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やみつき  作者: 虹ぱぱ
2月14日
5/9

4話:花壇と指きり

8:15過ぎた頃。僕は学校に着いた。

陽十筋光明高校(ひとすじこうめいこうこう)』。

それが僕の通う高校だ。

生徒数はおおよそ360名。各学年120名程度。一クラス約30名。

かなり偏差値の高い高校だ。桜花さんがいる。それだけで選んだ高校だ。

入試の際の点数によってクラスが分けがされるという事だったので入試も手を抜かなかった。

彼女ならおそらく一番良い成績のクラスにいるはずだから。入試で満点出すのは変に目立つ可能性もあったが。それに関しては母さんと学校に前もって交渉している。目立たないようにして欲しいと。

幸い、学校ではテストの成績を貼りだしたりとかはしてないようだったので学校側の少しの配慮があれば問題なかった。

目立たないようにする理由を学校に説明する必要もあったし、多少億劫ではあったけど。彼女の為だ。仕方ない。昔に受けた虐めの原因だと知れば『ゆとり』のある現代高校だ。悪目立ちしないように多少の配慮くらい問題ないだろう。偏差値の高い学校なのだ。成績の良いクラスにいる位なら悪目立ちしないだろう。入学式の際に『首席で満点』とか無神経に言われたら厳しかっただろうけど。


あずさと別れてから10分程度で着いた事になる。普通に自転車を漕げば15分程度の距離を大分縮めた計算になる。あまり体力に自信はないので息切れするけど。

朝のHRは8:45から。部活に入って朝練でもしていない人にとってはかなり速い時間だ。HRまで30分もある。けど、調度いい時間なのだ。僕にとっては。



この時間は既に彼女がいる。彼女は園芸部で花壇で手入れをしているのだ。同じクラスのよしみって事で勇気を出して手伝ってみたのがきっかけだ。毎朝、簡単にだが彼女を手伝っている。彼女は花が好きなのだ。


花に水を上げていた桜花さんは僕に気付いた。

「あ!おはよう。明智君」

にっこり笑顔で挨拶をしてくれる。可憐だ。可愛い。口に出そうになる言葉をグッとこらえる。

「ぉはよう。桜花さん」

緊張で舌が回りにくくなったがなんとか言いきる。

「今日は何をすればいいかな?」

「んー。今日は後は少しだけ花がら摘みしておしまいかな?」

「OK。手伝うよ。」

「いつもありがとう。ふふ。明智君は他の園芸部員より園芸部らしいと思う」

「はは。まあ手伝ってるうちにこれ位わね。」

花についての種類や手入れの方法等、本や情報は大体覚えた。桜花さんの好きなものだ。多少、興味もでた。きちんと手入れすれば綺麗な花が咲いて可愛く思う。手入れをすれば答えてくれるのだ。あずさとは大違いだ。あの等価交換の意味を知らないエセ錬金術師とは。

花がら摘みとは要は花が終わった花を摘む事だ。手入れの一つだ。

桜花さんと一緒になって手入れを行っていく。普段からこまめに桜花さんが手入れをしているのでたいして時間がかからない。わずかな時間だけど・・・幸せだ。


「ありがとう。もう大丈夫よ。・・・・はい。どうぞ」

「ありがとう。いただきます」

そういって水筒から入れた飲み物を渡してくれる。

中から甘い匂いが漂ってくる。これは・・・

「ココア?」

いつもは熱めのお茶だけど今日はココアだった。

「ほら。折角バレンタインデーだから。お友達にあげようかなって思って。お菓子だと先生に怒られちゃうから水筒に入れてこっそりとね?」

にっこり笑いながら言ってくる。僕の好きな表情だ。心臓が早鐘を打つ。顔に出ないように必死に落ち着かせる。つまり。それって、義理とはいえ、、、桜花さんにチョコを貰ったという事ではないだろうか?

母さんの言葉に反するけど、、、、鼻血が出そうだ。

顔を見られないように必死にコップで顔を隠しながらココアを飲む。緊張で味が分からない。凄く勿体ない。

「ありがとう。おいしかったよ。」

「明智君はもしかしたらチョコをいっぱい貰うかもしれないからいつものお茶の方が落ち着くかもしれないけど」

「・・・・ははっ。」

桜花さんにハートを抉られる日が来るとは思わなかった。まったくなんて日だ!!チョコレート会社の陰謀によって出来あがった行事のくせに。まあでも桜花さんのくれるココアには罪はない。

「なかなか切れ味の鋭いナイフで突き刺してくるね・・・。身内くらいなもんだよ。くれるのは」

母さんとあずさ。母さんは若干怪しいけど。


いつもお茶の時間はゆったりした時間が流れる。あずさといるとあの騒がしい感じと違って癒される。静かだけど嫌じゃなく。


ただ今日は少し桜花さんに落ち着きがなかった。そわそわしているというか。

「えーと。それはあんまりチョコを貰う予定がないってことかな?」

上目使いで聞いてくる。ガツンと殴られたような衝撃で意識が飛びそうになる。可愛すぎる。僕は彼女を好きすぎる。

どうして好きな人の上目使いはこれほど威力が凄まじいんだ。女性の使える必殺技だよ。必ず殺す技だ!

