9話再来の宿敵
「ウガァァァ!」
今回も特に大きな怪我などはなく、エルの魔法によってオークは灰となって風へと誘われた
もしかしたら、経験値が前回のと合わせて二体分貰えてるんじゃないかという下心とともにギルドカードを確認するが、しっかりと一体分の経験値しか入っていなかった。どうやら経験値は死んだときと同じ数値に戻ってしまうようだ...
「あの...助けてくださってありがとうございました」
「いや気にしなくていいよ。俺の名前はルクス、逃げてた君が見えたから助けに来たんだ。派手に転んだみたいだけど...大丈夫?」
「だ、大丈夫です!」
顔を赤色に染まっているのを見ると、相当恥ずかしかったのだろう
おそらくこれが足を痛めた理由だろう。その証拠に片足を少し引きずりながら森を出て行こうとしている。このままではオーガに出会ってまた同じ結末を繰り返してしまう...結局のところは、あのオーガをどうにかしないといけない
『Ifの世界とは、別の結末を迎えることができるかもしれない世界です』
それが本当なら、ここからの行動次第で彼女を救えるか救えないかが決まる。慎重に、怪しまれないようにしなければ
「足...痛いなら一緒に街まで行こうか?」
「質問を返すようで悪いのですが...どうしてそこまでしてくださるんですか?」
「最近だとここらへんにオーガが出るって噂だしね。もしも出会ったとして、君の足じゃ逃げれないし、俺一人でもどうにもならない。だけど二人なら...どうにかなると思う」
嘘はいっていない。だけど...このルクスという男性の言葉には一切の証拠がない。確かにオーガが出るっていうのは噂になってるし、私一人でそいつに会って逃げ切れないのも確かだ。だからといって、私とこの人だけでどうにかなるなんて確証は無い
確かにこの人は強い。マジシャンとしては、敵の動きを撹乱できる素早さを持った前衛職はとても心強い。だが...この人は信用に足る人なのか?
「どうにかなるって...その自信はどこから?」
「ギルドで知り合いから聞いてきた話だと、ここらへんに出るとすれば『バーサーカー』の二つ名持ちのモンスターらしいんだ。弱点も聞いてきたから、俺と君なら...いける」
バーサーカーのオーガ...生息地はもっと奥の森のはず。いや、オークがこんな森に出てきているのだから居てもおかしくはない。しかし...なぜだろう。不思議とこの人は...この先の全てを知っているように感じてしまうのは
この人に命を賭けてみるしか道は無いようだ
「分かりました。ここから街までお願いしますルクス」
突然の名前呼びに驚いたのか、ルクスは少し目を見開いてからクスクスと笑った
「よろしく。エル」
「エル、あそこ」
一足先に知っていた居場所を指差すと、エルは目を見開いた。この辺りで狩りをしている初心者が、あのようなゴブリン以上の『化物』を見て驚かないはずがない
ミツキがいうには、やつの弱点は背中にあるコアという物らしい。そこをエルの魔法で攻撃できれば...
「エル、持ってる魔法の中で一番強いのを背中にいける?」
「残りの魔力的に一回だけなら...」
「了解。じゃあ注意はこっちに惹きつけるから、それを確実に背中のコアに当ててくれ」
静かに頷くエルの手は震えていた。本当なら俺がこいつを倒して、その間にエルには逃げてほしいのだが...残念ながら俺にそんな力はまだ無い
だからこそ、ここで必ずこいつを止めて、今度こそ生きて帰る
茂みから出ていくと、すぐにこちらを認識したオーガの形相は、まさに狂戦士そのものだった
「よう...恨み晴らしにこさせてもらったぜ」
「ウガァァァ!」
「疾風怒涛!」
大丈夫...速度に慣れた今なら相手の攻撃はしっかり見える...だが考えて行動している時間なんて無い。相手の些細な行動、殺気、視線から次の行動を予想しろ...五感の全てを使え!
救うっていう『行動』のために、いま考えている全てを成功させろ!
「ルクス、いけます!」
「了解!」
オーガが右腕を振りがざした瞬間、それを交わし顎に蹴りを、脳を確実に揺らすように当てる
頭をおさえ、ふらつくオーガの背中はエルの正面へと引き釣りこまれていった
「刻めよ。戦士の傷をな」
「魔力転換・雷炎、雷の精霊ヴォルトよ、炎の精霊イフリートよ、汝らが力合わせし時、混沌は訪れん。我その混沌を望む者なり、舞え、舞え、舞え、その混沌すべてを飲み込み、唯一に背くもの、ライジングケイオス!」