10話助ける理由
エルの最大火力の魔法は見事背中の弱点を穿ち、オーガは重心が大きくぐらついたと同時に地に伏した。そしてエル自身も
全速力で駆け寄り抱きかかえたその体からは、ゆっくりと落ち着いた呼吸が感じられた。おそらくマナ切れで倒れてしまったのだろう
「エル...ありがとう」
本人に聞こえるはずのない感謝は木々を揺らす温かい風とともに流されていった
背中にエルを背負いながら街へと帰った俺は、とりあえず宿屋の一室にエルを寝かしロビーで起きるのを待つことにした
オーガのドロップアイテムは大したものではなかったが、経験値は予想以上に貰えていた。ギルドで情報をくれたミツキが言うには『二つ名』を持つモンスターは珍しく、通常のモンスターより多くの経験値を貰えるらしい。しかし出会う確率が低く、能力も高いためわざわざ狙う冒険者はいないどころか、避けて通る人がほとんどらしい
確かにあんな体験をするぐらいなら、ゴブリンを地道に狩っている方が楽だなと身を持って実感したのだった
「おはようございます...」
「起きたね。おはよう」
瞼を擦りながら宿屋の階段をエルが降りてくる。まだ寝たり無いのかあくびをしているが、体に異常などは無いようだ
「まずはお礼を。ありがとうございます。あなたのおかげで街に帰って来ることが出来ました」
「いやいやそれはこっちもだよ。エルがいなかったら俺も帰ってこれなかったから」
これは本当だ。俺一人では避けることは出来ていても決定打を与えることは出来なかった。『次にいろいろと聞きたのですが』と話し始めるエルの口から出る言葉はなんとなく分かってしまう。ここからは嘘をなんとしても繋がなくてはいけない
「あなたはあの場所、あの時間にオーガがいると分かっているようでした。それはなぜですか?」
「森のゴブリンたちの様子がおかしかったからね。それで分かったんだ」
「なぜあのタイミングで私を助けに来れたんですか?」
「たまたま近くにいて、逃げているのを見かけたからだよ」
よくもこんなにも口から嘘を吐けると自分でも思う。だが俺のスキルは言っても信じてもらえるようなものでない。それならば話さずに隠しておいたほうが楽だ
「嘘だと言える証拠がないので何も言えませんね...」
「嘘なんかついてないよ。それでこっちからも聞きたいんだけど」
『どうして一人であんな森の奥深くにいたの?』そう聞くとエルの表情は一気に暗くなった。聞いてはいけないことだとはどこかで分かっていた。だが...せっかく救った命が『偶然ではない』危ない目に遭ってしまったら、俺が助けた意味がなくなってしまう
「...あなたがどこまで知っているのか分かりませんが、知りたいならお話しましょう」
「あぁ頼むよ。俺はちゃんとした意味であんたを救いたいんだ」
「物好きな人ですね...」
「俺もそう思うよ」
2019年7月7日改変。この先の物語とは繋がっていないです