよ!」




