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ミドルフェイズ(1)

■ミドル1「合流」


▼インタールード


GM:では、ミドルフェイズに突入ですね。ゾンビ襲撃事件の翌日となります。


アザリン:できれば早めに合流したいんだぜー。あたしだけ施療院と無関係でぼっちだ。


イガラ:お互いが持ってる情報を交換する必要もあるしな。


アザリン:それに、ドラマ特技があるから、特にイガラとターニャのふたりは一緒に行動した方が【因果力】の上がりもいいはずだし。


紫焔:あー。「あとは若いお二人で」みたいな?


一同:(笑)


GM:そうですね、各々の情報を持って合流してもらいます。場所としては、〈円卓会議〉の冒険者斡旋所の会議室がいいですかね?


紫焔:シーンプレイヤーは誰かな?


GM:(しばし悩む)シーンプレイヤーはアザリンちゃん。受付嬢との軽い会話の後、会議室に移動してもらって、他の3名は先にそこで集まっていた、という感じのシーンでどうでしょう?


アザリン:でも時系列的にあたしが一番先にアキバに着いてるはずじゃないの?


GM:……それもそうですね。3人が集まって通された先にアザリンちゃんにしましょうか。


アザリン:他の3人次第かな? どう?


紫焔:それでOKですよ。


ターニャ:了解でーす。


イガラ:よかろう。行け(顔の前で手を組む例のポーズ)。


GM:流動的になると思いますが、最終的に〈円卓会議〉からゾンビ事件の解決について依頼を受け、皆さんがパーティとして行動するあたりに落ち着けたいところです。


一同:はい。


アザリン:着地点さえ決めておけば問題ないと思うな。


GM:ではシーンを始めます。軽く描写を入れますので、その直後に登場してもらいます。




▼シーン開始


 〈冒険者斡旋所〉。

 〈円卓会議〉が発足した早いうちから整備された施設だ。

 アキバの〈冒険者〉たちが、日々の仕事を求める先であり、有事の際には問題解決の窓口になる場所である。今もエントランスやロビーでは、多くの〈冒険者〉や職員でにぎわっている。

 その喧騒から少し離れた場所。あなたたちは建物の奥側にある応接室に招かれていた。施療院のことで焦る気持ちを抑え、テーブルの上で湯気を立てるお茶の香りで何とか心を落ち着ける。


アザリン:「おいすー! あんたらが来るのを待ってたんだぜぇーい!」 そこに現れたのは……中学生めいた容姿に豊満なバストを備えた合法ロリメイド狐娘、という属性盛り過ぎて訳のわからないことになっているキメラめいた冒険者であった!


ターニャ:「お……おい、すー?」


アザリン:「んとさー、〈ロカの施療院〉のことを訊きたいんだけどさー、ぶっちゃけどうなのさー?」


イガラ:「どうって言われてもなあ……」


ターニャ:「ぶ、ぶっちゃけ……」 アザリンのノリに戸惑いつつも、昨夜起こったことを伝えます。いわゆる、かくかくしかじか。特に何かを隠したりはしないです。


アザリン:「んー、なるほどなるほどー。だいたいわかったかなー。……たぶん」


ターニャ:「……たぶん?」 小首かしげ。


アザリン:「……たぶん(こくり)。順を追って説明しよっか?」


紫焔:「そうだな。説明を頼む」


アザリン:「あたしはアザリン。〈円卓会議〉から「さまよえる滅都の鍵」っていうアイテムの捜索を依頼されたソロの〈付与術師〉なんだぜ!」


イガラ:「さまよえる鍵……なんだそれ?」


アザリン:「あたしもしらなーい。なんかすごいヤバイ級のアイテムだから探してこい、って言われたくらいしかー。あたしが知ってるのは、その鍵をミナミの商人が手に入れてこっちに持ち込んだらしいっていう話と、西の方で街ひとつが丸々消滅したって事件があって、その事件に鍵が関係してるらしいってとこまでだよー」


