3話:登校と約束
自転車を押しながらあずさと並んで歩いていた。
道が違う所までの15分位はいつも一緒に並んで歩く。そこから更に自転車に乗って15分辺りに僕の通う高校がある。
あずさは自転車を押していない。学校的にNGらしい。まああずさが本気で走れば自転車よりも速いと思うけど。
「ヒデはさー。チョコ貰うん?」
「・・・・ははっ」
目に殺意を込めて睨む。
「ひひ♪だよね!だってヒデだもんね♪本当にヒデは・・・・本当に・・・・・(´・ω・`)」
また脚を見てくる。こいつ・・・・(・´ω`・)
顔文字みたいな顔でガンを飛ばす。
「へへぇ。まあ心配しなくてもいつも通りわたしがやるじゃん!」
「義理じゃないか。その義理のおかげでホワイトデーがしんどいからいらないよ。」
毎年ホワイトデーになると「やられたらやり返す、10倍返しだ!!」と言ってあずさに拉致られる。財布に受ける打撃が10倍程度ですまないから勘弁してほしい。あずさは良く動いて良く食べる。健康優良児だ。ステータスは身体能力に極振りされている。
「わかってないね!ヒデは!そのお義理の為に命賭ける漢だっていっぱいいるんだよ!」
「よそはよそ。うちはうちだ。お義理に僕の財産を賭ける気はないっ!」
「金は命より重い…!そこの認識をごまかす輩は生涯地を這う…!」
ドヤ顔で言ってくる。
どこの賭博黙示録だよ。義理チョコより金の方が確かに重いよ。金より義理チョコの方が高くないと僕を論破出来ない気がするんだが。てか意味分かって使ってないだろ。言ってみたいだけだろ。頭ゆるい癖に名言だけはしっかりインプットされている。いや。やっぱりおかしい。あずさがそこまで長い事、物事を覚えていられるわけがない。
「あずさ・・・・お前・・・・。まさかとは思うが期末試験まで2週間程度のこの時期に・・・漫画読んでないよな?約束・・・したもんな?」
「・・・・ははっ」
こいつ・・・・(・´ω`・)あずさも同じ顔で睨んでくる(・´ω`・)
あ。こいつ開き直りやがった。さすがにむかついた。
「いいよ。付き合ってやるよ。ホワイトデー。期末で死んだ死人のお前を鞭打ってやるよ!10倍返しですら生温い!100倍返しだ!!」
「ぇーーー!やだぁ!テスト明けとか遊ぶもん!大体ヒデは堅すぎるんだよ。まだ2週間もあるじゃん!!明日から頑張る!!!」
テスト前にいつも泣きついて迷惑かけるやつが何を言ってるんだ。
「『明日からがんばろう』という発想からはどんな芽も吹きはしない…!
そのことに、16歳を超えてもまだわからんのか…!?
明日からがんばるんじゃない…今日…今日だけがんばるんだっ…!
今日をがんばり始めた者にのみ…明日が来るんだよ…!」
「ひゃっほぅ!流石ヒデだよ!わかってるぅ♪ひゃっはー!」
破戒録は駄目だ。あずさを喜ばすだけで効果がなかった。こいつの漫画セレクションは渋すぎる。まあもういいや。この辺りはもうあきらめてる。
「本当にあずさは・・・・本当に・・・・・(´・ω・`)」
あずさの胸の辺りを見ながら呟く。
「きぃぃ!変態!私の胸は残念無双じゃないよ!!まだ発芽玄米だよ!」
そこまで言ってないし思ってない。残念無双って。芽吹く前とでも言いたいのか?なんだよ発芽玄米って。お米の食感が良くなっちゃうじゃないか。
「いいじゃないか。あずさは年上からもてるんだし。」
「ちっちっちっ。年上だけじゃないよ?老若問わずもてるぜぇい?」
「男女は問うのか?」
「ふふん。気になる?気になっちゃうかぁ♪」
「いや。別に」
「・・・・(・´ω`・)イラッ」
「まあお前がもてるのは分かるしな」
黙っていれば可愛いし、この多少うざい性格も魅力ではあるだろう。
「てか・・・ね。やっぱり女の子がいっぱいチョコ貰ったらまずいよねぇ・・・・」
お嬢な女子高だ。すらっとしてボーイッシュで可愛らしい。もう少し成長すれば宝塚の男役とかぴったりな感じだ。ゆるゆりなのだろう。
そんないつもの会話をしながら通学路を進む。
「ヒデはさぁー」
「?」
「まだ桜花さんを好きなの?」
「ああ。もちろんだ。」
今更、こいつに隠すような事でもないので正直に答える。
「そっかー。彼女は可愛いもんねー」
「可愛くて、綺麗で、清楚で、可憐で、女神────」
「そ、そか。」
彼女への熱い語りを途中で遮られた。
「でも彼女はヒデには合わないよね!」
「余計な御世話だ」
「なんていうか・・・アイドルと自宅警備員・・・みたいな?」
「うるさい」
「でも・・・・」
「もう、いいって。なんだよ?さっきから。そのあたりの話はイラつかせるだけだって分かってるだろう?」
