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やみつき  作者: 虹ぱぱ
2月14日
2/9

2話:目覚めと朝食

ぴぴぴ・・・・


携帯にセットしたアラームがなった。6:45。それが僕がいつも起きる時間だ。

ここ最近に日課に加わった桜花さんの写真に挨拶をする。

「おはよう」

たった1枚の写真。つい衝動的に撮ってしまった1枚。隠し撮りみたいな真似は失礼だとわかっていたけど気付いたら撮っていた。本当に衝動的だった。申し訳ない気持ちはもちろんあった。が、桜花さんの写真はこの1枚だけ。この1枚を現像して飾りたい欲求に勝てなかった。

彼女の名前は桜花(おうか)みつき。僕と同じ高校に通う、同じクラスの女学生だ。決して親しいわけではない。所詮は片思いだ。だけどこんな気持ちは初めてだった。保育園の先生や隣の席に座る女の子に憧れたり、興味を覚えたりももちろんあったが。成人向けの雑誌やそういったことへの興味ももちろんある。けど、彼女への気持ちははっきりと違うのだ。これが恋かと。世界が違った。

彼女は完璧なのだ。隙がない。隙はあるのだろうがそれすらも彼女の魅力でしかない。

容姿は可憐で整っている。ぱっちりとした大きな目。笑えば可愛く、物思いに耽れば美しい。少女特有の愛らしさを持ち、女性特有の美を備えていた。

性格は控えめで温厚。けど芯が強く凛とした所も見せる。隙がないかと思えばドジを踏む。ドジを踏んだ後の彼女も可愛らしいが、同じドジを踏まないように努力をする彼女の姿が健気で愛らしい。

成績に運動も文句なし。頭がいいが努力をする。運動も苦手な科目も努力で克服する。そもそも運動のセンスがいいのだろう。彼女の努力を才能と切ってしまいたくはないけれど。

こんな娘は裏がありそうなものだ。演技だろうと。僕も女の子にそこまで幻想を抱いている訳じゃない。

だけど彼女は違うのだ。表だけしかないのだ。

高嶺の花だとわかっている。けどそれでも。好きなのだ。


挨拶をして制服に着替える。洗面所へ行き身支度を整える。彼女を好きになってからは寝癖にも気を使っている。


次は台所へと向かう。制服を汚さないようにエプロンを身につける。家庭科の授業で作った、自前のちょっと不格好なエプロンだ。家の中でまで気を張る必要はない。


フライパンを熱しておく。その間に食パンを3枚、トースターに放り込んでおく。熱くなっているフライパンに油を軽くひいて卵を3個割り入れる。底面を軽く焼いたら水を入れて蓋をする。半熟でないとうるさいやつがいるのだ。


水分が飛ぶまでのわずかな時間で濃い目に入れたインスタントのコーヒーと牛乳を2つテーブルに置いておく。昨日の晩に晩飯の残りで作った弁当を3つ包んでおく。中身は鮭の切り身と卵焼き。ほうれん草のおひたしと薄味だが出汁のきいた炊き込みご飯。


それらの準備をしつつ気にかけていた目玉焼きを火からあげる。

3枚の皿にトーストと半熟の目玉焼きをそれぞれ並べる。これもテーブルに並べておく。


母さんを起こしに行く。母さんは看護師だ。しっかりと高給ではないが安定した職で女で一つで僕を養ってくれている。働いている母さんの変わりにせめてしているのがご飯の用意。他の家事は分担してやっている。

「母さん。ご飯ができたよ。」

「ぅぅーん。せめてあと、あの朝日がもう一度沈んで登るまで・・・・」

「そんなことしたら日付変わっちゃうよ」

いつものお決まりのセリフ。いつも通りの朝。

「冷めるから早くね。」

「ふぁーいぃ」

あくびをしながら返事をした。


ぴんぽーん。かちゃかちゃ。がちゃっ。


突撃!隣の朝ごはんの迷惑な人が来た。

いつも思うんだけど返事も待たずに勝手に合鍵で開けてくる癖になんでチャイムを鳴らすのだろう。鳴らしたい年頃なのだろうか。


あの鐘を鳴らすのはあなた~


歌いながら不法侵入者が現れた。

「おはよう。ヒデ。」

「おはよう。あずにゃん。」


「あずにゃんゆうなっしー!!」

怒りながら梨汁のようなものをかけてくる。「ぶしゃぁぁぁあ!」っと叫びながら。

女子高生としては品位にかける。叫んでいる時の顔が実に残念な感じだ。元はいいと思うんだが。

元々ロングのツインテールだったが某国民的アニメのコスプレ?と名前もあってからかわれる事が多かったらしく、今ではばっさり髪を切った。「ふふん。失恋は女を成長させるんだよ・・・」とかニヒルに言っていたけど。「ふぅん。そっか。頑張れよ」と言ったら(´・ω・`)とした顔をしていた。そもそもあずさから浮いた話は不思議と聞かない。学校も違うし色々あるのかもしれないが。もてそうだしな。顔も運動神経もいいし。こいつ女子高だけど。