イガラ:「はぁ!? 街が一個まるごと!?」


ターニャ:「街が……壊滅……っ!?」口元に手を当てて驚く。


紫焔:「なんという……」と言ったきり絶句。


アザリン:「そんで〈ロカの施療院〉の話と合わせると……鍵の効果でゾンビがいっぱい出てきて街おしまい、って流れなんじゃないかなーって」


ターニャ:「そんな……」 考えたくもない光景を想像してしまう。


アザリン:「たまたま街が壊滅して、たまたま〈ロカの施療院〉にゾンビがいっぱいわいただけかもしんないけど」


イガラ:「たしかにそういうことは無いとはいえないけどよ……」


アザリン:「でも、施療院みたいな施設って、モンスターが出現しないゾーンでしょ? 別のゾーンから引っ張ってきたとかならともかく、その場でわくなんて普通ありえないし……。少なくとも、何か異常なことが起きてるっていうのは、確かなんじゃないかなー? どうかなー?」


イガラ:「無関係という方がヘン、ってことか」


ターニャ:「……イベントなら、きっと解決する方法もあるはずです」


紫焔:(アザリンの勢いに押されながら)「ウ、ウム……。ならば話は早い。その商人を確保して、話を聞くべきだな。それから、イベントそのものについても調べた方がいいかもしれない」


アザリン:「調べたら全然関係ありませんでしたーってオチかもしんないけど……それは実際に調べてから考えればいいし、まずどうするー?」


紫焔:「良かろう! 私も手伝おうではないか!ファハハハハ!」


アザリン:「おーう、ノリがいいなー! でも、いいのかー? あたしとしては、ただの鍵探しのはずがこーんなでっかい話になっちゃって、このまま一人でどうにかしろとか絶対無理ゲーだから、手伝ってくれると正直助かるんだけどさー」


紫焔:「何を言う、アザリン君! この紫焔が解決するに相応しい事件ではないか! それに、施療院にいる子供たちも心配だしな!」


アザリン:ターニャは?


ターニャ:「正直言って、こわいです……逃げ出してしまいたくなるくらい……。でも、ここで逃げ出したら、わたし……きっと一生、後悔しつづけることになるから……」


アザリン:(つらそうな様子のターニャを見て)「んー、そんな深刻に考えなくても、あたしら〈冒険者〉は不死身だから失敗してやられてもどうってことないし、ダメ元で気楽にやればいいんじゃないかなあー? まあ、そんなにしんどいなら無理に手伝ってくれなくてもいいんだぜー?」


ターニャ:「〈冒険者〉じゃない〈大地人〉のみんなは、そうはいかないもの……」


アザリン:「ふーん……なんかワケアリっぽいね」 一瞬だけ思慮深そうな顔になるが、すぐ元

のテンションに戻って。「おーう! そっちのサムライボーイはどうするー?」


イガラ:「一旦関わったのに報告だけしてハイさようなら、ってのもさ。街とか消えたら後々問題だろ。そういうのはよくない」 まぁ、その……。ほら。ターニャのこともあるし。


一同:(笑)


 ベテランプレイヤーが集まった今回のセッション。ただ初顔合わせのメンバーもいるので心配もあったが、そんな気遣い無用とばかりの雑談シーンでした。ミドル1でのメンバー合流もなめらかにお互いの掛け合いで話が進む。一応保険で斡旋所の受付嬢とかも設定したが出番無し。アザリンがサポートに入ってパーティの合流成功。

 非常に盛り上がった反面、この先のマスタリングでも、さらにギアを上げなければならないと決意を新たにする。ふふふ、今回のシナリオは結構難易度が高いのだ!


アザリン:「じゃ、ここにいるあたしたちでどうにかするってことでいいのかー?」


紫焔:「よかろう! ドーンときたまえ!」


ターニャ:「……はいっ」 イガラと、紫焔に視線をやって、表情をやわらげる。


アザリン:「よーうし! じゃあ即席寄せ集めパーティの結成だなー!」


イガラ:「見ての通り、武士のイガラだ」


ターニャ:「ターニャです。……パーティーを組むのは久しぶりですけれど、よろしくお願いします」ぺこり。


紫焔:「改めて名乗ろう。私は紫焔。“あの”紫焔だ。大船……いや、旗艦に乗ったつもりでいたまえ! ファハハハハ!」


アザリン:「ようし! じゃあ時間も限られてるし、さっそく出かけようぜぇー! ほら、はやくはやくー!」と言って駆け出してく。


GM:と、パーティができあがったところでシーンを閉じましょうか。


一同:はーい!