「うん・・・。なんてかさ。バレンタインだからかな?ヒデがいいやつだって私は知ってるじゃん?だからなんか勿体ないなって。」
「別にいいだろう。これで生涯を孤独死を迎えようが想えるだけで幸せだね」
「んー。ヒデにはもっと身の丈にあった、ヒデにぴったりの女の子がいるはずなんだよ!そう!例えばぁ────」
あずさはそこまで言って突然「ふひぃっ」っと変な声で笑った。
「───内緒♪」
にっこりと笑った。変顔が多いやつだから普段とのギャップで少しドキッとした。
「なんだそりゃ。まあそんな話は関係ないよ。高嶺の花だろうがアイドルだろうが人外の女神さまであろうと桜花さん以外は関係ないさ」
にこにこ笑いながらあずさが続ける。
「あっ。チョコ渡すからさぁー夜の8時に星空公園ねっ!」
「8時!女子高生がそんな時間に出歩くなよ。」
「いいじゃん。近くなんだし。」
星空公園は家から徒歩2分程度の近場の公園だ。公園の名称は『星空公園』ではないが小さい時に星空を寝そべって見て、そのまま寝てしまい、探しに来た親達にこっぴどく怒られてから僕らは星空公園と呼んでいる。星が綺麗に見えるのだ。あの公園は。
「よくないよ。そもそも義理はいらないよ。」
「いいじゃぁーん!ほすいぃアクセもあるしさぁ!」
「目的がホワイトデーにしぼられてるじゃないか。まあいいや。行くよ。僕もしっかりお返ししてあげるよ。たっぷり死人に鞭打ってやるよ。」
ペンと参考書を武器に。
「やだぁ!そんなのいらないっ!同情するなら金をくれぃっ!!」
お嬢が何を、、、とは思う。けどまあこいつは家の事情でアルバイト出来ないし、素行の問題で小遣いも絞られている。
「はぁー。まあ毎年の事だし貰いに行くよ。てか家が隣なんだし別に家で良くない?」
「馬鹿だなー。これだから知ってる事だけしか知らない無知蒙昧の輩は。」
「・・・・ははっ」イラっ
こいつに馬鹿にされるのは腹が立つ。
「いいかね?ワトソン君。君はただのオムライスと「おいしくなぁーれ♪」とメイドさんに呪文をかけられたオムライスどっちを食すかね?」
「普通のオムライス」
だって呪文とか恥ずかしい。萌え萌えなんて死んでも言えない。
「ガァッデームッ!!話が終わっちゃうじゃん!メイドさんだよ?可愛いフリフリでふしだらに振り振りしながら呪文かけてくれたオムライスの方がおいすぃに決まってんじゃん!!」
「いいかげんにしろ!彼女たちはふしだらに振り振りしない!!もっと清楚に愛らしく萌え萌え────」
「・・・・・・・・・・・」
こっち見んな!いやいやいやいや・・・・
「イッタコトナイヨ?無知蒙昧の輩に常識的な所を教えてあげようかと・・・」
「ふぅーーーん」
あまりにあずさの品位にかける発言についカッとなってしまった。反省しよう。
「まあいいや。いまので優すぃ私は察してあげるけど。なんにしても一手間でおいしくなるわけじゃん?」
まあいい。旗色がちょっと悪い。素直に頷こう。
「ソウダナ」
「つまりだよ?星空の下で待つ可愛い幼馴染っていうロマンスパイスがあればただでさえ私が作ってシャイニングなチョコがユニバァースじゃん?」
「・・・ソウ・・・ダナ」
こいつのチョコは頑張れば食べられるチョコだ。通信簿で頑張りましょうだ。
「そうだよ。ギザヤバスなチョコがスパイスでギガントヤバスでヒデのハートはギガンティアヤバスになるんだよ!!」
「・・・・・ソウ・・・・・カナ?」
もう何を言ってるのかわからなかった。これだから最近のJKは。通訳を呼べ!
「するとだよ!ギガンティックヤバスなヒデは感激のあまり財布をホワイトデーでビッグバンヤバスな感じで開放するんだよ!!!」
財布をビックバンされる事だけは分かったけれども。
「ひゃっほぅ!そうして私はほすぃ物を手に入れる♪キターッ!!これが現代における錬金術だよぉ!一は全、全は一!!」
ひゃっはー言いながらはしゃいでいる。こいつ・・・・企みにもなってないけど企みを全て計画段階で暴露しやがった。犯罪を犯す時こいつとは絶対組めない。なにが錬金術だ。『たかり』とか『カツアゲ』というただの犯罪行為だ。
「っと。おい」
別れる道にやってきた。梨の妖精のようにはしゃいでいるあずさに声をかける。
「あ!もう着いたか。じゃあ8時にね!」
「ああ。また後でね。」
「ばいばいきーん!」
言って、あずさは走り去って行った。
僕も自転車に跨って学校を目指す。現在は8:05を過ぎたあたり。
HRまでは余裕があるけど少し急ぎ目にペダルを漕ぎだした。