彼氏がいるならいるで僕の家にこれほど毎日、無防備に不法侵入しないだろうと思う。


「今日のあっさごっはん!はーなに?」

朝からテンション高い。真秀(まひで)あずさ。僕の幼馴染だ。

「なんだよぉ!またパンかよ!たまには米が食べたい!」

ただ飯喰らいが偉そうに。あずさは米派だ。僕も米は好きだけど朝はパン派だ。

「主食はパンの方が脚が長くなるらしいぞ?」

「マジで!これ以上長くなったらデルモになれるじゃん!目指せんじゃん!ひゃっほぅ!でも無理か。ヒデはいつも朝パンだけど・・・・無理かぁ・・・」

朝からテンションがマジでうざい。憎めない愛嬌があるけれど。俺の脚を見て無念そうに呟く。

なにがデルモだ。若干、死語じゃないのか?まあ黙ってれば可愛いのは認めるけど。

「うざくないし!死語でないし!・・・っ可愛いって!やんっ♪てか、黙ってなくても可愛いし!しゃーっ!」

声に出してたようだ。百面相しながらなんか言っては最後に威嚇してくる。

「おはよう。ヒデ。あずさ。」

母さんがようやく起きてきたようだ。上はババシャツ。その裾をパンツにインするひどいスタイルだった。

「おはよう!おばさん!おふぉ!そのはりのあるカモシカのようなおみ足がまぶしぃっす!」

光で目をやられた時の仕草をしている。下はパンツ一丁だ。足ももろだしだ。けどあのひどい恰好を先に突っ込めよ。

「遺伝子の神秘!ヒデの脚は無念なのに!おばさんはパーフェクツ!それに比べてヒデはホントに・・・本当にヒデは・・・・(´・ω・`)」

いい加減黙れ。誰の脚が無念だ!こらぁ!こっち見んなっ!


母さんも席に着いたのでご飯を食べる。

「「「いただきます」」」


トーストを齧りつつ目玉焼きに醤油を少し垂らす。目玉焼きの食べ方はうちでは不可侵領域だ。

僕は醤油派。母さんはソース派。あずさはケチャップ派。僕にとっての目玉焼きは醤油一択だ。ソースもケチャップも邪道だ。ありえない。母さんのババシャツインパンツくらいありえない。心が荒む。こういう時は桜花さんだ。桜花さんの事を考えよう。桜花さんがババシャツインパンツ・・・・・。っは!なんて邪な事を僕は!ごめん!桜花さんと心の中であやまる。

・・・・でもありだな・・・・。彼女は何をやっても天使だ。女神だ。

僕は心を平穏になるように努力しながら朝食を摂る。

「ぱんふぉいけふな!」

あずさが口にものを詰めたまましゃべる。ちなみに「パンもいけるな!」だ。流石につき合いが長いのでその程度はわかった。こいつのおかげで女に過度の幻想を抱いていない。こいつのおかげだ。

「こら。食べたまましゃべるな。」

母さんに注意されている。こいつは同じ失敗を何度も繰り返す。単細胞なやつだ。

「ふぁい。ごめんなさいぃ」

黙々と食べる。僕もあずさも育ち盛りの高校生だ。すぐに平らげた。


時計を確認する。7:50。学校は8:45からHRが始まる。学校までは30分程で着ける。調度いい時間だ。あずさは違う学校なのでもう少しかかるはずだが、、、。僕と途中まで一緒でそこから全力ダッシュでギリでセウトらしい。セーフかアウトかはっきりとして欲しい。もう少し早く出ればいいのに。

「じゃあそろそろ行ってくるよ。いってきます」

「おばさんいってきます!」

「ああ。いってらっしゃい。チョコを食い過ぎて鼻血だすなよー」


コーヒーを啜りながら答える母さんの言葉を背に僕らは玄関に向かう。

「ははっ」

どうしようもない気持ちの時に出る笑いがある。目が笑っていない。ただ「ははっ」っと。

チョコを食い過ぎれるリア充なんて死ねばいい。朝から深く傷つけられた。

母さんが続ける。

「お前じゃないよ。あずさちゃんだよ!」

「ぶふぉ!先輩に(スール)にされちまうぜぇ!」

言葉は凶器だ。そんな事を考えながら靴を履いて玄関を出る。


そう。今日は2月14日のバレンタインデーだ。



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