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君に咲く花

作者: 七草せり
掲載日:2014/04/15

どんな風に、時を過ごしてきたのだろう。


彼女の面影さえ、多分浮かばない……。



両手をのばし、幸せの時間だけ待っていたのに。


現実が邪魔をした。

夢を壊した。



高校生、十七の時から五年が経ち、僕はいくらか大人になった。


大学四年。


この春に進級し、半年が経とうとしている。


冬が近づくにつれ、何故だか彼女を思い出す……。



思えば僕たちは、いつから心が離れていって

しまったのだろう。


いつからか、別々の道を歩き始め、時と共に離れていった。



そんな理由さえ、時間が消し去る。



大学の教室、講義に耳を傾けず、ぼーっと

窓際の席で、窓の外の枯れ木の枝の葉が

風に揺られるのを眺めていた。



教授の声は、まるで子守唄。



「神里有紀夜! 」



突然名前を呼ばれた。


驚き、思わず立ち上がった。



教授の睨む顔が目に飛び込む。



「何をぼさっとしてるんだ。 あー、 この問いを答えなさい」



いきなり名前を呼ばれ、ホワイトボードに

書かれた問題を解くはめに。



教科書を慌ててめくる。



今はどのページなのか。



ぼーっとしていた僕には分かる訳ない……。



あたふたしていると、すっと隣から開かれた教科書が……。



何とか教授の問いに答えられ、僕は気が抜けた。



授業が終わり、僕は隣の人にお礼をしようと思った。


確か隣に座っていたのは女の子のはず。



教室を去ろうとする隣の子を、急ぎ追いかけた。



「あ、あの! さっきはありがとう」



僕の呼びかけに、女の子が振り向いた。



「別に……」



僕をじっと見つめ、そう言った……。



「あ……」



僕はその子の顔を見て、一瞬止まった。




「る、るか……」



高校を卒業し、別々の道を選び、心が離れていってしまった相手が、目の前にいる。



別の大学に通う瑠花が、何故……?



「貴方って、 ほんっとボケてる人ね! 隣とか、見ない訳?」



僕の物凄い驚きをよそに、まくし立てた。



「あ、 えーと。 だって……。 何で?」



完全にまとまらない。



「全く……。 相変わらずね」



そう言うと行ってしまった。



「ちょっと! 待って!」



僕は瑠花を追いかけた。



瑠花は不機嫌そうに立ち止まり


「何か、 ご用ですか?」



他人行儀。



「えーと、 あ、 お茶! お茶でも……」



瑠花を前にすると、自信がなくなる。


いつもこうだ。



自分に自信が持てなくて、言える言葉さえも

呑み込んでしまう……。



だから、手放してしまった。




「悪いけど。 私忙しいの。 さようなら」



振り返り、行ってしまう。



こんな時でさえ、僕は引き留められない。



「ごめん……」 彼女に言った。



何に対してのごめんなんだか。



彼女はその場を後にした。



僕は振り返り、彼女を背に歩き出す。




「だから! だから貴方はバカなのよ!」



突然、後ろで叫び声がした。



「え……?」



その声に、僕は振り返る。



目の前に、肩を震わせ、スカートを強く握りしめた彼女がうつむき立っていた。



僕は駆け寄り、彼女の肩を咄嗟に掴んだ。



彼女の顔を覗きこむ。


目から溢れる涙。



いつも笑っていたのに。

いつも僕を叱ってばかりだったのに。



初めて見る、彼女の涙。



「貴方はいつもそう。 肝心な言葉なんて、

言った事ないし。 私の事、 引き留めたりしないし。 ほんっとバカな奴……」



かすれた小さな声で、優しく僕をなじる。



そうだよ。その通りだ。



僕たちが別れる時だって、何も言えなくて……。



大切なのに、どうしてだろう。手放して。



彼女の気持ちも聞かず、別れを選んだ。



僕の幼さや、自信のなさが引き離した。



強く彼女の肩を掴む。



また同じ事を繰り返すの?



繰り返す?



もう、失いたくないから。繰り返さない。



「もう一度……。 あの時からやり直しできないかな」



都合のいい言葉だけど、言わないまま後悔したくない。



自分の気持ちを伝えたい。



高校時代。言えなくて、自分の情けなさが

まとわりついた。



「もっと早くいいなさいよ。いつまで待たせるの? 」



彼女の手が、僕の背中に回る。



幼い二人。



不器用な僕。



ゆっくり、大人になれたら。



十七の時の様に、懐かしい気持ちが蘇る。

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