■ミドル2「鍵の正体と満月」


▼インタールード


GM:アザリンちゃんよかったですね。皆さんシーンプレイヤ―の時は遠慮なくガンガンどうぞ。これくらいきてどんとこいですよ! 次のシーンは、えーっと。情報収集になります。


紫焔:いわゆるリサーチだな。……むぅ、紫焔はあんまり得意じゃないんだ。


GM:「さまよえる滅都の鍵について」「鍵が関係するイベントについて」「鍵を持っているだろう商人について」……この3項目が調べられます。


イガラ:ふむふむ。


GM:今回は1つの項目につき、全員1回まで判定可能です。


ターニャ:キーワードごとに判定を行ない、その結果で情報が得られるかが決まるのですね。


アザリン:シーンプレイヤーは誰がやるの? あ、あたしはパスね。さっきやって疲れたから……じゃなくて、一人でシーンを独占し続けるのはよくないからね!(笑)


イガラ:シーンプレイヤーは、何か演出プランがある人がいれば、その人がいいんじゃないかな。


紫焔:なら、ギルド会館で聞き込み&付属の資料室で調べ物、という感じでどうでしょう?


アザリン:いいね!


イガラ:任せろ、手先を使う行動以外なら少なくとも不得手ではない。


GM:はいな、では、そんな感じで行きましょう。簡単な描写のあと全員で判定を振って行く感じで。


一同:おー!


GM:では、シーンを始めましょうか。




▼シーン開始


 アキバのギルド会館にある一室。「資料室」と手作りのプレートが掛けられた広めの部屋がある。日々集められる様々な情報が山と積み上げられた部屋だ。

 情報を提供する者や求める者、それに受け答えする職員が入り混じる。専門の職員が整理をしていくが、ものすごい勢いで棚が資料で埋もれていく。

 大声で騒ぐ者こそいないが、粛々と作業をする部屋特有の張りつめた緊張感があった。


紫焔:「ウム。職員君、案内ありがとう。さて諸君、さっそく調査開始だ!ファハ…」 といつもの高笑いを上げようとして、「……シーッ!」(指を口に当てる仕草)


ターニャ:それをみて、くすくすと笑う。


紫焔:「さて、イベント関連はこの辺りかな?」


GM:はい、棚に何冊ものノートや綴じられた書類がドドーンと。そしてイベント関係のコーナーですが、部屋の半分近くを占めています。


イガラ:「あんま整理されてないみたいだな……。こいつは骨だ」


ターニャ:「……がんばりましょう」


GM:まず、「さまよえる滅都の鍵について」について、[知識判定]を振ってください。難易度は8です。イベントアイテムについては情報が少し整理されているようですね。


ターニャ:(ダイスを振る)5と6だから、2を足して13。


紫焔:こちらは9。なんと! 成功したぞ! シーンプレイヤー、すなわち主人公だからだな。


GM:成功した? では……「さまよえる滅都の鍵」についてわかりますね。呪いのレアアイテム。使用すると、野外ゾーンの任意の場所に限定ダンジョン〈レッドムーンの滅都〉へ続く門を設置できる。ダンジョンへは鍵の持ち主とそのパーティしか進入できない――というアイテムです。


イガラ:ああ。MMOなんかでありがちな、限定ダンジョンへの入場アイテムなんだな。


紫焔:クリスマス限定フィールドとか。


イガラ:そうそう、サンタさんがダンジョンへの転移をしてくれる。


紫焔:で、中には限定アイテム宝箱があるダンジョンとか!


イガラ:待ち受ける敵は……豚の臓物を振り回すブラックサンタだ!!


GM:なんでスプラッタに行くんですか!?


イガラ:そして抗議が殺到し、幻のイベントとなったという。


一同:(笑)。


GM:まったくもう。続けて「鍵が関係するイベントについて」の調査をしましょうか。同じく知識判定で、今度は難易度10となります。


紫焔:(ダイスを振る)8ですね。失敗。まぁ、主人公だからな。


イガラ:イェッス! 5と6に2を足して13!


