番外編2【初代勇者の正体】
真っ白な壁と床の建物、その一室で青年は椅子に座りながら話を聞いていた。
そして聞き終えたと同時に、話していた若い男に向かってチョップを繰り出した。
「ふさけんな!」
チョップを出された方はチョップをひょいと避けると当然不満を洩らした。
「まったく。神に対する敬意、ってものがなってないんじゃないのかい?」
「はあ? お前みたいなエセ神様もどきはこれで十分だよ」
「エセともどきを重ねるとかどれだけ僕に信頼がないのだか」
そう、ここにいるのはレイルとヘルメスの二人。
邪神を倒した後に、その報告的なものも兼ねて天界へと再びやってきていた。以前と違って空間術があるので、ずっと早く辿りついた。今回はレイル一人である。
そして初代勇者の物語を神の口から聞いていたというわけだ。
「だってそうだろ。で、どっちが先なんだ? 本名がそれだからヘルメスなのか? それともヘルメスから勝手に作った偽名か? 初代勇者さんよ」
レイルの半ば確信めいたその問いかけに、ヘルメスは返答に一拍の間を費やしてしまう。
それだけのことがレイルに先ほどの問いかけが的外れでなかったと思わせる。
「……どうしてそう思ったのかな?」
それはもはやイエスと同義であった。
「簡単だよ。まあそりゃあ名前もだけどよ。須目極次、漢字でそう変換されるならば漢字で逆順で書けば次極目須、じごく、メス。ま、それで地獄をヘルと言い換えりゃヘルメスだよな」
「だからそんな結論にまず至らないだろう?」
こじつけにも近い、そんな名前の言葉遊びだけで目の前の神が初代勇者だと断定するには早すぎる。
レイルはそこに至るまでの経緯を語りだす。
「まず、あの状況でそこまで最初から最後まで初代勇者の物語を知っているとすれば当事者だけだろ? 神になったからといってそんな細かいところまで吹聴してまわりはしないだろうし」
「それだけならば観察していた神かもしれない」
「いや、そんな事件ならおそらくは口止めされているはずだ。特に初代勇者のプライベートをあっさりと話すのもな。それにあそこで関わっていたと思えるのは最後の女神か、本人ぐらい。ヘルメスは男の姿をしている」
「まあそうか」
「そもそも最初に俺たち相手に使ってただろ? それぞれの言語的な知覚の統一とか。いくらヘルメスが死者の魂とかを司るって言っても、それを異世界の魂まで任せるのは何故か。そう考えると、元は異世界の人間でもあったと考えた方がわかりやすい」
ひとしきり推論を話し尽くす。
「はー……そういうとこにやたらと目ざとくて困るよね」
「だからエセ、でもどき、なわけだ。元は同じ日本人だったってことだろ?」
「まあ本当の名前かどうかなんて忘れたよ。こっちでは時間感覚も狂ってるからね」
「まあそこはいいか」
「それより、僕が初代勇者だったという事実とチョップされたのは関係ないよね?」
ようやく理不尽な仕打ちを受けたことに話が戻った。
「いやあ。お前はピンチで覚醒したのに、こっちはうっかり邪神が顕現しても誰も助けにこなかったなーってな」
「それは……冥界の方がルールが甘くて、特定の条件を満たせれば現世に干渉できるけど天界ではそれが厳しいからだよ」
冥界でルールに縛られるのはミラなどの一部の職に就く者のみであったりする。
もともと天界からの助けは期待していなかったとはいえ、それでも邪神について伝えてくれたフラストさんまで姿を見せなかったのは寂しいものがあった。そんな矛盾を八つ当たりしただけである。
「フラストさんとかいるじゃん」
「君の中で神である僕の順位は天使のフラストよりも下なんだね……まあいいや。彼女も天界に申請してたよ。それでこっちの高位の神と争論になってた。大変だったよー。まああれはルール云々よりも、あの神さんがフラストさんには過保護なだ……あ、これ内緒ね」
「おい」
うっかり他の神の悪口、もとい個人的な情報を人間に漏らす神。レイルの中でますますヘルメスの評価は下がり、こいつには秘密を喋るまいと誓うのであった。
とりあえず今日中に以前の分まで全部投稿してしまおうかと思いますね。