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やみつき  作者: 虹ぱぱ
2月14日
8/9

7話:夢と屋上

僕は小学生の時に大怪我を負ったことがある。そしてその後は不登校だ。


大怪我を負った原因は屋上から落ちた。幸い生きていた。運が良かった。

学校の屋上というのは実に中途半端なのだ。

自殺しようとしても、当たり所がよくなければ苦しむだけ。

僕は別に死ぬ気があって、落ちたわけじゃない。

一度、外壁の出っ張りを掴めたり、ひかかったりしたからただの大怪我で済んだ。

外から眺めた事のある校舎だ。どこに出っ張りの位置があるかは覚えていた。


当時、僕は虐められていた。まあよくある話だ。

とある事件で起こった『学級裁判』。それがきっかけで、それまでに溜まっていた僕への鬱憤が爆発したのだろう。思えば可愛げのある子供ではなかった。

それはそれでしんどい思いをした。けど、僕には桜花さんがいた。ついでにあずさも。

だから他はどうでもよかった。


・・・大人も混じった時の悪意はなかなか堪えたけども。


まあでも。それは原因の一つでしかない。


僕と桜花さんが初めて会ったのは小学2年生の夏の時だ。

当時の僕は飼育係だった。

いつものように掃除をしていた。この日は一人だった。あずさも手伝ってくれるのだが、最近『星空公園事件』があってからはあずさの家が若干厳しくなった。まっすぐ帰ることを余儀なくされていた。まあこれに関しては仕方ない。僕にも非がある事だ。

掃除をしていると一匹の鶏がおかしい事に気が付いた。


口を開き、呼吸が激しく、水をよく飲んで、下痢をする。


その一匹だけが明らかに異常だった。

当時の僕は、記憶力がいい、それだけで自分はなんでも出来るんだと勘違いしていた。


だけどこの鶏を見たときに何も出来なかった。焦るばかりで、ずっと小屋でオロオロしていた。


その時に声をかけてくれたのが桜花さんだったのだ。


「どうかしたの?」

「えっと、、、鶏が、、、その、、、、」


桜花さんは鶏を見て、先生を呼んだ。


それだけの事だ。僕にはそのそれだけが出来なかった。

鶏の不調の原因は熱中症。適切に処置をすればすぐに回復した。


これだけの事。でも、桜花さんは僕のヒーローになった。鶏を救ったのは彼女なのだ。

僕はこの時、すごく感動したのだ。


それが出会い。

その日、桜花さんと約束した。

「困ったら、頼ってね?」っと。指切りをした。


それから暫くは廊下ですれ違う程度だった。

そもそもクラスが違う。


そして小学6年生。ようやく、彼女と同じクラスになった。幸運と同時に不幸もあった。

同じクラスになった、琢磨(たくま) 研一(けんいち)