紫焔:お見事!「おぉ、そこの山にあったかね」


イガラ:「名前さえわかっちまえば意外と楽なもんだな」


GM:イガラが成功しましたか。イベント名は『赤き月と孤独の王』。「さまよえる滅都の鍵」を使うことで開始され、〈レッドムーンの滅都〉の最奥ゾーンに存在するパーティー級エネミーのボスを倒すとクリアです。またイベント中は夜間、鍵を使用したゾーンにゾンビ系エネミーが出現し、その数は満月に近づくほど増加します。

 なお満月の真夜中になると、ボスはレイド級エネミーにパワーアップして門外に出現し、ゾーン情報が変更されるほどの壊滅的な被害を出します――と、今回の状況にドンピシャなイベントを発見しました。


イガラ:「街が消えたってのは多分これだよな」


ターニャ:「みたいですね……」


アザリン:「なるほどなー、そういうアイテムだったのかー。……ねえねえ、満月まであと何日あるんだ??」


紫焔:「っ!? そうだ、満月まであと……!」 えーっと――何日ですか、GM?


一同:(笑)


GM:満月は明日ですね。今日はすでに昼を回っています。


ターニャ:「目の前じゃないですか!?」


一同:(悲鳴)


アザリン:「タイムリミット明日の夜かあ……やばくね? ねえこれやばくね?」


紫焔:「まずいぞ……。早く鍵を持っているという商人を探さねば!」


GM:というあたりで、一度シーンを閉じて次に行きましょう。






■ミドル3「商人の行方」


▼インタールード


GM:情報収集としては、あと「鍵を持っているだろう商人について」が残っています。


ターニャ:商人だから、商店街あたりで聞き込みです?


紫焔:そうですね。


アザリン:聞き込みなら全員でまとめて動いても効率悪いだろー。分かれて行動して、何かあれば念話しよう。


ターニャ:念話便利ですよね。では、手分けして探すかたちで。


GM:はい。では、そんな感じで行きましょう。シーンプレイヤーはターニャさんで行きましょうか。


ターニャ:はいですっ。




▼シーン開始


 アキバの市場は、いつも通りの活気に満ちていた。

 〈冒険者〉特製の甘いデザートを売る露店やモンスターから手に入れたレアアイテムを売る露店。その隣では〈大地人〉の農夫がゴザの上に野菜を広げて売っている。

 甘いデザートを楽しむ少女たちやレアアイテムを値切ろうとする剣士、真剣に野菜を吟味する料理人。様々な店や客、多くの人でにぎわっている。


GM:ターニャさん、登場どうぞ。


ターニャ:「とにかく、どんどん聞きこみをしていこう……」 きょろきょろ。「すみませーん」


GM(農夫):「ん? これは〈冒険者〉さん、なんだい?」


ターニャ:「こんな感じの商人さんを探してるんですけれど……。見かけませんでした?」 と、懐から〈円卓会議〉のほうで用意してもらった似顔絵を取り出して聞き込みをします。


GM:難易度は13ね。やや高めだから。


ターニャ:(ダイスを振る)2と6で8で……あ、+3だから11です。失敗ですね! (悩む)……うーん、ここは【因果力】で振り直します! 今度は14。成功!


紫焔:ダイス目優秀だなあ。羨ましいなあ。


イガラ:いや、ふり直してるから。ちゃんと失敗してるから(笑)


一同:(笑)


GM:それじゃあ、農夫が気になる人物の話をしてくれます。昨日の夕暮れ、ミナミの方からリヒトという中年の〈大地人〉が、やけに厳重な護送で積荷とともに〈アキバの街〉やってきたようです。彼は露店を広げるでも商談をするわけでもなく、〈踊る小鳥亭〉という宿に引き籠っているらしいです。


ターニャ:「ありがとうございます。また今度、寄らせていただきますね」 ぺこりと農夫さんに一礼して、『みなさん、商人の情報を掴みました!』 急ぎ足で歩きながら念話でみんなに連絡を入れます。


紫焔:『おぉターニャ君、上首尾ではないか! ファハハハハハ!』


イガラ:『意外と早かったな』


アザリン:『おーう。で、この後どうするんだー?』


ターニャ:「行商人はリヒトという名前で、〈踊る小鳥亭〉という宿に篭っているようです。合流して、そのまま向かいましょう」


GM:じゃあ、その辺りで日が暮れ始めます。受付嬢の方から連絡も入りますね。『施療院への護衛の増援と補給の手配は完了しました。患者を守る体制も整っています。用意ができているだけ、昨晩よりは落ち着いて対応できると思います』


