掛け軸
「うーん、残念ですけど……」
私は、知り合いの美術商に、家宝として持っていた掛け軸を見せている。
ずっと床の間に飾られていたもので、さる有名な絵師が描いたと伝わっている。
いや、伝わっていた。
「これは、立派な贋作、偽物ですね」
「はぁ」
驚いたときには本当に声の一つも出てこないものだ。
ただ、何だか違うということも思っていた。
「おいくらぐらいで引き取っていただけますか」
家宝と言えども、今や家は火の車。
このようなものでも些少な金額でも頂きたいところだ。
「装丁も美しいですし、贋作といってもなかなかに出来はいい。そういった諸々を含めて。ざっと10万といったところでしょうか」
あなたとの関係を考えての値段ですと、美術商は付け加えた。
「ではそれで」
私は急ぎ目にいいつつ、お金を茶封筒に入れ、店から出た。