学年一の不良。問題児。こいつに目をつけられた。

何かした訳じゃない。

けど、こいつはあずさが好きだったみたいだ。

いつも一緒にいる僕が目障りだったのだろう。

あの『学級裁判』でもっとも、騒いでいたのもこいつだ。こいつに従うグループもあった。

先生にあまりよく思われていなかった。小学生に勉強を教わるのは屈辱だろう。

そういった、悪い事が一度にきた時期でもあった。

桜花さんと同じクラスという、世界一の幸福に比べたら可愛い不幸だ。


『学級裁判』が終わって暫くしてからだった。

僕は屋上にいた。琢磨のおかげだ。鍵をかけられて、閉じ込められた。


ぼんやりと寝そべって、月を見ていた。他にすることもなかった。

考えるのは桜花さん。もう僕はこの時には、桜花さんでいっぱいだった。


昔の飼育小屋の桜花さん。『学級裁判』で悪意に向かってくれた桜花さん。

あの人が堪らなく好きだった。

痛みや閉じ込められる事位は耐えてみせよう。桜花さんに毎日会えるのだから。

後はお腹が空いたとか。星座を探したり。

そんな事を考えながら過ごした。よくあることだったし、慣れていた。


そこから先の事は、夢だと思っていた。空腹と、桜花さんの事を考えすぎるあまりに幻覚を見ているのだと。妄想だと。


その日はいつもとは違った。


月を横切るものがあった。

跳ねるように飛んでくる。


それは僕に気付かずに屋上に降り立った。

屋上のヘリで、座って月を眺めている。

その日は満月だった。


その姿はあまりに美しく、幻想的で、僕の心を掴んで離さなかった。


月明かりに照らされて浮かぶ顔。真っ赤な瞳に吸い込まえそうになる。

でも、間違いなくその人は、、、、


「桜花さん、、、?」


「え?」

慌てて振り向いて、彼女はバランスを崩した。


咄嗟だった。落ち行く彼女の手を身を乗り出して掴んだ。

重みで、腕がちぎれそうになる。痛みで頭がおかしくなりそうになる。


だけど、掴んだ手を離すまいと必死に意識をつなぎ止めた。

唇を血が溢れるまで噛み締める。

その口から伝う血を見て。


「あー。」


真っ赤な瞳で、彼女は嗤った。


こんな時なのに、僕もその笑顔を見て、笑ってしまった。


可愛くて。綺麗で。妖艶で。

これ程、様々な『美』を一人の少女が持てるものなのかと。

地球上のどこを探しても、これほどに美しいものには出会えないだろうと思った。

僕はこの日の感動を忘れない。夢と(うつつ)の狭間で見た、この光景を。


彼女はふわりと僕の口を塞いだ。

口で。

溢れる血と一緒に舐め取られた。


初めての口づけは血の味がした。


彼女の笑顔がより輝く。恍惚と。魂を持っていかれた。


そしてそのままふわりと跳ねるように飛んでいってしまった。


そして放心と重みがなくなり、気の抜けた僕は、そのまま落ちた。


咄嗟の判断ででっぱりにひっかかったりした。減速には成功したけど、そのまま落ちた。

幸いにも頭を打ったり、重要な部位を打ったりはなかった。

裂傷に打撲、骨折。

僕は這うようにして帰ろうとしたけど途中で力尽きた。

気が付いたときには病院にいた。


それからは学校に行っていない。流石に母さんもかなりの心配をかけた。

今回は僕がドジを踏んだが、遅かれ早かれ、あの小学校に居続ければこうゆう事態も起きたかもしれない。

桜花さんに会えない事は辛かったけど我慢した。

今は駄目だと。

僕一人ではなく、母さんやあずさ。そして桜花さんにその内、もっと迷惑をかけるかもしれない。

屋上に居たそもそもの原因は琢磨だ。

地元の中学に行けば、同じ事が起きる。内容もエスカレートするだろう。

あいつの所為で、桜花さんに会う機会が減るのは殺したいほど腹が立つ。

けど、桜花さんの為だと思えばいい。


時間が経てば落ち着くだろう。琢磨は素行通りに頭が良くない。高校で一緒になることもないだろう。

桜花さんと別の中学に行くのは抵抗があるけど。


桜花さんだけじゃない。

一番だけじゃなくて、二番、三番に大切なものもある。

母さんとあずさ。

今は耐えよう。心配をかけたい訳ではない。


病院でそんな事を考えて過ごした。


だからその後は不登校。大丈夫、問題ないとは思っていたつもりだったけど、実際に行かなくなってわかった。思ったよりも虐められていたことにストレスを感じていた。

家で冷静になって落ち着いたら分かった。


トイレの鍵をかけるのが怖かった。

食事の中身を一度、調べてからじゃないと食べられなかった。

ノートを開くのに覚悟がいった。


他にも色々。家の中でこんな感じで過ごしている僕に気づけた。

だから、不登校になった時が無駄だとは思っていない。

あの当時の僕には必要な事だった。


あずさは今でも気に病んでいるようだけど。


別の学区の中学に行っても、すぐに馴染めるものじゃなかった。

気持ちにリハビリが必要だった。トイレで吐いたのも一度や二度ではなかった。


でも。

桜花さんの事を思い出せば、強くなれる僕がいた。


そうして僕は高校生になった。

桜花さんの通う、学校の生徒に。


コメディ要素が一切なしb


ちょっと長いですが告白前の彼氏の事情。

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