アザリン:『夜になったらヤバそうだなあ。またゾンビが出てくるんだろぉー?』


GM:あともう1つ。ボスについての情報です。『滅都のボスとして、〈”孤独の王”ジェ=ガン〉という凶悪なエネミーの情報が確認されました。厄介なのは、その周囲にある墓石のオブジェクトで、放っておくとボスを強化するうえに、雑魚エネミーを延々ポップするようです』


ターニャ:「孤独の王……」


GM:というあたりで、一度閉じて今後の方向性について相談を兼ねて、次のシーンのインタールードにします。






■ミドル4「守りたいもの」


▼インタールード


GM:順調に情報収集が終わりました。ナイスプレイです!


イガラ:ターニャが頑張ってたな。


ターニャ:わたしだけじゃなくって、紫焔さんも頑張っていましたよ。


紫焔:にぎやかしてただけです(笑)。


アザリン:えーと、これで情報は全部出た?


GM:まとめてみましょうか。今回の原因は「さまよえる滅都の鍵」というアイテムによって引き起こされています。これを止めるためには「さまよえる滅都の鍵」を持って、ダンジョンに挑んでボスを倒すか、満月を待って出てくるボスを倒すかする必要があります。


アザリン:元々のイベント的にはボスが外に出てくるの待って倒しても一応成功だよね?


紫焔:イベントをクリアするだけならば。しかしそのやり方では周囲に壊滅的な被害を出してしまう……。


ターニャ:今回はそれじゃだめです。施療院を壊滅させるわけには……!


GM:ボスが外に出てくるまで待つ場合、多数の手下を復活させてから侵攻してくるでしょうから、〈冒険者〉はともかく多くの〈大地人〉の犠牲者が出るでしょうね。


イガラ:タイムリミットまでに鍵を手に入れて、ダンジョン攻略するしかないようだな。


ターニャ:(強くうなずく)


アザリン:あーっと! それと、次のシーンの相談する前に、大事なことがあるんだぜー。特技の〈スクライング〉を使いたい! こいつは名前がわかってれば〈エネミー識別〉ができるすごい特技だ! 〈“孤独の王”ジェ=ガン〉を対象に〈エネミー識別〉するぜー!


ターニャ:すっごい便利じゃないですか!?


紫焔:おぉ! 重要だ!


GM:うわ、ほんとだ、そんな特技持ってるのか。


 インタールードはシーンに対するさまざまな準備を行なえるタイミングでもある。一行は〈スクライング〉の魔法で、敵の正体を探ってみることにした。判定は成功! 今回のボスエネミー〈“孤独の王”ジェ=ガン〉は非常に強力であり、しかもその特技〈我は死者の王〉は脅威である。早い時期に情報を渡した方が事故が少ないとは思っていたが、プレイヤーに機先を制されることに。

 しかし、ここでGMにも誤算が。〈“孤独の王”ジェ=ガン〉のデータには、彼の部下の名前も記入されていたのだ。イガラのめざとい指摘により、次シーンで〈滅都の近衛兵〉のデータも〈スクライング〉されてしまう。


GM:〈滅都の近衛兵〉……あー! 芋づる式に名前が!!


 〈“孤独の王”ジェ=ガン〉について意見を交換するプレイヤーたち。ダメージ出力が大きいのに頭を抱える。おまけに、どうやら謎の墓石なるオブジェクトも存在するようだ。トラップのあるMAPでの戦闘らしい。

 先述したジェ=ガンの特技〈我は死者の王〉と、〈滅都の近衛兵〉の特技〈王への献身〉を分析した結果、雑魚である〈滅都の近衛兵〉がジェ=ガンに接触して自らの身を捧げる([戦闘不能]になる)と、ジェ=ガンはさらに追加の行動を行なえるようになり、攻撃のダメージも+15点されるという鬼畜仕様と判明。うなるプレイヤーたち。はははは。おののくがいい! プレイヤーたちが頭を悩ませている時って、GMはニコニコ見守るしかないのだ!

