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番外編3【クリスマス】

 さて。この世界の単位規格や暦までが前世と同じだとわかったところで、年末が忙しいことには変わりがない。

 日本では旧暦で師走と呼ばれるだけあり、あっちもこっちも大忙しである。今年一年の決算や、来年の計画など様々な仕事が舞い込み、中には俺が直接目を通さなければならないものも多くある。

 一通り終わって四人で休憩をとっていた。


「そういえば今日はクリスマスイブか……」


 こちらに染まりすぎて忘れていた。

 しかしこちらには神は実在するものの、聖人の話など聞いたことはない。


「なんのこと?」


 一人ぼやいた言葉を聞きとがめたアイラが不思議そうに俺を見る。


「ああ。元の世界では聖人の誕生日を祝う日なんだ。イエスキリスト様だったかな」

「えっ?! キリスト様今日が誕生日なの?!」

「はあ?」


 カグヤが変なことを口走った。


「おいおい。こっちの世界の聖人だぞ?」

「じゃあ別人なのかしらね。おじいさまのお知り合いで以前にブッダって名乗るお方と遊びにきてくださったの」

「……本物かもな」


 カグヤは育ての親をおじいさまと呼ぶ。それは血が繋がっていないのと、歳が離れすぎているので自然とそう呼んでしまい、わざわざお父様に直すのが照れくさかったのだとか。

 そんなカグヤの言うおじいさまとはつまりは元剣聖である。魔法と剣の世界において刀一本でありとあらゆる相手を制してきたツワモノとくれば、その知り合いはさそがしとんでもない奴らなのだろう。中には聖人が神と同じ天界に住んでいて、おじいさまとやらの友人であってもおかしくはない。うん。……いや、おかしいな。


「……まあその日に生まれた女の子が魔女となるなんて話もあったりしたけどな。あれは本だったかな? とりあえずは俺のとこの国はありとあらゆる宗教の面白そうな行事を取り込んで自国のお祭り騒ぎにしてたから。親しい人とご馳走を食べたり一緒に過ごしたり、贈り物をしたりするんだよ」

「やってみる?」

「まあ俺らは結構一緒に過ごしてるからなー」

「ご馳走は楽しそうじゃねえか」


 ロウがやや食い気に走った。

 同級生とリア充を撲滅したいなどとふざけあっていた前世が少し懐かしい。

 カグヤはロマンがないわね、と軽く睨むもその目に苛立ちも不満もない。もはや目の前で見せられる惚気の一種だ。

 アイラが腕輪を見て何かを考えこんでいる。珍しく何を考えているのかわからないのに、何やら不穏であることだけがわかる。


「ま、するとすればささやかにご馳走とプレゼント交換ぐらいだろうけどな」

「ははっ。でも今からじゃ難しいよな」

「そもそも俺らの金ってドカンと稼いではアイラに預けて適当に使ってきたからなー」

「金を気にする必要がない冒険者って生意気だよな」

「いや、そこは、ほら、勇者候補?だからさ」


 都合の良い時にだけ権力を矢面に立たせる。

 権力万歳。金に困らないって素晴らしいな。お金はなくても幸せになれるとか叫ぶこの世の人たちに聞かせてあげたい。

 ざっとクリスマスの起源から飾り付けやそれらが社会に及ぼす経済的効果まで説明してみる。


「じゃあパーティーでもする?」

「パーティーってーと宴会か」

「いいじゃない。蓬莱の木を飾り付けしてそのつりーとかいうものの代わりにする?」

「いやいやいや。素直にモミの木でも切ってこようぜ。せっかく空間転移で用意できるんだから……いや、もしかしてアイラの腕輪に入ってたり……」

「しないよ」

「だよな」


 木材は入っているけど、さすがに生の針葉樹を確保しておくほど無駄なことはしないか。

 でも冒険の途中は何度岩石があったら嬉しいと思ったことか。薬や毒、縄や鎖は大量に入ってるけどな。




 ◇


 こうして俺たちは忙しいにもかかわらず、シンヤに余分にお仕事を押し付けてクリスマス飾りを作った。とはいえ、材料さえ用意すれば手の空いた子供たちがかわるがわる手伝ってくれたので、実際にしたことは飾りの材料の準備がメイン。

 2〜3メートルほどもあるモミの木に、何故か飾り付けられたのは壊れた武器類。

 何故かとはまあ理由は明確である。先日の邪神大戦において大量の武器が破損し、リサイクルのために出兵した国やしなかった国が買い取ることになった。ユナイティアももれなく買い取ったのだ。まだ再利用しておらず、アイラの腕輪にしまっておいただけで特に使っていなかったからのズレた飾り付けである。

 子供たちは喜んでいる。ツリーを取り囲んで今にも何かの儀式が始まりそうだ。

 ホームレスが波魔法で光のイルミネーションをしてやっている。レオナやアークディアが何故か必死に記録をとっている。お前らは何をしているんだ。

 どうせ前世の感覚を持つのは俺のみ。俺さえ違和感をのみこめば……


「……なにこれ」


 カイがいた。召喚勇者の彼もまた、クリスマスは知っていたのであった。そういえば同郷だったか。


「クリスマスツリーだ」


 俺は押し通すことにした。

 多分このままだと、この世界におけるクリスマスはその年の戦争の勝利を祝って武器を木に飾る年末行事になってしまいそうだ。

 それもまた文化。勘違いから始まる文化だってあったっていいじゃない。

 俺の説明不足が悪いのに、そんな勝手な弁解(こと)を思うのであった。


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