目の焦点をばれないように少し逸らす。じゃないとまともに会話できる自信がなかった。

面接で目線を合わせられない人と一緒だ。相手の目を見て話していると錯覚させる位置を見るのだ。例えば眉間や目の間辺りに焦点を合わせる。

「ないよ。桜花さんは誰かに渡す相手いないの?」

気になる所を聞いてみた。軽い気持ちだったけど。例え相手が桜花さんの父親だったとしても殺意が湧くだろう。他の異性だというなら完全犯罪を実現して見せよう。


「・・あはは・・。じ、実はいるんだ。・・・・渡したい人・・。」


・・・・・・ぇ?


なんだこれ。夢か?そうか。夢か。空を見上げる。涙がこぼれそうだったからだ。夢でもあんまりじゃないか。無理だとは、無茶で高嶺の花だとは分かっているけれど・・・。狂いそうになる自分を必死に押し殺した。彼女の前で無様な自分は晒さないと昔に決めた事だ。


「そう・・・・なん・・だ」

絞り出すように返事をする。まずは情報を集めよう。でないと、、、。

完全犯罪の計画が立てられないじゃないか。


「一体誰に───」

「あ、明智君は今日の放課後って暇かな?」


問いかけようとして食い気味に問われた。

いきなり話がとんだな。


「特に予定はないけど・・・」

強いて言うなら晩飯の買い出しか。

あずさとは夜の8時から約束はあったけど随分先出しな。


「そ、そ、うなんだ。」

「桜花さん?大丈夫?」

流石に心配になってきた。その他の異性よりも桜花さんが心配だった。

えらく強ばっているというか、、、緊張しているように見える。


「うん!だいじょうび!」

噛んだ。

「えぅ、、、。」

ちょっと涙目になってる桜花さんも可愛い。ああ。でも、可哀想だ。

「ちょ、本当にだいじょうび?」

少しからかってみた。

「もう!大丈夫だよ!もう!」

怒っている。可愛い。コロコロ変わる彼女の表情を見て思った。

桜花さんが誰かにチョコをあげるという事実で荒れ狂っていた心にストンと落ちるものがあった。


別に桜花さんが誰を好きでもいいじゃないか。ただ僕が彼女を好きだという事実があればそれだけで。

いままでずっと片思いだったのだから。

きっと誰かに向ける幸せな顔も僕は愛せるだろう。

嫉妬とか余計な感情を吹き飛ばして、僕の心に入り込んでくるはずだ。

彼女を不幸にするのなら。この笑顔を汚すのなら。

その時はそいつを必ず殺そう。

彼女が選んだ人に間違いがあるとも思えないのが、、、、つらい所だ。


「だったら、、、、お願いが、、、あるんだけど、、、?」

上目遣いで聞いてくる。まだ見ぬ桜花さんの想い人らしき人物よりも、、、、僕が先に死ぬ!!

男なら断れるわけがない。好きな人の上目遣いを。本気(まじ)で眼に宝石でも入ってるんじゃないのか?


しかし、話の流れから考えるとひどく嫌な予感がするが、、、。


「その、、。放課後に時間をもらえないかな?」


・・・やっぱりだ。納得したとはいえ、、、痛む。心が痛む。

誰かに向けられる笑顔に嫉妬で狂いそうになる。


だけど、駄目だ。そんなつまらい感情ごときで、、、。


僕が彼女の笑顔を曇らせる訳にはいかない。


「いいよ。僕に手伝えることなら喜んで」

きっとそのチョコを渡す、、、誰かに向ける告白を手伝って欲しいのだろう。

所詮は、朝に少し会話する程度の同級生だ。手伝ってもらう相手としてはうってつけだろう。

もしくはしっかりと自分の意思を伝えるための最後の勇気として、、、見届け人が欲しいのか。

結果として彼女が笑顔になるのなら。なんでもしよう。


「・・?手伝う?うん。ありがとう!じゃあ、約束ね!」

そう言って小指を出してくる。

「え」

「ほら。指切り。昔もしたでしょう?」


・・・泣きそうになる。彼女は覚えてくれているのだ。

うん。それだけで十分に僕は報われる。


僕は触れ合う事に緊張しながら彼女と小指を絡める。


「ふふ。大きくなってからやるとちょっと恥ずかしいね。」

「はは。確かに」

「じゃあ指きりげんまん、嘘付いたら────許さないからね?」

下から僕の目をいたずらっぽく覗き込んでくる。沸騰しそうになる頭をグッと抑える。油断すれば彼女にトラウマを与えかねない程のだらしなく、キモイ顔になってしまう。

「はは。それは怖いな。針千本くらいなら飲む覚悟はあったけど」

針千本よりも桜花さんに嫌われる方がもっと怖い。

「そんなひどい事しないよ!」

「じゃあ放課後に、、、どうしたらいいかな?」

「えへへ。裏門で少し待っててもらえるかな?」

「了解。HRが終わったらすぐに行くよ」

どんな要件であれ、彼女と約束ことが嬉しくてつい微笑んでしまった。

「よ、よ、よろしくおねがいします。」


桜花さんがえらく噛んだが気にせずに告げる。

「そろそろ教室に行こうか。」

時間は8:40分。席に着けばちょうどHRが始まるだろう。

「あ。うん!それじゃあ行こ!」


並んで僕らは教室に向かった。

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