 プレイヤーたちは先行きの相談をしている間に、ミドルのシーンの準備をするGM。至福のひとときである。クライマックス戦闘については何となく形が判明しつつも、当面の問題として、商人リヒトから鍵を入手しなければならない。


GM:次に現在「さまよえる滅都の鍵」を持っているのは行商人のリヒト。まぁ、接触方法は色々あると思いますが。さて、どうしたものでしょうね?


 ここでふたたび相談を開始するプレイヤーたち。買い取る、交渉する、戦って奪うなど、いろいろな方法がある。相談はかなり雑談に浸食されたのだが、参戦型ドラマ特技〈高潔の白〉に「交渉系」の効果がそろっていたことが決め手となり、まずは説得してみようということになった。


アザリン:やっぱり、きちんと「お話」をして、「平和的に」解決するのが一番だよね!!


イガラ:アザリンが言うと怖いな。


アザリン:「心の底から鍵を譲りたい」って思って頂けるように交渉しよう!!


紫焔:……なんだろう、この拭い切れない一抹の不安(笑)。交渉系はシロエとレイネシアのふた

つあるようだが、どっち使う?


イガラ:〈大地人〉相手なら、レイネシア姫のほうがインパクトあるんじゃないかな。


ターニャ:〈大地人〉のお姫様ですからね。


 レイネシアは、原作に登場する〈大地人〉の統治機構〈自由都市同盟イースタル〉に所属する伯爵家の令嬢です。

 絶世の美貌と高い地位を持ちながらも周囲に流されて生きるばかりのお姫様……だったはずなのですが、とある事件をきっかけに〈冒険者〉と〈大地人〉の架け橋としての役目を演じることになり、そのまま〈大地人〉の大使としてアキバの街に滞在しています。

 イースタルの冬薔薇とも称えられる彼女。そのカリスマは特に〈大地人〉に対して無類の影響力を持ち、彼女の「お願い」を断れる者はまずいません。その存在は〈大地人〉であるリヒトを相手にした交渉において絶好の切り札と言えるでしょう。


アザリン:[交渉判定]に+1Dもらえるし、よさそうだな! あ、それにレイネシアちゃんの効果には〔要請シーン〕の追加効果があるから、これはシーンを要請すべきかな!


GM:はい、その場合、必然的にシーンプレイヤーはアザリンちゃんになります。


紫焔:あ、なるほど。そういうことになるのか。


ターニャ:アザリンちゃん、おねがいします!


アザリン:流れ的には「商人の名前と居場所がわかった」だから、こっちから乗り込んでいけるんだけど……お姫様を連れてそこらの宿屋に押しかけるのも不自然だよね?


紫焔:すると、呼び出し?


アザリン:レイネシアちゃんに「西方の何か珍しいものとかないかしら?(チラッチラッ」とか言わせて、美味しい商売ができると思わせて、呼び出してもらおうぜー。


紫焔:新手の美人局だ……(笑)。


アザリン:で、「そういうシーンを要請する」って宣言すればいいんだな?


GM:シーン要請はそういうルールです。ばっちりな運用ですね!


一同:(笑)


ターニャ:あ、あのあの。ちょっといいですか?


アザリン:どした?


ターニャ:アザリンちゃんのシーンの直前、どこか適当な場所……レイネシア邸の空いてる客間あたりで、ターニャとイガラが話すシーンがやりたいんです。


GM:おお、ドラマ特技によるシーン要請ですね。


 しかし、ここでちょっと予定変更。ターニャからの提案で、ひとつシーンを挟むことに。こちらもドラマ特技効果による交流シーン。クライマックスを盛り上げるために必要とターニャは判断したようだ。『ログ・ホライズンTRPG』初めての割に、非常に手慣れたプレイと言えるだろう。


ターニャ:イガラは自分から付き添ってくれてもいいし、アザリンちゃんが商人の出迎え準備をしている間ふたりで、でもいいですし。


アザリン:おー。ふたりっきりのシーンかー。なんか甘酸っぱい感じだな!


GM:ふむふむ。イガラさんはOKですー?


イガラ:いいんじゃないかな。俺たちふたりは、交渉の絡め手とか苦手そうだし。


GM:アザリンさん、それでいいかな? 割り込みになっちゃいますけれど。


アザリン:そっちの方が面白くなりそうだし、いいよ。ガンガンやっちゃって(笑)。


GM:オーバーチュアは、ターニャさん主導で?


