表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

きまぐれ短編しう

友人その一と友人その二の、噛み合ってるんだか、ないんだか、な話。

作者: 小池

 これは、私は仕事を恋人にして生きるの、というよくわからない宣言をしている友人その一と、まさに趣味を恋人に生きる自由奔放な友人その二の、よくわからない会話の全容である。




「恋愛小説を読んでるとさ、この野郎モゲロ! って思う時と、振られてしまえって思う時があるんだけど。最終的にこいつらくっつくんだろうなぁ~と予想してその通りになるとホッとするのはなぜだと思う?」


「それは作者のテクニックにうまく翻弄されているからではないか? ひどい男をよりひどく書くのが作家というものだよ。創作とは得てしてそういうもの」


「でもさ、お約束を踏襲しているように見えて、実は!みたいな読者を裏切るものがあってもいいのに」


「劇的な展開を用意しているなら、結局はお約束の域を脱していないのでは? いや、今は何気ない日常とやらを題材に書く者も多いな。非日常性だけが物語の売りという訳でもないのか」


「私は恋愛したいときには、そういう話読まないんだけど。いや、恋愛したい時がないから私の本棚は満員御礼状態なんだわ」


「フィクションに何を求めるのか。確かに重要な問題だ。刺激、癒し……現実の生活から逃れる非日常のスパイスとしての役割……もしくは」


「でも、ときどきドロッドロのメロドラマとか見たくなるんだけど、やっぱり純愛系に帰ってきちゃうのよねえ」




友人その一はジュースをすすりながら、窓の外を眺める。でもガジガジとストローを噛んでしまうのは、友人その一の悪い癖だ。直してほしい。わたしは和風ステーキ定食をほおばりながら、二人の会話を黙って聞いている。




「個人の趣向というのはそう簡単には変わらない。習慣と同じで、いつもと違うことをしようとすると途轍もなく疲れる。新境地の開拓とは実はかなりの重労働だよ」


「だってえ、嫌になるんだもん、ルーチンワークが。……それにいつまでも夢見てるような気になるし、大人になれよ自分、みたいな?」


「フィクションと現実の区別がつかなくなるからと、テレビやゲームを忌避する人がいるが、私に言わせると詭弁だな。人間は簡単に現実を捨てることはできない。ただの言い訳だよ、原因はそこじゃない」


「ええー。でも子供っぽくない?」


「空想と現実をごっちゃにしている人間は、空想に現実が追い付かないことに憤る。大人が児童文学読んでいても、面白いで終わっているうちはただの本好き」


「でもでも、恋愛小説好きって言ったら欲求不満なの? って言われた。どう思う?」


「ミステリー好きが、殺人現場に居合わせたいと願うわけではないだろう? ハラハラドキドキ感を感じるのにどの系統を用いるか、という違いでしかない。恋愛も殺人もどちらも興奮するものだ。心理戦という面でも両者は似ているな。推理小説でも読んでみたらどうだ」


「ミステリー系は苦手なのよねぇ。頭使うのが」


「何を言うか。恋愛小説など、策謀と心理戦を駆使する、非常に頭脳を回転させるものではないか。私は君から借りた小説で熱を出しそうになったぞ」


「あれは、気軽に読むもんなの。頭使うもんじゃないの」


「バカなことを……相手の考えのみならず、自分の心理状態度を洞察し続けるのだ。そして、次に打つ手を考える。時には大胆に、時には手の内を隠して……究極の頭脳戦だな」




感心したように手に持っている小説を眺めている。タイトルは夏目漱石の「それから」。友人その二にとっては、それも恋愛小説枠なのだろうか。

わたしは和風ステーキ定食を食べ終え、チョコレートパフェの攻略に取り掛かっている。パフェを運んできた店員さんは、なんだか微妙な笑顔だった。わたしたちはよほど変人に見えたようだ。わたしは普通なのに。



「まったく。いつも難しい本ばっかり読んでるから、そんな思考回路になるの。もっと単純に考えれば?」


「私は基本、思っていることをそのまま口に出す人間だ。自分に正直に生きているつもりだよ。難しく考えたことなどないと断言しよう。思考回路はいたって単純だ」


「本当かしら、あなたって告白の言葉も回りくどく言いそうなのに」


「心外だな。誰よりも率直に、情熱的な告白をするぞ、私は」


「四文字で終わる?」


「そうだ、よく知ってるじゃないか。その四文字こそが大切なのだよ。どれだけ言葉を重ねたとて、取るに足らない。重要なのは四文字の言葉に込めた心のほうだ」


「普段は淡白で、まわりくどくて、よく口が回るくせに……」


「純情なのだ」


「そうね、まあ可愛いところもあるじゃないって……思っちゃったのよねぇ」




パフェの最後の一口を口に運んでいたころ、友人二人の会話は一区切りついていたらしい。隣から放たれるオーラに充てられていると、いつも付き合わされる事実に嫌気がさす。わたしいらないじゃん。よそでやれ。頬を膨らませて不機嫌顔をつくりながら、ふたりに言ってやった。





「お前らもう、結婚しちゃえよ」

これ恋愛のジャンルに投稿してもいいのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