ターニャ:はい、いけます。がんばります!


イガラ:初シーン要請かな? いってみよう!




▼シーン開始


 レイネシア邸の客室で、席について俯いているターニャ。

 アザリンや屋敷のメイドたちが、〈大地人〉商人リヒトを迎える準備をする中、手伝えることもないターニャとイガラは、中庭の見える部屋で迫り来る夜を恐れながらもじっと自分を落ち着かせていた。

 沈黙が部屋を支配するなか、細い声でターニャは、過去の事件について話し出す。

「……まだ〈大災害〉から間もない頃の話です」

 言葉がこぼれ落ちるように、呟く。

「先の見えない不安に困惑し、絶望していたわたしは、ある日、あてもなく街を彷徨い歩いていました。ぼんやりしていたわたしは、石に躓いて、転んで……。その拍子に、泣きだしてしまいました。そんなわたしに、心配そうに声をかけてくれたのが、〈大地人〉の少女でした。優しい言葉とともに差し出された彼女の小さな手は、とても暖かくて……。それから少し話をして……『甘いものを食べると、元気が出るよ』と、笑顔で彼女がくれたりんごは、それまで食べたどんなものよりも、美味しくて……。わたしには、彼女が……〈大地人〉がただのNPCだなんて、思えませんでした」


イガラ:「りんごだから、味があるんだな」 とピントのずれた相槌を打つ。


ターニャ:「そうですね……当時のわたしには、そんなこともわからなかったけれど……。それから数日後、ギルドメンバーからイベントの誘いがありました。簡単な戦闘訓練ということでした。――イベントの達成は二の次で、弱めのエネミーが数多く出るものから適当に選ばれたようです」


イガラ:…………。


ターニャ:「……イベントの内容は『エネミーに囚われた〈大地人〉を救い出す』。イベントの達成には、なるべくエネミーに気付かれないように行動することが要求されるものでした。……わたしはギルドマスターに、〈大地人〉を助けようってお願いしました。でも、だめでした。『それでは戦闘訓練にならんだろう』って。おかしなものを見るような目でわたしを見て……。エネミーと戦闘訓練を繰り返すわたしたちの元へ、少女の悲鳴がとどきました……」


イガラ:無言で顔をしかめる。


ターニャ:「数日前、わたしを元気づけてくれたあの少女が、無残な姿で横たわっていました。わたしの手の中で、暖かかったはずの彼女の手はどんどん冷たくなっていって――助けてあげてって言ったのに! わたしたちには、それができたはずなのに……!」


ターニャ:「……泣き崩れるわたしを見下ろして、ギルドマスターは冷たく言い放ちました。『馬鹿馬鹿しい……所詮はNPCだろう?』と……。彼は呆れ果てたような表情を浮かべ、ギルドメンバーを連れて、わたしを置き去りにしました。その後のことは、よく覚えていません……気がつくと、そこは〈大神殿〉で、わたしはギルドから除名されていました」


イガラ:「――俺は、昔からソロプレイヤーでな。おかげで、〈大災害〉が起きたときは途方に暮れたよ。あてにできるやつが誰もいなくなってるんだ。ちょっといざこざがあった所も多かったしよ。だから一人で野良モンスターと戦ったりしたんだが、そこで大失敗してな。そんなにレベルが変わらない奴に突っ込んでって、見事に死んじまった。全然勝手が違った。だからそいつらを責める気には、俺はあまりなれない」


ターニャ:涙を拭いながら、イガラの言葉に耳を傾ける。


イガラ:「多分なんかでわかってたんだろ、勝手が違うって。俺はそれで一回死んだ。死ぬのはやばい。特に殺されるのは」


ターニャ:イガラの言葉に、頷く。ターニャもあの時、一度『死んだ』から、わかる。


イガラ:「いっぺん死んでみりゃ判るが、それも薦められないし。だからそういうもんなんだろう。そんな余裕はなかった。少なくともあの時は」


ターニャ:「……わたしは、あの時のことを悔いていました。なにもできなかった、自分自身の至らなさを」


イガラ:「それで施療院か」


ターニャ:イガラの言葉に頷く。「わたしは〈ロカの施療院〉で働くことを希望しました。ここで〈大地人〉と〈冒険者〉の架け橋になるんだって。だからあの時は嬉しかったです」


イガラ:「俺は……大したことはしてねえよ」


ターニャ:「わたしは、〈ロカの施療院〉が大好きです。そこで過ごす、みんなが大好きなんです。だから……おねがいします。〈ロカの施療院〉(みんなをいやすばしょ)を守るために、あなたの力を貸してください」 ここでドラマ特技:〈彼方からの言霊〉を使用。対象はイガラ。


GM:特技の使用を了承。〈ほころびを手繰る〉と〈白銀の守護者〉のどっちをわたしますか?


イガラ:白銀が欲しいかな、ここは。


ターニャ:〈白銀の守護者〉で。要請シーンなので取得コストはなし。わたしの【因果力】が2点増えますね。


GM:いいですね! もう一言二言でシーンを切りましょうか。


イガラ:「俺だって守りたいもののひとつくらい、あったさ。最初にも言ったけど、乗りかかった船だしな。何より、あそこにいたのは、ターニャだけじゃない」


ターニャ:「そうでしたね……。ありがとうございます」


GM:それでは、リヒトが屋敷に到着したというメイドたちの知らせで、シーンを閉じますね。


 さて、とうとう炸裂した「シーン要請」によるシーン。今回ターニャは、PC1であるイガラとの掛け合いシーンを望んだ。ヒロイン力の強いターニャは、ここで絆を演出すると共に、クライマックスへ向けて戦力の充実(ドラマ特技の受け渡し)を図る。

 リプレイの文章だとわかりづらいが、このシーンでは冒頭の状況描写からターニャが語り、仕切っている。おそらくこのためにイメージの準備もバッチリしていたのだろう。見事なマスタリング(?)に本家GMもたじたじ。ターニャの過去に対する後悔が、つづくシーンへの伏線になっているあたり素晴らしいプレイングだ。








※情報収集シーン

 この頃はまだ「シネマティックシーン」「アブストラクションシーン」といったシーンの種類分けやそのルール定義、運用方法などが存在していなかった。そのため、単なる情報収集シーンにもこうして細かいシーン定義を行い、演出やロールプレイを入れながらの進行……つまり、全てのシーンを現在で言うシネマティックシーンとして進行していた。

 今のルールなら、こういった単純な技能判定だけで終わる情報収集シーンは、アブストラクションシーンとして簡単に済ませた方が、GM&プレイヤーの労力やプレイ時間を軽減できていいんじゃないかなーと思いました。


※〈スクライング〉

 前述したように、この頃のルールはまだシーンに関するルールが未整備で、「ブリーフィングシーン」の概念も無かった。[準備]特技の使用などもすべてインタールードで処理するルールだったため、このリプレイでは〈スクライング〉をインタールードで使用する流れになっている。さすがに何でもかんでもインタールードに詰め込み過ぎでしたねこの当時のルール。

 現在のルールなら、敵の名前が判った段階でインタールードでシーン提案を行い、〈スクライング〉を使用して情報を調べるためのアブストラクションシーンを作ってもらう、というのが無難な展開かなあ。

 それはそうと、〈スクライング〉はこうした事前の情報収集で敵の情報が得られるタイプのシナリオでは猛威を奮う特技です(そういう意図でデザインされた特技です)。情報収集や事前準備の段階で、カッコよく活躍できるチャンスが得られる特技なので、おすすめ。[偵察]特技とセットで運用するのもいい感じですぞ。


※〈彼方からの言霊〉

 絆型ドラマ特技。巫女型ヒロインに配布される。対象に〈ほころびを手繰る〉と〈白銀の守護者〉のふたつのうちひとつを選んで取得させる。


※〈ほころびを手繰る〉

 〈彼方からの言霊〉で他者に与えられる効果のひとつ。今回は使用されなかったが、他者の判定をふり直させる強力な効果。


※〈白銀の守護者〉

 〈彼方からの言霊〉で他者に与えられる効果のひとつ。乙女の祈りはあらゆる災厄を遠ざけ、縁を結んだ対象は1回だけあらゆるダメージを無効化する。





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